第024話 首

ある日、喫茶店で居眠りをしていると、待ち合わせに遅れそうな時間まで寝過ごしてしまって、慌てて店を出ることにしたのだが、その時に、他人の首を間違えてつけてきてしまった。急いでいて、注意力散漫になっていた私がもちろん悪いのだが、私の隣で寝ていた男も、いけないのだ。なにせ、自分の首を机の上に置いたまま、寝ているんだから。もし誰かに間違えて持っていかれたら、困ったことになるじゃないか。ちょうど私がそうなってしまったように。


自分の首でないと気づいたのは、しばらく後だった。気づいてからすぐに件の喫茶店に引き返してみたものの、私の首をつけた男は、どこかへ立ち去ってしまっていた。なんという事だろう、長年連れ添ってきた自分の首が、他人に持っていかれるなんて。ひどい災難だ。もっとも、それは相手にとっても同じ事かもしれないが。


警察に届けたところで、無駄骨だろう。今つけているそれはあなた自身の首ですよ、と言われるのが関の山だ。彼らは、探したところで取り違えられた首が見つからないことを知っているからな。首が入れ替わったって、誰も気づかない。当人だって、すぐに忘れてしまうんだろう。夜、眠ったら、久しぶりに夢を見た。この夢は、確かに自分が見た夢だっただろうか?


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