第027話 渡り鳥

夏、朝の早い時間帯にも関わらず、うだるような暑さで、そこら中から聞こえるセミの叫び声をうっとおしく感じながら、僕は歩いてゆく。あまりに暑いので脱いだ夏用のスーツを小脇に抱え、ワイシャツからむき出しになった腕に、強烈な日差しを受ける。ずっしりとした鞄の重さと、これから始まる一日の忙しさに、思わず眩暈がしてしまうほどだ。


通勤途中、公園に面した道を使うと駅から会社まで近いので、僕はいつもそこを通っている。その公園は、バブル期の開発の名残からか、広々としていて、緑も多い。だから、木々に隠れることで、太陽に睨まれることから少しのあいだ逃れることができて、そのときだけは、汗が心地いいのだ。


朝、公園を通るとき、何人ものホームレスたちが、木陰で涼しそうに寝そべっているのを見る。彼らは、時間に遅れまいとして、ほとんど走るようにして通り過ぎてゆく、僕や、他のサラリーマンとは、まったく別の時間をすごしているみたいで、僕はなんとなく不思議な気持ちになった。急ぐ僕らを尻目に、彼らは悠々と寝返りをうつのだった。


いつからかセミの鳴き声は聞こえなくなり、冬になると、太陽が控えめに遠くから照っていて、代わりに肌を刺すような風が僕らの頬を叩いている。朝、僕はコートに身をうずめるようにして、寒さから少しでも逃れるため、足早に歩いている。


公園を通ると、夏に僕らを日差しから守ってくれた木々は、葉を落とし、静かに揺れていた。ふと、ホームレスたちがいない事に気付く。夏に沢山いたホームレスは、どこへ行ったのだろうか。死んでしまったのだろうか。渡り鳥のように、どこか温かい場所をさがし、遠くへと旅立ったのだろうか。冬を越せる土地は見つかったのだろうか。彼らは、渡り鳥のように自由だったのだろうか。僕は、彼らのように、自由ではない。僕は、もうどこへも飛んでゆくことが出来ない。だから僕は、彼らの未来を、呪う。

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