第064話 さなぎ
私たちは、大人になる前に、さなぎになる。
さなぎになる際には体表から分泌液を出し、それが凝固し外界の刺激から身を守る殻になる。私たちはその殻の形成が終わると、それからこんこんと眠り続けるのである。殻の中では、私たちの体組織が劇的に作り替えられている。
私たちは四角いトレイにまとめて乗せられ、刺激の少ない、湿度や温度が調節された部屋に置かれている。換気のために取り付けられた送風機の振動が、控えめに部屋で響いていた。一人、また一人と、さなぎへの変体を終え、深い眠りへと沈み込んでいった。まださなぎになれていなかった最後の一人、つまり私が、ようやくさなぎへと変わった。送風機の心地よい振動に眠気を促され、私も、次第に意識を失っていった。
部屋の扉が空き、トレイが持ち上げられる。私たちは別の部屋に移された。そこには大きな釜があり、沸騰した薬液で満たされていた。私たちは、荒々しくトレイから放り出され、その釜の中へ投げ込まれた。熱が外殻を一瞬で高温にし、外殻を浸透する薬品が私たちの体を焼く。逃れようと激しくもだえる。もちろん、どこにも逃げ場などない。なす術もなく、断末魔の悲鳴すら上げる事がかなわず、私たちは、生きたまま苦痛に呑まれた。
私たちの意識は、ドロドロの煮汁に溶け、下水に捨てられ、流れていった。私たちの夢の殻だけが残った。そしてそれは、それぞれ違う形をしており、美しく光り輝いていた。
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