第21話 そうかえん!準備編②
総火演で観客席として構築する階段席。
これは資材は当然民間企業から借用する。そして、設置の指示も民間企業の現場監督が行うのだ。測量の機械を用いて測距し、水糸を張る。
ここまでが現場監督と他の作業員の人たちの仕事。
以降は支援隊たる自衛官が現場監督や作業員から「そこに柱立てて」「違う違う!そうじゃない!」「ここって言ったでしょう!!」と叱咤激励されながら階段席を構築していくのだ。
武村は木箱(弾薬箱を改良したもの)に詰められたラチェットを1本取り出し、ガチャガチャと作動部を回す。
「作動点検、異状なしっと」
今回、武村はボルトの固定を指示された。他の支援員が鉄パイプの支柱と鋼鉄製の足場板を重ね、連結したボルトを締めていく、という内容だ。勿論、その工程に至るまでは資材の搬入や持ち上げの補助といった支援作業は行わなければならないのだが。
支柱に使われる鉄パイプはそれほど重くはないが、足場版は鋼鉄製なので重く、2人組で運ぶとはいえ資材が集積された場所から設置場所までの運搬は疲れる。
おまけにこの時期の暑さが更に追い打ちをかける。演習場には屋根がないので日光からは逃れられないのだ。
「あちい、マジあちい」
「太陽休めよ」
「てか、夏場に総火演なんかすんな」
という隊員たちの悲痛な叫びが聞こえる、かどうかは分からんが、少なくとも武村は心の中で太陽を呪っていた。
「ガッデム。夏の日の大体が曇りなのに、どうして今日だけド快晴やねん」
似非関西弁で夏をdisってみるものの、暑さは変わらない。
せめてもの救いは、資材運搬の往復時に安部1士とすれ違うとき、顔を歪めて舌を斜めに出し、顔芸で暑さを表現しあうのだ。馬鹿馬鹿しいかもしれないが、案外これで気が紛れるのだ。
「ふえぇ、このままだとマジ干からびるな」
往復する列から少し離れ、武村は汗をハンドタオルで拭いながらひと息つく。
おおよそ20代前半の陸士で構成される支援隊。やはり若いからか、多くの陸士は鉄パイプや足場板をひょいひょいと持って歩く。
中には重さ10キロ以上ある足場板を一人で運ぶ者も。
「若さって、いいなぁ」
20代も中盤を終えようとする武村は、年寄りのような感想を漏らす。
「なーにサボってんすか武村士長」
平本は肩に担いだ鉄パイプの束を降ろし、武村の隣に並ぶ。
「いやな、若い陸士がガツガツ運んでるのを見て、スゲーなって思ってたとこ」
「そうっすか?武村士長だって、同じようにやってんじゃないですか」
「同じようには出来てないって。現に今、列中から外れて休んでるし」
「みんな似たようなモンですって。俺だって、武村士長に話しかけるフリして一緒に休んでるわけで・・」
「フリかよ!」
2人同時に笑い出し、気分転換になった所で「支援隊、今から15分間の休憩!」との号令が聞こえ、続けて
「なお、差し入れのアイスがあるので各中隊は受領しに来るように」
おぉ!!と歓声が沸き上がったのだった。
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