第108話 机
ときどき、ふと立ち止まった時の虚無感に、もうこれ以上耐えられないと思うときがある。
今夜はとても静かで、私の大好きな読書にうってつけの素敵な夜だった。読みさしの本を手に取って数ページめくって、本を閉じた。文字が頭に入ってこない。いつか夢の中で読んだ本みたいに、意味をなさない文字列が私の瞼の上を通り抜けていった。さっき読んだときは、あれほど面白い本だと思っていたというのに。さっきまで、私は本を読むのが好きだった。いまは何をするのが好きなのだろうか、分からない。探さなければ……。大きめの机の上には、本と、食べ終わった食器と、財布と、果物が転がっている。とりとめのない思考。もし、これらが何かのヒントだとしたら、一体何を意味しているのだろうか。透明な霧がかかった瞳の中で、時間だけが過ぎてゆく。
普段はこんな事はない。自分が誰かくらい知っているし、自分が何をするべきかだって、もちろん知っている。だけれど、ときどき……本当にときどき、わからなくなる。ふ、っと立ち止まった瞬間に。立ち止まって、辺りを見回した時に。立ち止まって辺りを見回し、自分が孤独だと気付いた時に。何もかもが無駄だったのではないかと思った瞬間に、襲いかかってくる虚無感に、もうこれ以上耐えられないと思うときがある。
今夜は読書にうってつけの素敵な夜だった。机には、読みさしの本と、食べ終わった食器と、財布と、果物が転がっている。椅子の上には、糸の切れた操り人形のように、何も考えず、虚空を見つめたまま、声も上げられず、誰かに助けを求め続ける自分がいる。
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