久しぶり/初めての人の街での生活

第4話

 宿に泊まった翌日、洋太郎は超絶不機嫌と言った表情で服屋の椅子に座っていた。

 シアを連れて彼女の服や下着を買いに来たのだが、自身の買い物と勝手が違うので洋太郎は取り敢えず女性店員に声をかけたのだ。

 少なくとも、同性ならば下手な服を選ばないだろうと思ったからだ。

 だがしかし、最初に声をかけた女性店員は頬を赤くしてシアの服では無く洋太郎の服を勧めてきた。

 洋太郎が既に自身の気に入った服に身を包んでいるので要らないと断っているのに、しつこく食い下がってきたのだ。

 その事に怒声を上げ他の女性店員を連れて来るように言ったのだが、それでもこの店員は話を聞かなかった。

 とんでもない店員に青筋を立てている所に、上品な物腰の女性が現れて店員を下がらせ、二人を奥へ通してくれた。

 今は、その上品な女性がシアの服を見立ててくれているのを待っているところだ。

 程なくして、上品な女性とその助手らしい控えめな女性がシアを連れて来た。

「今日、冒険者登録をするという事を聞きましたので動きやすい服装を中心に選んでみました。それと、下着の方も少々値が張りますがしっかりと良い物を身に着けられた方が良いと思います」

 しっかりとした作りのズボンを穿き、長袖のシャツを着たシア。

 歩きやすい靴を履いており、先ほどまでの洋太郎の大きな外套一枚の姿とは見違えるほどだ。

 髪の方もすっきりと纏められ、襟足まであった髪は綺麗に纏めて布を被せられていた。

 そのように装いを改めたシアは、無言のままじっと洋太郎を見つめている。

 下手な事を言うなと命じられているからだろう。いつも通り無表情にも見えるのだが、洋太郎はなんとなく感想を待っている幼子のような雰囲気を感じた。

 先ほどまでの苛立ちもそんなシアの姿を見て霧散し、洋太郎は苦笑を浮かべる。

「似合うぜ」

 そう言うと、シアの雰囲気がほんのり明るくなる。

 ほんの僅かな変化なので気が付かない人間は気が付かないだろうが、この場に居る人間には感じ取れたようだ。

 上品な女性は柔らかな微笑みを浮かべ、今シアが着ていない見立てた服を数着彼の前に並べる。

 基本的に茶色や黒系統で纏めているが、その中に数着明るい色合いの服がある。

 どれもしっかりした仕立てだが、柔らかい色合いの服はふんわりとしたおしゃれ着だ。

「それと、三着ほどネグリジェをご用意させていただきました。綿なので、お洗濯しやすく肌触りも柔らかい物です」

 更に三着、淡い青や緑に染められた可愛らしいネグリジェまで出され、洋太郎は唖然とする。ネグリジェまで検分させられるとは思わなかったのだ。

「……いいんじゃねぇか」

 なんとか声を絞り出し、洋太郎はなんとなく気恥ずかしい心持になりながら視線を逸らした。

 上品な女性は微笑んだまま嬉し気な返事をして、シアの他の服を畳んでいく。

 その間に、もう一人の女性はその服の値段を計算し紙に記していく。

「こちらが全て計算した金額です」

 そう言って助手の女性が提示した紙を受け取り、洋太郎は頷く。

 紙に記された金額を支払い、差し出された服を受けとった後、洋太郎はむっと唸った。

 シアの分の荷物も洋太郎の背負い袋に入れて構わないのだが、それより彼女個人の鞄があった方が良いと思ったのだ。

 それを見た上品な女性は笑顔で言う。

「もしよろしければ、裏手の魔道具屋の方に行かれてみてはいかがでしょうか。当店と提携しておりますので、冒険者用の道具などを販売しております」

「あんた、商売上手だな」

「ふふ、それほどでも……今後ともご贔屓にしていただければと思い、申し上げただけですわ」

 上品に笑う女性の言葉に洋太郎は嘆息し、頷く。

「有難く、そっちにも行かせてもらうぜ。こいつ用に鞄が欲しいしな」

 購入したシアの服を全部背負い袋に入れ、洋太郎は立ち上がりシアを視線だけで呼ぶ。

 直ぐに意図を察したシアは洋太郎の隣に立ち、じっと彼を見る。

「きちんと礼を言ったか?」

 服を見立ててくれたのだからと問いかけると、シアはゆるく頭を振る。

 しかし、洋太郎の言葉を吟味するように小さく頷き、二人の店員に向かい口を開く。

「ありがとうございます」

 ぺこりと頭を下げて言うと、上品な女性は眦を下げて笑う。

「まぁ、気になさらないでください。仕事ですからね。でも、よろしければまたいらしてくださいね。わたしはこのお店のオーナー兼店長のアニス、お仕立ても承っておりますのでよろしくお願いします」

