第066話 分裂
さて、もはや、公園へたどり着くことすら非常に困難であると言わざるを得ない。例えば、家を出て、朝日を浴びながらいつもの道順で公園に向かう、道路わきには街路樹があり、小鳥のさえずりが聞こえてくる、そんな世界、それはもう永久に失われてしまった。現在、すべてのものは分裂し、増殖し、恐ろしい速度で拡散し続けている。自分の立っている位置があるとしよう。それ以外のすべてがそこから離れ続けている。もし公園に行く途中で、数分の間、道の真ん中で考え事でもしていたとしよう、すると、たったそれだけの間でも、道幅は際限なく広がり、とんでもない距離を、公園からも自分の家からも離れることになってしまう。
世界は広がり続けている。これは病気なのだ。世界中が罹患した、いまだに治療法の見つかっていない恐ろしい病気。一本の鉛筆が分裂して二本になったあのときから、一人の人間は、ほんとうに一人になり始めた。人間だけでなく机や椅子や路傍の小石も、互いを遠ざけ、距離を取る。拡張は勢いをますます加速し、何もかもが目まぐるしく変わり、誰もが、現実に押し流されるままになってしまった。人々は、今も孤独に耐え続けている。どこか遠く・・・はるか彼方に確かにいる、誰かを想いながら。
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