第2話 じゅーじゃん!

「よお、武村!今からジュージャンしねぇ?」

同じ班の松本が、俺に声をかけて来た。

ジュージャンとは『ジュースジャンケン』の略称。

2人以上でジャンケンをし、一番負けた者が全員のジュースを奢るという自衛隊でしか盛り上がれないゲームなのだ。

因みに、今は座学の合間の休憩時間。

教官の区隊長は喫煙者なので、いつもより休憩が長い。

「よっしゃ、やるか!で、他の面子は?」


自販機の前には中島、芹澤、中谷がいた。

「おぉ〜、武村2士も参戦かぁ。悪いね、俺はスポエネでいいからさ〜。」

もう勝った気でいるのは芹澤だ。こいつは俺の1コ上なのだが、いつも上から目線な口調なのだ。前回、前々回と俺に勝ってるからか、余裕をみせつけている。ちっ。

「僕本当に給料日前でお金がないんだけど・・・」

不安そうな表情で現状を訴えるのは、面子の中で最年少の中谷。給料の殆どを共済の口座に貯金してる彼は、滅多に外出をしない。

故に、所持金も微々たるものなのだ。面子も中谷より年上ばかりだから、強くは断れなかったのだろう。気の毒に。

「大丈夫だよ中谷。勝ちゃあ良いんだって。負けたら俺が金貸してやっからw」

無責任な事を言って慰めた気になってる中島は、基本5人以上のジュージャンしか参戦しない。ジュージャンは人数が多ければ多いほど生存率が上がる。中島は自分が生き残る確率が高い戦闘しかしないのだ。

「今日は暑くね?ってことで、今回はチョットいつもと違うヤツをやりたいんだけど」

ジュージャン言い出しっぺの松本が、ジュース以外をチョイスしたいらしい。・・・何かイヤな予感がする。

「別に良いけど、何を賭けるよ?」

「うーんとぉ、ハーゲンダッツw」


「「ハーゲンダッツゥ!!??」」


松本以外、みんな一斉にアイスクリーム会社の名前を叫んだ。

ハーゲンダッツはPXで売っているアイスの中でも、一際値段が高い。負けたら千円以上は確実に飛ぶシロモノなのだ。

「・・・・・・・」

共済に貯金をして、確実に人生設計を立てている中谷は、庶民的なジュージャンをギャンブル性の高いハーゲンダッツジャンケンへと昇華させた松本を、信じられないという表情で見ていた。

「おもしれぇ、やってやんよ。勝ちゃ良いんだろ?勝ちゃ」

勝ち戦しかしない中島は、ヤル気満々だ。案外早死するかもしれないなコイツ。

「いやぁ、なんか悪いなあ。武村2士、ちゃんと金持ってる?負けても俺貸さないからね」

芹澤うるせえ。

「早速いくぜ!ジャンケン!」

全員の意思を確認する隙も与えず、松本はハーゲンダッツジャンケンを開始した!

「・・ッポン!」

パー1、グー2、チョキ2。

「あっぶね!ありがとう松本2士。お前のパーで助かったよ!」

チョキだった中島は、苦々しく自分の掌を睨みつけてる松本に、心の底から礼を言った。

「中島死ね!ジャンケン!」

松本はまたしても間髪入れずに再開した。こいつは不意打ちしか出来ないのか。しかし、幾ら小細工しようと変えられない運命もある。

「・・・ポン!っあぁ!?」

パー3、チョキ2。

勝ったのは中谷と中島。やはり人には「死ね」とか言ってはならないのだ。(人を呪わば穴二つ)の通り、自分に跳ね返って来るのだから。

「良かった〜。なんとか勝てて」

心の底から安堵しているのは中谷だ。運命の神様ってのは、案外真面目な奴にはイタズラしないのかも知れん。

残ったのは俺と松本、それに芹澤。松本はともかく、芹澤には一矢報いたい。チョット俺にジャンケンで勝ってるからって、調子に乗ってるからな。

「武ちゃ〜ん。俺、グーを出そうと思うんだけど、どうかな?いや、チョキ?まさかのパー?迷っちゃうなー」

ほらな。やはり奴には一撃を与えねば!

「次で終わりだ!ジャンケン・・・」





「ありがとうございました〜!」

PXのおばちゃんは100万ドルの笑顔。当たり前だ。俺がハーゲンダッツを5個も買ったのだから。そう、俺は負けたのだ。案の定、芹澤は

「こうなる予感はしてたんだよ。もう武ちゃんはジャンケン控えた方がいいって。あ、俺クッキー&クリームねw」

とか俺の神経を逆撫でするし、

「僕、アイス苦手だから買わなくて良いよ」

って年下の中谷には気を遣われるし、全くもって最悪だ。

PXのおばちゃんにスプーンを付けるか聞かれたが、悔しいので貰わない(勿論俺の分は受領)事にした。

みんなどうやって食うのか楽しみだ。

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