第004話 悪夢
子供の頃、よく気味の悪い夢を見ることがありました。
夜寝ると、夢の中でも私はベッドに横たわり、眼をつぶっています。
すると、何かが階段を上って、私の部屋に近づいてくるのが聞こえるのです。私は眼をつぶったままじっとして、時間が過ぎるのを待ちます。そうすることで、何も起こらず、無事に過ぎるので・・・・。
足音が私の部屋の前まで来て、ドアを開け、なにかが入ってきます。
それは私の顔をじっと覗き込み、こう言うのです。
「こいつは違う」
いつもここで夢から覚めるのでした。
一度や二度ならいいのですが、この夢を何度も見るようになり、子供心に不気味に思いました。
そして夢を見るのが怖くなりました。この夢以外にも、この頃は悪夢ばかり見ていました。
ある日、両親が旅行に出かけ、自分と、少し年の離れた弟だけが家にいることになったのです。
弟は私になついていたので、私のやることを真似したり、私のものを欲しがったりすることがありました。
たぶんこれもその延長線上だったのでしょう、その日、私と弟は部屋を交換することになりました。
その夜は悪夢を見ることもなく、とてもよく眠ることができました。
翌朝、弟が奇妙なことを言いました。
「なにかが自分の部屋に入ってきて顔を覗き込む夢を見た」
私はそれは「お前は違う」といったのではないか、といいました。
弟は言いました「いや、『お前だ』といわれた」
そんなはずは、と私は思いました。しかし気味が悪かったのでそのまま何も言いませんでした。
一週間後、弟は死にました。交通事故でした。例の夢の話は、両親には告げませんでした。これからも言うことはないでしょう。
それから、私は例の夢を見ることがなくなりました。そのかわり、もうまともな夢を見ることができなくなりました。悪夢と呼ぶには生易しい、身の毛もよだつような恐ろしい夢を見るようになりました。そうして時折、単純で害のない夢を見た話を聞くと、絶望的な気持ちになるのでした。
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