第002話 嘆虎殿

昔、中国のある山に虎の一家がいた。子供が四匹、母親が一匹で洞窟に暮らしていた。ある日、母親が狩に出て、獲物をくわえて帰ってくると、子供たちが一匹残らずいなくなっていた。


昔、中国のあるところに、城主がいた。病になったので、仙人を呼んで診てもらった。曰く、大変重い病状であった。治す為には、100匹の虎の肝を材料にした秘薬が必要だった。一斉に虎狩が始まった。


100匹の虎は集まった。しかし、それだけの虎を集めるために、もっと沢山の人間が犠牲になった。中には、報酬のため、捕まえた子供の虎を奪いあい死んだ人間もいた。城主は仙人の作った薬を飲むと、病はけろりと治った。

一匹の虎がこの城下町に踊り込んだ。20人を殺し、兵士達によって重傷を負った。何十本もの矢が刺さったまま逃げて行方をくらまし、ついぞ見つからなかった。

それからしばらくしたある日、城の中で男が死んだ。大きな獣に引き裂かれたようだった。次の日、城で別の男が死んだ。同じように、大きな獣に襲われたようだった。また次の日、また別の男が死んだ。今度は目撃者がいた。悲鳴を聞いて駆けつけると、虎が逃げてゆくところだったと話した。人々は子を失った虎の呪いだと口々に噂した。


兵士の一人が虎の逃げた方向にある建物で見張りを命じられた。夜もふけた頃、どこからともなくうなり声が聞こえ、虎が襲い掛かってきた。驚くひまもなく、刀を抜くなり男は虎に一太刀浴びせると、虎はどこかへ逃げていった。返り血をふくのも忘れ人を呼びにいき、襲われた事を話すと、大笑いされた。男の服のどこにも返り血などついていなかった。ふざける仲間を説き伏せ、虎を切りつけた場所へ行った。襲われた様子などどこにもなく、床にも血はなかった。再び男は笑い者にされた。


しかし、翌朝建物をくまなく調べると、天井裏から死後何日も経った虎の死体が見つかった。死体は始末されたのだが、いまでも夜になると、子供を探す虎の叫び声がするのだった。このことから、その建物は嘆虎殿と呼ばれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る