陸上自衛官の日常
たけざわ かつや
第1話 日常のはじまり。
青い空には、海鳥が「にゃー、にゃー」と鳴きながら飛んでいる。
ここは海が近いので、時折潮の香りが風に乗ってくる事もある。
その反対側からは、人々が生活している音。車だったり、通園する幼稚園児たちの元気な声だったり。
文字通りの『日常』が、壁一枚の向こう側で流れている。
断っておくが、ここは刑務所ではない。・・・いや、近い性質はあるのだが、とりあえず否定しておこう。
ぴゅーーーーーぅぅっ・・・どぅん!
砲弾が落下した音だ!
俺は、倒れるようにその場に伏せた。
直後に、シュタタタタアァン!と、機関銃の射撃音が辺りに木霊する。
伏せたまま、近くにいる他の同期たちを確認する。因みに、俺は『敵』からの射撃を受けているので、頭を上げることが出来ない!
一番近く(2メートルくらい?って、近すぎるわ!)の赤城は、俺の右後方で伏せていた。
「おーい、赤城ぃ!無事かぁ!?」
「異状なーし!」
大声で返答してるし、大丈夫なようだ。小声では、この砲弾の炸裂音と絶え間ない射撃音の中では聞こえないからな。
赤城から更に右後方、顔が見えないが体格的に・・・中谷か?
「中谷ぃ!居たら返事しろ!」
「中谷2士現在地!」
中谷は顔を上げてこちらを向きながら、その存在を俺に知らせた。
「バカヤロォ!砲弾落下中に頭上げんじゃねぇ!!」
眼鏡がずれてアホ面になっている中谷は、慌てて顔を地面にくっつけた。
相変わらず、『敵』からの攻撃は続いている。いい加減、止まないものかなと思っていると、前方より
「第1班!これより班長の線まで前へ!」
と、上条3曹からの指示が聞こえた。
俺は、後ろにいる赤城と中谷に班長からの指示をそのまま大声で伝えると、二人とも
「了解!」
と返事し、移動の体勢を取り始めた。
俺も第3匍匐で、示された線まで移動を開始した。
この第3匍匐というのは、左肘を地面につけて比較的低い姿勢で移動できる前進方法だが、如何せん肘が痛くなりやすい。特に、小石が散らばっている所など、避けようがないからウンザリする。
班長の線まで概ね10メートル。歩けばどうって事のない距離なのだが、『敵』からの攻撃を受けているのでそういう訳にもいかない。
痛い思いをしながらも、何とか上条3曹の元まで到達すると、他の同期たちも少し遅れつつ続々到着した。
それを確認した上条3曹は、ヘトヘトになった俺たちの顔を見ながら次の指示を出す。
「第1班は、これより突撃を行う!現在時、1032(ヒトマルサンニィ)!1034(ヒトマルサンヨン)突撃開始出来るがごとく準備せよ!」
俺たちは、言われるがまま突撃の準備を始めた。
ガチャガチャとロクヨン(64式小銃)の弾倉を交換し、銃剣も銃口に着剣する。
時計を見ると、1034まであと30秒ほどある。
深呼吸をし、すぐに起き上がれる体勢を取る。あと、15秒。
14・13・12・11・10・・・と、頭の中でカウントしていると突然、何者かが俺の右足を掴んだ!
え、何?誰?俺、これから突撃するんだけど?
「こおらぁ、武村ぁ!お前は死んでるのに、何を突撃しようとしてんだぁ!」
声のする方を見ると、俺の右足をガッチリ掴んだ松木2曹(レンジャー)がいた。
「突撃ぃ!」
班長の命令と同時に、同期たちはこれまた同時に起き上がり、
「わあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
と、一斉に突撃を開始した。
「武村。お前は皆が第4匍匐で前進してる中、第3匍匐だったろう?なに手ぇ抜いてんだ?」
松木2曹は、第3より更に姿勢が低い(=ツラい)第4で行かなかった事がお気に召さなかったようだ。
「お前だけ突撃やり直しだ!スタート位置まで戻れやぁ!」
俺はズルズルと開始線まで引きずられて行く。鬼の形相をした、松木2曹によって。
「ま、マジっすかあああぁぁぁぁぁぁ!!」
・・・ここは、陸上自衛隊のとある駐屯地。その、とある普通科部隊。
『世間』とは違う、陸上自衛官の日常のお話。
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