 店長であるという言葉に洋太郎はなるほどと頷きつつ、生返事をしてさっさと洋太郎は店を出る事にする。

 シアの分の身支度をするのに、まだまだ時間がかかる。ゆっくりしている暇はないのだ。

 洋太郎が寝床から引っ張ってきた外套を再び彼女に着せ、やや速足で店の中を通り抜ける。

 後ろからついてくるシアの足音が小走りなのに気が付き、歩く速度を緩めてシアを待つ。

 シアは隣に並びながら、若干乱れた呼吸を整えていく。

「紹介された魔道具屋に行くぞ。おめーの荷物をしまう鞄も必要だからな」

「洋太郎と同じ機能を持つ鞄ですか?」

「ああ」

 洋太郎がもつ鞄は、品物が無限に入る最高級な物だ。

 入れている物は感覚的に分かり、欲しい物をどこでも取り出せる便利魔道具なのである。

 生きている物を入れる事は出来ないが、中は時間が止まっているらしく新鮮なものはいつまでも新鮮なままだ。

 鞄に付与された魔術は空間属性を持つ魔術らしく、かなり難しい魔術だ。

 扱えたとしても、人並み外れた魔力量を持たねばあっという間に魔力が枯渇して死んでしまう危険な魔術でもある。

 魔道具として付与する術も高難易度なので、無限に物が入る鞄は高級品なのだ。

 この無限鞄の作り手が居るのだが、その人物がどこに居るのかなど全く知られていないし、市場に出る時期も場所もバラバラな為入手が困難な逸品だ。

 洋太郎がこれを手に入れたのはたまたま作り手と知り合い、依頼したからにすぎない。

 同時に、この作り手とその夫によって人の世界のある程度の常識などを叩きこまれたのは嫌な思い出である。

 思わずイラッとした洋太郎だったが、隣を歩くシアが声をかけてきた事でなんとか気を落ち着ける。

「洋太郎、その背負い袋は特級魔道具です。魔道具屋で安易に手に入る物なのですか?」

「いや、売ってりゃ御の字程度だ」

「無い場合は作るという選択肢もありますが、どういたしますか?」

「そうか……って、おい。作れるようなもんじゃねぇだろ」

 洋太郎はシアの言葉を流しかけて、突っ込みを入れる。

 しかし、シアはいつもの無表情で頭を振る。

「私はマスターが出来ぬ事を補佐する為に、魔道具制作などの技術を……」

「往来で話すな!」

 重要な上に、人に知られればまずい秘匿情報をあっさりと話しはじめたシアの口を押さえ、洋太郎は小さな声で咎める。

 シアは洋太郎の言葉に頷き、口を閉じる。

 深い溜息を吐いた洋太郎は取り敢えず、シアの手をひっつかみ告げる。

「今は魔道具屋へ行くが……無い公算の方がたけぇからな、作るのに必要なもんがあったら俺の手を引いて物を指して教えろ」

「分かりました」

 洋太郎は深い溜息を吐くと、シアの手を引いて服屋の裏にある魔道具屋へ向かう。

 色々と面倒だとは思うが、大人しく手を握りついてくる少女に対して、洋太郎は既に情が移り始めていた。

 何をするにしてもシアには指示を出して教えて行かなくてはいけない。

 しかし人間味が薄いとは言え、シアには必要最低限の自我がある。そうでなくては質問などしないし、目覚めてすぐの受け答えなどできないだろう。

 そして先ほどの服屋で、シアは確かに薄らとだが感情を表していた。

 シアという作られた人間が、感情を持っていく手伝いをするのも悪くない。洋太郎はそんな事を思ったのだ。

「親代わりなんざ俺らしくねぇとは思うが、良い暇つぶしにはなるな」

 積極的に人と関わるのもいつもの事だと洋太郎は小さく笑う。

 その洋太郎の手を、シアが小さく引く。

「洋太郎、魔道具屋はあそこですか?」

「ああ、看板が出てるだろう。あの看板の右隅に剣が交差した印があるのが見えるか?」

「はい」

「アレがギルド推薦店の印だ。冒険者に登録すれば、あの印のある店での買い物が少し安くなるぜ」

 洋太郎の説明にシアは頷き、彼を見上げる。

「では、先にギルドへ行くべきではありませんか?」

 シアの突込みに、洋太郎はむっと唸る。だが、目的の店はもうすぐそこだ。

「まぁな。だが、今からギルドへ行くのは二度手間だ」

「分かりました」

