第023話 街

あたりには、肌にまとわりつくような、生温かい風が吹いている。私の叫びは、雑踏の音にかき消されて、誰にも聞こえなかった。


景色は揺れ、人の形をした何かが、歩く私にぶつかる。それは顔もないのに、不気味な笑顔を浮かべていることだけはわかった。


不安が私の心を満たし、心臓を食い破って、私の外へ出ようとする。部屋の静寂は、私を嘲笑っている。電話が鳴り響く。コール音が私の頭痛をひどくかきむしり、部屋の外へと私を引きずり出すのだ。淡々と告げられる事実が、私を打ちのめす。


私の後ろを何かが付いてくる。それはどうやら、何かをもたらしてくれそうだ。たとえ、安らぎであれ、破滅であれ。私は期待を膨らませ、歩みを早める。その日まで。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る