第049話 霧
この街から出てゆくための橋は、霧に呑まれ、途中で忽然と消えていた。街中を霧が覆い、視界はごくわずかだ。建物もすべて霧の中で、上まで見えない。ビルの高層階からの眺めも霧しか見えないので、ずいぶん退屈なことだろう。
行き交う人々は防護マスクをしていて、顔が見えない。足を怪我しているわけでもないのに、カタツムリのように緩慢な動きで通りを歩いている。霧の中から、影のように現れ、霧に吸い込まれるように消えてゆく人々。そして、私も、その一人だ。私たちは霧に絡めとられ、身動きできずにいる。自分がどこにいるのかも分からずにいる。この街から出ることが出来ずに彷徨い続けている。
この街には、橋がある。この街から出てゆくための橋は、霧に呑まれ、途中で忽然と消えている。橋は確かに消えているが、もし勇気を出してそこからさらに一歩踏み出せば、もしかしたら霧のその先へ行けるのかもしれない。しかし、どこまで行っても霧の中で、辿り着く先のない橋だったらどうしようかと、私はまだ、踏み出せずにいる。
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