退廃思考

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第001話~第010話

第001話 ウサギとカメのその後

カメとのレースに負けてからというもの、兎は落ち着かない日々を過ごし、復讐の機会を狙っていた。


ある日、別の兎がカメに競争を挑んだ。そのウサギは兎の里で2番目に早い足の兎だった。1番はカメに負けたあの兎だ。その競争で、相手の兎はまたしてもカメに敗北した。圧倒的に優勢だったにも関わらず、油断でまたしても負けてしまったのだ。動物の里ではそれ以降兎はカメより遅い動物になった。動物たちはウサギたちを馬鹿にした。道で会ったら舌打ちをし、蹴飛ばして足蹴にした。その敗北からというもの、2度目にカメに負けた兎への仕打ちといったらそれはひどいものだった。兎の里では人々から無視され、陰口をたたかれ、理由のない暴力を受けた。「兎の里恥さらし」「死ね」様々な罵詈雑言を人々はそのウサギに浴びせた。2番目の兎は自殺した。小柄な体にもかかわらず驚異的に足の速いことで周りから賞賛を浴び続けてきた兎族の凋落はここから始まった。キツネに道で出会ったら嬲り殺され、モグラには理由もなく頬を張られ、唾をかけられた。兎族は動物の上位ランクから一気に下層に転落した。兎族はいつも傲慢で、偉そうにしていたので、他の動物たちはこの事件をきっかけに兎を馬鹿にすることを楽しんだ。


ある日、また別の兎がカメに競争を挑んだ。そのウサギは兎の里で三番目に足の速い兎だった。1番は最初にカメに負けたあの兎だ。その競争で、兎はまたしてもカメに敗北した。圧倒的に優勢だったにも関わらず、勝利を確信して途中で眠りこけてしまったのだ。動物の里では兎がカメより遅いという事は当然の事となった。3番目の兎には可愛い恋人がいた。二人とも互いに愛し合っていたが、この競争がきっかけで二人の仲は切り裂かれる事になった。3番目の兎の恋人は、3番目の兎と結婚するつもりだったが、この敗北のあと両親にそれをうち明けたら、激しい反対を受けた。3番目の兎は里一番の恥さらしになった。人望のある男であったのだが、仲間から陰口をたたかれるようになり、彼に対する陰湿ないじめが始まった。彼は耐えていた。辛くても、恋人がいたので嫌がらせなど気にならなかった。ある日、3番目の兎の恋人は、夜道でレイプされた。3番目の兎を馬鹿にする連中の仕業だった。3番目の兎は自殺した。


ある日、また別の兎がカメに競争を挑んだ。そのウサギは兎の里で4番目に足の速い兎だった。1番は最初にカメに負けたあの兎だ。その競争で、兎はまたしてもカメに敗北した。4番目の兎はもうほとんど勝った状態だったにも関わらず、ゴール前で眠っていたので追いつかれたカメに敗北した。動物たちはなぜ足の遅い兎が自分より足の速いカメにいちいち競争を挑むのか分からなかった。身の程をしらない馬鹿ものとして兎たちは扱われた。兎たちは他の動物と道で出会うと、いったん自分が道から出て、他の動物たちが去るまで道に戻ってはいけないようになった。4番目の兎は自分の巣から出なくなった。彼への悪意を家族が一緒になって支えた。しかし、4番目の兎は敗北のあとにすっかり人が変わってしまったようだった。家族がそばによろうとすると、癇癪を起し、母親や妹を殴りつけるようになった。母親たちは彼を怖がり、あるとき彼の元から姿を消した。妹たちに拳を上げるとき彼はいつも泣いていたのだが、母親と妹の怯えはもう彼の苦しみに対する想像力を失ってしまっていた。4番目の兎はしばらく泣き続け、母親と妹がいなくなって3日目に自殺した。


ある日兎がカメに競争を挑んだ。そのウサギは兎の里で1番足の早い兎だった。そう、1番最初にカメに負けたあの兎だ。カメとのレースに負けてからというもの、兎は落ち着かない日々を過ごし、汚名返上の機会を狙っていた。彼は同族たちの陰口や嫌がらせにも耐え、再試合のために黙々と自分を鍛え、備えていた。彼ならもう油断してゴール前で眠りこけたりしないだろう。それに以前よりずっと足は速くなっている。しかしレースは行われなかった。もう動物たちの間で兎がカメより足が遅いのは当たり前のことだった。結果のわかりきった競争をしても意味がないので、競争は行われなかったのだ。1番目の兎は再試合の機会を失った。カメに負けてからの苦労が一瞬で無に帰した。彼は絶望し、再試合の希望を自分で永久に断つことにした。1番目の兎は自殺した。カメは兎より遅いのに、兎はカメより遅かった。

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