第096話 猿

ある山に、帽子をかぶったサルがいた。観光客が落としていった帽子か、それとも誰かからひったくったものかは分からなかったが、とにかく帽子をかぶったサルがいた。何匹かの他のサルたちがそれを真似して、帽子をかぶったサルが増えた。


マスメディアが帽子をかぶったサルを記事にした。観光客が訪れ、サルたちに帽子を与える者も多かった。帽子をかぶったサルが増えた。帽子だけではなく、ステッキだったり、洋服だったり、面白がって様々なものを人々はサルに与えた。サルたちは、人間以上に帽子を着こなし、優雅にステッキをついて歩いた。それらを持っていないサルたちは、人間から奪って手に入れた。サルたちは、洋服や、メガネや、靴だったりしたものを身に着け始めた。


サルたちは、何処から盗んできたのか、クワなどの農工具を持ち出して、畑を耕し始めた。サルたちは人間からあらゆるものを盗んだ。比喩的な意味でも、直接的な意味でも。ふもとの集落ではサルの被害が深刻化し、たびたび問題視された。そして、サルを駆除するための計画が立てられた。猟師たちは罠を仕掛け、サルを捕獲した。しばらくすると、サルが罠にかからなくなり、観光客やふもとの人々が罠にかかるようになった。サルたちが猟師の仕掛けた罠を利用して、自分たちの武器として使っていた。こうした行為は次第にエスカレートしていき、猟師も山へ入るたびに帽子をかぶったサルたちに襲撃され、自分たちの仕掛けた罠がサルたちの手にかかり自らに襲い掛かってきた。


あるとき、猟師が猟銃を落とした。あるサルが、奪った銃を使って猟師を撃った。やがて何匹かの他のサルたちがそれを真似して、猟銃を持ったサルが増えた……。

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