第38話 FTC!FTC! 第1想定
せも・・せも・・せも・・。
霜柱が立つ北富士演習場の地を踏みつけながら、武村の小隊は演習道を進んでいた。澄み渡る青空だが、もうじき正午になるというのに気温はマイナス1度。
隊員たちは私物と官品を駆使して重ね着してるので、普段よりモコモコした体格に見える(天然素材の人もいるが・・)。
小隊は小高い丘の手前で停止し現在地を探る。隊員たちは停止後速やかに分散して草むらに隠れ、周囲を警戒する。
いつもより着込んでいると行進間は暑くて脱ぎたくなってしまうが、止まると今度は一気に寒くなるので待機時間はなるべく短い方がありがたかった。
「これで何回目の停止だ?実は迷ってんじゃないか?」
「さ~・・、
分隊長に情けない自信を述べる武村は、手のひらをグーパーしてかじかまないようにしていた。
「小隊長、戸松3尉だろ?確かBOC(初級幹部課程)から戻って来たばかりだよな」
「えぇ、先月小隊でお帰り会やったばかりです」
「ひえぇ、まだ小隊長の仕事も分かってないのにもうFTCで小隊長やらせるとか、人使いが荒いというか・・」
戸松3尉はというと、武村たちの心配をよそに高台の上に登って小隊陸曹と地図を片手に周囲を探っていた。小隊はちょうどくぼ地の下にいるので日が当たらず、身体が冷え始めたので隊員たちは小銃を構えながら前進の合図を心待ちにしていた。
そんな時だった。
ぴゅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~・・・・・ドオオオォン!!
砲弾落下を知らせる
「砲弾落下ぁ!!」 「砲弾落下っ!!」
「砲弾落下!!!!」
「砲弾落下!」
「その場に伏せぇ!!」
「
霜がまだ溶け切っていない地面に顔をこすり付けるように這いつくばり、頬が冷たく感じるのも構わず砲弾をやり過ごす小隊の隊員たち。
武村は地面の冷たさよりも擬砲煙が近くて焚かれるので、その爆音の煩さにうっとおしさを感じていた。
ドーーーーン
ドーーーーーーーン
ドドーーーーーーーーーーン
被弾しまいとバッタの様に地面と同化する隊員たちに、状況開始前に着装したバトラーが『ピーーーー』『ピピーーーーー』と無情にも負傷を知らせる警告音を発する。音が聞こえた隊員は胸元にあるモニターをのぞき確認する。
『120M
シボウ』
『120M
ジュウショウ』
武村も音がした気がしてモニターを見るが、使用されている火器の表示
【120M(120mm迫撃砲)】以外は何も書かれていなかったので安堵。
・・もつかの間。
「戸松3尉死亡!戸松3尉死亡!・・・小隊陸曹も死亡!!」
先程の高台で現在地を確認していた小隊長と小隊陸曹が揃って天に召されてしまい、小隊に動揺が走った。
まさかと思ったのか、何人かの隊員が顔を上げると、またしてもバトラーの音が木霊する。
『89R
シボウ』
「小隊!敵スナイパー!顔を上げるな!!」
迫撃砲の集中砲火が止んだと思ったら、今度は敵の狙撃手が動かない武村たちを狩り始めた。隊員たちは素早く身を起こすと、木や岩陰に隠れてスナイパーの襲撃を躱す。
それから数分経ち、襲撃を知らせる音がバトラーが聞こえなくなった頃、小隊の隊員たちは被害の状況を確認し始めた。
「あれ、平本・・・」
「すんません、戦線離脱です」
平本の頭部に付けられたモニターには
『89R
トウブ
シボウ』
と表示されていた。
「お前、頭吹っ飛ばされてるじゃないか!」
「えぇ、敵は凄腕のスナイパーのようです」
これを・・と平本が武村に手渡したのは、30発入り弾倉3つだった。
「これで、自分の仇を取ってください」
「おー任しとけ!・・そのポケットのタバコも貰っとこうか?」
「武村士長・・・戦死した後輩から何もかも奪う気ですか?」
死亡(重傷から死亡になった者含め)した隊員は全部で5名。
戸松3尉
上村曹長
和田3曹
平本士長
岡村士長
生き残った隊員は死亡した隊員から武器を回収し、それぞれ弾薬を補充する。
「平本が死んだから、奴の
「・・・あざーす」
全く有難く思ってない安部は、小銃を死亡した平本に預け、84をよいしょと背負う。顔は明らかにぶー垂れていた。
ここは北富士演習場。
まっさらな雪で覆われた富士の裾野で、男たちの熱い戦いが始まった!
「小隊、前へ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます