第050話 手紙

十年前の自分から手紙が届いた。ずいぶんと昔に、未来の自分へ宛てて書いたものだった。封をしてから、机の引き出しに入れていたが、引っ越しの際に他の諸々と一緒くたになってしまって、そのままどこかへ行ってしまった。それが今になって出てきたという訳である。封筒には、差出人として、小さな日付と共に私の名前が記されている。この手紙を書いてから、もう十年以上たってしまっていた。私は封を切り、手紙を読み始めた。


手紙では、私が幸せかどうか繰り返し尋ねられていた。ほかにも他愛無いこと、例えば自分の趣味を続けているかということであったり、恋人ができたかであったり、そういった事が私からの問い合わせだった。


十年前の自分は、十年後の私がクズで不幸な人間であると断言していた。社会に必要ない、無意味な人間で、存在する価値がない、死んだ方がいい人間だとまで書かれていた。不愉快だった。自分にさえそのような事を言われる筋合いはなかった。突然過去から手紙を送りつけておいて、私はなんて失礼な奴なんだと思った。私は手紙を破り捨てた。


憤慨しながら、私は昔から非常識な人間だったのだ、と自分に対する悪口を吐き捨てていた。そこでふと私は思い出す。なぜ忘れていたのだろうか。この手紙は、自分が幸福な人間だったら、笑い飛ばして、破いて捨てられるようにと願って書いたことを。もし幸せでなかったら、それでも構わないと、それでも生きてほしいと願って書いたことを。


泣き笑いの表情で、バカだなぁ、私の考えることは、私は昔から本当にバカだったんだなぁ、と、自分に対するよくわからない悪口を呟いた。残念ながら、笑い飛ばして破り捨てる事は出来なかったが、それでも私は救われた。私は便箋を探して、十年前の自分への返事を書き始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る