 素直に頷くシアに、洋太郎は苦笑してしまう。

「俺が金を持っているから手間を惜しんだだけで、ギルドを優先させるのが普通だからな」

「そうなのですか?」

「ああ。駆け出しの冒険者は基本、金がねぇからな。節約できるところは節約する、それが駆け出しの心得だって話だ」

「では、私もそうした方が良いのでは?」

「おめーは俺の庇護下にある。気にすんな」

 綺麗に纏められた髪型を乱さぬように、洋太郎はシアの頭を撫でる。

 シアは若干不思議そうな表情を浮かべ、首を傾げる。

「庇護下……ですか?」

「そうだ。おめーはまだ赤ん坊にちけぇだろ?」

 洋太郎の言葉に、シアは黙り込む。

 どことなく憮然としているように感じるのは、気のせいではないだろう。

 魔術的に特化していても、それ以外はからっきしという状態なのだ。赤ん坊に近いというのも揶揄ではない。

 それを自覚しての沈黙かはわからないが、そんなシアが酷く可愛らしいと洋太郎は思いながら促す。

「とりあえず、とっとと用事を済ませてギルドに行くぞ」

「はい」

 頷く声はいつも通りだが、やはり憮然とした雰囲気を感じ取る洋太郎。

 小さく唇の端に笑みを浮かべながら、魔道具屋の扉を開く。

 店内は小奇麗な雑貨屋と言った風情だが、棚のあちこちに置かれているのは魔道具だ。

 カンテラやちょっとした小物に見えるものすべて、何らかの魔術が付与されている魔道具である。

 生活のちょっとした便利グッズとして安価で売られているものもあるが、大体が少し余裕のある家庭向きの物だ。

 そして、冒険の際に使用する魔道具が何故か隅の方に置かれていた。

「……ギルド推薦店にしては冒険者用の数がすくねぇな」

 洋太郎が思わずぼやくのも、仕方が無いだろう。

 棒状の魔道具を一つ手に取り、しげしげと眺めているとシアが口を開く。

「それは野営の際、煮炊きをする時に火をおこす為の魔道具です」

「へぇ、こんなちいせぇのがそうなのか」

 その存在だけは聞いた事があった洋太郎は、思わず感心する。

「お客様がお持ちなのは最近できた新作です。以前の物はもう少し大きくて持ち運びが不便だと苦情が相次ぎまして、必死で改良したものなのです」

 男性店員が洋太郎の持っている棒状の魔道具の説明をしながら、奥から慌てて出てきた。

「いらっしゃいませ、お客様。何をお探しですか?」

「ああ。鞄はあるか? 出来りゃ、特級が欲しいんだが」

 洋太郎の問いかけに、店員は困った表情を浮かべる。

「申し訳ありません、特級鞄の入荷は未定です。それに、今は物凄い値上がりをしておりまして、金貨二十枚以上のお値段が付きます」

「そりゃずいぶん、値が上がったな」

 洋太郎は自身がもつ背負い袋が随分と値上がりしている事に目を瞠り、嘆息する。

 現品があったとしても、買えば暫く節約生活になること請け合いだ。

 仕方が無いと洋太郎が嘆息すると、くいっとシアが袖を引っ張る。

 店に入る前に話していた話題が頭をよぎった洋太郎が彼女を見ると、シアは袖を離し目的の物の前に立つ。

 十把一絡げに纏められた石が籠の中に山積みされているが、籠に掛けられた札には魔宝石の原石と書かれている。

 シアはその石を一つ一つ検分し、彼女の掌より若干小さくて黒い石を手に取り他の物を戻す。

 それからすぐに店内をぐるっと見回し、洋太郎を引っ張って移動していく。

 手を引かれるまま洋太郎はシアに付き合い、彼女が検分する物を眺める。

 洋太郎は、シアが選り分けているものがそれなりに品質の高いものである事を見て取っていた。

 先ほどの魔宝石の原石も、殆どがあまり良い品質ではない中からそれなりの物を探し出していた。

 しかし、それ以外に良い物が無いのかシアは無表情で洋太郎に手に持っている魔宝石の原石を差し出す。

「これだけで良いのか?」

「はい」

 洋太郎は石を受けとり、後ろをついて歩いていた男性店員を振り返る。

「こいつと……あと、さっきの魔道具をくれ」

「はい、毎度ありがとうございます。特級鞄はございませんが、魔獣の革などを使った珍しい鞄もございます。ご覧になりませんか?」

