第21話~第30話

第021話 夜の街

夜の街をそぞろ歩いていると、ふとした拍子に見知らぬ路地に迷い込んでしまうことがある。こんな時はたいてい、目的地があるわけではないので、気にせず進む事も少なくない。目にするのは、見知らぬ場所、見知らぬ人、見知らぬ街。夜は、私に対する警戒を解かずに、こちらを見ている。出会う者たちはみな、どこかよそよそしい。時折、気だるそうに車がやってきては、また同じように夜の街へ消えていく。仲間内で笑いあう声も、呆れた酔っぱらいの声も、夜の街の奥深くへ足を踏み入れるにつれて、次第に遠ざかってゆくのだった。


明かりもまばらになり、あたりには私の靴音がするだけだった。夜が私をどこかへ連れていこうとしている。私はそれに促されるまま、暗闇ををさまようのだった。いつしか時間の感覚は薄れ、ただどこかへ向かっているという実感だけがあった。それだけが、私の頼りだった。


私は自分の家に戻って、朝を迎えた。どうやって戻ってきたのか、よく覚えていない。曖昧な記憶を頼りに、昨日歩いたであろう場所に行ってみた。看板や通りには見覚えがある。しかし、これらは、私が昨夜見たものたちとは、すっかり違うものだったのである。

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