第34話 メリクリ警衛隊①
コンコン。
「武村士長、入りま~す」
当直室のドアを開けると、パイプ椅子に座った当直陸曹がスマホから目を離して武村に向けた。
「おぉ、武村。外出か?」
武村は敬礼し
「武村士長は、武器庫の鍵の借用に参りました」
「武器庫の鍵・・・あぁ、お前今日警衛上番か?」
そうかそうかと当直陸曹は鍵箱から武器庫の鍵を取り出した。
「ん、上番陸士はお前だけか?」
「いえ、私の他に榎本士長、平本、安部、山木の5名です」
「そうか。よし、俺も立ち会うからちょっと待っとけ」
そう言って当直陸曹は中隊のマイクで「当直士長、当直士長、至急当直室に戻る様に」と呼びだすと、金属製のチェーンが付いた武器庫の鍵をジャラジャラと鳴らしながら当直室を出た。
当直陸曹が
「ほら、これで
小銃は立てかけるように、2列20挺と銃剣もセットで格納できる。1列に2本の金属棒を差し込み、南京錠で施錠するのだ。
武村は警衛隊に上番する陸曹、陸士の名前を小銃の負い紐(スリング)に付いてる名札で確認しながら
「すいません武村士長、遅くなりました」
平本、安部、山木が武器庫に慌ただしく駆け込んできた。
「いや、全然間に合ってるから」
「もう鍵は全部外してあります?」
「うん、あとは銃を出すだけ」
平本が名前を読み上げ、安部が銃と銃剣を取り出して山木が受け取り、武器庫内にある作業台に並べていく。
武村は小火器の整備用具が収められている棚からKUREの【ポリメイト:クリア】と銃口通し(クリーニングロッド)を出し、赤く塗装された四角い缶に亜麻仁油を注いだ。
ウエスを一斗缶から掴み出していると、銃を出し終えた平本たちが作業台に集まって来た。
「じゃあ、俺はこれとこれとこれを」
「これら貰って来ます」
「
各々が銃と銃剣を手に取り、ポリメイトと銃口通しを使って手入れしていく。
ポリメイトは小銃のプラスチック部分を磨き上げるのに適しており、訓練で白く曇った小銃の握把(グリップ)や
銃口通しは先端に布の切れっ端を付け、亜麻仁油に浸してから銃口から差し込んで銃身内の汚れを落とす。
自衛隊服務細則の第128条(警衛勤務者の心得)には、『~その勤務の良否が部隊の規律維持に重大な影響を及ぼし~』とあり、注意すべき事項の中では『服装態度を厳正にすること』と書かれている。
これにより警衛上番者は迷彩服にきっちりアイロンをかけ、
「当直陸曹、銃の整備終わりました」
武村は中隊事務室で書類作業をしていた当直陸曹に声を掛けると、「お疲れさん。俺はこのまま武器庫で点検があるから、お前ら上番できる服装に着替えてからまた来い」と言われたので、他の陸士と共に営内に戻った。
営内には中隊先任士長の榎本士長がベットでマンガを読んでいた。
「お疲れ~」
「榎本士長、銃と銃剣の整備やっときましたから」
「ありがとさん武村」
本来は榎本士長も警衛上番前の武器整備に来るべきなのだが、直前で「わりい武村、トイレ行きたくなっちゃった。先行ってて」という腹痛の申告と、中隊最先任士長(要は古株)という立場が、若手陸士たちも「まぁ、榎本士長のもやっとくか」となり、容認されただけなのだ。
それが面白くない武村は
「いや、やばいっすよ榎本士長。当直陸曹に『あれ、榎本は?』って聞かれたので『トイレです』って答えたら、銃剣抜いて『あの野郎、サボりやがったな~』ってブチ切れてましたよ」
「またまたぁ。俺ぁ騙されないぞ」
「マジですって。なあ、平本?」
「そうっすよ。俺らまで刺されそうな勢いでしたもん」
流れに乗っかる平本に、着替え中の安部と山木は顔を背けてクスクス笑っている。
「・・まぁ、そういう事にしておくよ」
苦笑いしながらも、心の奥底では消化しきれてないのかさっきより表情が暗い。
少しビビらせ過ぎたかな?・・と反省した武村は
「榎本士長!今日は日曜でクリスマスイブっすよ!明るくいきましょう!」
と榎本の肩を叩きフォローするが「それが一番凹むっちゅーねん!俺らイブに警衛やないかい!」と似非関西弁でツッコんできた。
あんた彼女いないだろ・・・。
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