第065話 人形市

この街では、年に一度、大規模な市が開かれる、世界中の人形が集まってくるので、いつしか人形市と呼ばれるようになり、市が開かれている数日間だけで、実にたくさんの人形たちが売り買いされるのである。からくり人形、機械人形、セルロイドの人形、アンティークドール、ぬいぐるみ、自動人形・・・ほんとうにたくさんの種類の人形が集まるのである。


お転婆な少女が、素敵な人形を探して市を見て回っていた。かわいらしい洋服を着た人形、ままごとセット、異国風の顔立ちをした人形・・・。色々な人形を見ていた。怪物をかたどった人形を専門に扱っている一角へ来たときには、おもわず回れ右してしまったけれど。


そんな中、ある老婆が売っている、古ぼけた人形たちに目が留まったのだった。

「お婆さん、この人形たちは、どんな人形なの?」少女は尋ねた。

「おや、おじょうちゃん、お目が高いね。この人形たちはね、不思議な人形なのさ」

「どんなふうに不思議なの?」少女は身を乗り出しながら訊く。

「そうさね、この人形はね、自分でしゃべることができるんだよ」そう言うと、老婆は一体の人形を指さした。人形は、少し高い調子の声で、少女に丁寧なあいさつをした。

「でも、こんなこと、他の人形でもできるわ」少女はがっかりした様子で老婆に向きなおった。

「こっちの人形はね、自分で動くことができるんだよ」老婆が人形を指さすと、人形は宙返りや、様々な動きを披露して、最後に少女におじぎをした。

「でも、他の人形はもっとすごいことができるわ」少女は残念そうにしていた。

「こっちの人形は、歌をうたったり、絵を描いたりできるのさ」老婆が自慢げに語った。

「おばあさん、ありがとう、でも、ほかの人形だって、それくらいできるんだから」少女はちょっと困ったような視線を老婆に向け、立ち上がってその場を去ろうとした。少女に見せた人形を片付けながら老婆が呟いた。

「でもね、おじょうちゃん、あんたも人形なんだから、そう贅沢をお言いでないよ」


少女は糸の切れた操り人形みたいに、かしゃり、という乾いた音を立てて地面に倒れ込んだ。それきり、彼女は指一本動かせなくなってしまったのだった。

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