第14話 ご注文は怪談ですか?まるひと

 週末、つまり金曜の課業後。

この日の当直室はいつもより賑やかになる。何故か?それは営内の陸士、陸曹が外出する為に多く訪れるからだ。

気の早い者は1700の国旗降下後、中隊長に終礼の挨拶をしたらすぐ外出準備をする。でなければ営内のシャワー室はあっという間に野郎で埋め尽くされ、外出する時間がどんどん遅くなってしまうのだ。


バーン、パタパタパタ。


居室のロッカーが勢いよく閉まる音に早足気味なサンダルの足音。

そんな生活音を聞きながら武村士長は当直室で備え付けられたTVを観ていた。

「みんな、そんなに急いで何処へ行く?」

自分の他は誰もいない当直室で、独り言を呟く。時刻は1720。そろそろ外出の準備が終わった隊員が外出証を受領しに来る時間だ。武村士長は、外出証の収められている容器(鉄製の箱)を壁に掛ける。

「これでよし」

あとは隊員が来たら、問題無ければ外出簿に判を押して外出証を渡してやるだけだ。

「お、武村士長。もう飯食ったか?」

ドアを勢いよく開けながら、当直陸曹の志田3曹が入って来た。

「いえ、まだっす」

「じゃあ、飯食ってこいよ。俺はあとでいいから」

「了解っす。お先に頂きます」


今日は週末という事もあり夕食は弁当だ。月の週末のうち1〜2回の夕食は弁当が糧食班より各中隊に配られる。週末は皆外出してしまい隊員食堂で喫食する隊員が少ないから弁当を、という話だが、どちらかと言うと『365日、土日祝休まず朝から晩まで行動する糧食班が少しでも休むため』の方が正しいのかも知れない。


営内の居室に戻ると武村士長のスタンドロッカーの上には弁当と紙パックのお茶が置かれていた。

被っていた戦闘帽をベットに放り、弾帯を外して弁当を手に取る。

「今日の飯は・・幕の内か」

カリカリとシールを剥がし、弁当のフタを開ける。

居室のTVを観ながらモシャモシャ食べていると、シャワー上がりの安部士長が戻って来た。

「あ、武村士長。お疲れ様です」

「おつー。って、今日は外出しないん?」

「はい。自分、今日は残留っす」

「そっか。明日は出るんだろ?」

「あったりまえっす!点呼終わったと同時に出ますよ!」

「ふーん。じゃ、当直陸曹には『朝の点呼は中隊の朝礼場で是非!』って意見具申しとくかな」

「ちょ、なんでそんな嫌がらせするんすか武村士長!」

「ははw冗談だよ」

と、しょうもない会話をしてるうちに弁当を平らげてしまった。

さて、と。武村士長は戦闘帽と弾帯を手に取り、当直室へ戻ろうとすると「そういえば」と髪を乾かし終えた安部士長。

「自分の同期が今週警衛だったんすけど、夜の外周巡察の時に見ちゃったらしいっすよ」

ドアノブにかけた手を止め、

「・・何を?」

と聞き返す。

「見たって言ったらアレでしょう。・・幽霊っすよ」

「何処で?」

「装軌車門の近くに1本だけ松の木があるじゃないですか。あそこの下あたりに居たらしいっす」

「・・マジで?」

「マジで」

普段は真面目とは程遠い安部士長が、いつになく真剣な眼差しで話す。心なしか辺りが静まり返ってる・・気がする。

「それ本当に幽霊か?ちゃんと誰何したんか?」

「いやいや武村士長。人の形をした、白くボヤ〜っとした奴に『誰か!』なんて言えれませんよ」

「そっかぁ?中隊のホープ、安部士長ならきっと誰何する筈さ。木銃持って、今夜」

「何それ!?まさかの無茶振りっすか」

「同期には次は誰何して返事が無かったら刺、射殺しろって言っとけよw」

なんすか武村士長、ノリ悪いっすねー。というボヤキを聞きながら、武村士長は当直室へ戻るのだった。


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