第009話 氷の城

旅人が氷の城へやってきた。氷の城は、すべて氷でできている。この荘厳な門も、数々の美しい調度品も、そして、城主さえも。ここは何もかもが凍りついた城だから。


氷の城に女王がいた。美しい女性だった。雪のように白い肌、澄んだ瞳、やさしく包み込むような声。けれど彼女の心は氷のように冷たく、誰一人として触れたものはいない。


その日は吹雪だった。旅人は城へ招待され、夕食をとることになった。珍しい場所を旅してきた彼の話を訊きたいとの、女王の命令だった。旅人は女王を一目見ると、その美しさに魅入られたのだった。夕食は冷たいスープから始まり、デザートはシャーベットだった。旅人は美味しいと思ったが、体の芯から冷えるような晩餐だった。彼が旅してきた、世界の果てについて話したが、女王は興味なさそうな顔で、旅人の話を静かに聞いていた。


その日はしんしんと降りしきる雪だった。旅人は城へ招待され、女王と夕食を共にした。この日も舌をうならせる豪華な料理だったが、同じように底冷えするような食事だった。旅人は、空の上にある国について話した。女王は興味を持たなかったようで、退屈そうにしていた。


その日はそれほど雪も降らず、いつもより少し暖かい日だった。旅人は女王に招待されたので、城で夕食をご一緒することになっていた。この日は、旅人が料理を作って献上した。彼が作ったのは、冬の寒い日、故郷でよく母親が作ってくれた料理だった。氷の女王はそれを口にすると、少し驚いたような顔をして、料理の事を尋ねた。旅人は母が作ってくれた料理について話し、次に彼の故郷について話した。そこは小さな町で、世界の果てにあるわけでもなければ、空にあるわけでもない、普通の街だった。ただ、四季があり、春が来れば花が町全体でみられるようになる。そんな場所だった。ここと違う事といえば、あまり雪が降らないことくらいだった。女王は驚いた。雪が降らない場所があるということに興味を惹かれたようだった。


その日は旅立ちの日だった。氷の国で初めて、雪の降らない日だった。旅人の話に興味を持った氷の女王は、彼が故郷へ帰るのに同行することにしたのだった。旅人は女王の手を取り、城の外へと歩き出した。城の外へ踏み出したとき、氷の女王は溶けて水になった。旅人が振りむくと、そこに氷の女王の姿は無く、氷の城もなかった。いつのまにかまた雪が降り始め、辺りには雪の積もる、静かな音がするだけであった。


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