「……そうだな、見せてもらうぜ」

 シアの荷物をいつまでも自分の鞄に入れっぱなしなのも、座りが悪い。それに、彼女が自分で鞄を作ると言ってもそれなりの時間を要するはずだ。

 それならば、とりあえずシアの当座の着替えを入れられる鞄を用意した方が早い。

 魔獣の革を使った鞄ならば丈夫で、滅多に破れる事は無い。

 シアに自分で管理するように言い含めれば、良い経験も積めるだろ。

 洋太郎の内心など全く気にせず、男性店員は奥から大きめの鞄をいくつも持ってくる。

 服屋と提携しているからか、どの背負い袋も鞄もややファッションを意識した作りになっている。

「最近の女性冒険者の方は、この背負い袋とこちらの鞄をセットでご購入する事が多いですよ」

 等と言いながら、落ち着いた赤い革の背負い袋と鞄を見せてくる。

 ちなみに、男性店員は洋太郎ではなくシアに鞄を見せて勧めている。

 本命の買い物に来ているのがシアで、洋太郎が財布であると先ほどのやり取りで見抜いたのだろう。

 しかし、シアの琴線に触れるものが無いのかあまり反応を示さない。

 シアの反応に何かが燃えたのか、男性店員はさらに奥から品物を持ってくる。

「こちらは海を越えた大陸に生息する、ラミアの蛇皮でできた鞄です。どうです、美しい色合いでしょう? こちらは、今は希少種となったレッドウルフの革と毛皮を使った背負い袋です。この赤い毛皮が良い手触りで、寒い時にこの部分を触ると仄かに温かいんですよ」

 一生懸命勧めてくる男性店員の手元を見ていたシアは、ふっと視線を上げる。

 その動きに気が付いた店員は後ろを見て、ああと声を上げる。

「こちらの鞄は、スノーフォックスという魔獣の革で出来ております。北の寒い地域で出現する魔獣で、どんなになめしても革は白いままなのですよ。汚れやすいお色ですし目立ちますから、冒険者の方でこれを買っていくお方はほとんどいません」

 そう言いながら、シアの前に真っ白い鞄を置く。

 シアは置かれた鞄を手に取り、まじまじと鞄を検分していく。

「ここに、魔道具として細工しようとした痕跡があります」

 そう言いながら、シアは鞄の内側を示す。

 男性店員はシアの言葉に目を丸くし、シアの示した部分を見て顔色を変える。

「た、たしかに! 少々お待ちください!」

 中途半端に細工して失敗した物を店頭に並べていた事に青ざめながら、男性店員は奥へと駆けていく。

 それを見送りながら、洋太郎は問いかける。

「アレが欲しかったのか?」

「いえ、微妙に込められた魔力が気になっただけです」

 あっさりとシアは言い、鞄を眺める。

 興味なさそうなその様子に、洋太郎は独り言ちる。

「適当に俺が選んだ鞄で良いか」

「はい……いえ、後々細工する事を考えるべきです。洋太郎と同じとまでは言いませんが、魔力との親和性の高い魔獣の鞄が良いです」

 シアの言葉に、洋太郎は魔力との親和性の高い魔獣を脳内で検索する。

「属性なしで魔力との親和性なら、グレイと付く魔獣か。グレイベア、グレイウルフあたりか?」

「その当たりが妥当かと。ウルフの方でしたら比較的安価で皮が手に入りやすいと思いますし、加工もしやすいでしょう。ベアの方は、珍しい種類ですので革は高めになると思います」

 洋太郎はなるほどと頷きながら、告げる。

「とりあえず、当座の鞄で良い。そっちの方は、後々考えるぞ」

「しかし……」

「そろそろ戻って来るぞ、黙ってろ」

「はい」

 シアは憮然とした雰囲気を纏いながら、洋太郎に言われた通り口を閉じる。

 そこでやっと、店員が戻ってきた。しかも何故か服屋の店長であるアニスを連れて。

「誠に申し訳ございません。中途半端に細工した物を店頭に並べるなど、不徳の極みです」

 そう言いながら彼女が頭を下げ、男性店員も深々と頭を下げる。

「……いや」

「お詫びの印として、こちらの鞄のお値段を半額にさせていただきます」

 洋太郎が何かを言おうとするのを遮り、彼女はやや小さめではあるが肩から下げる事が出来る鞄を提示する。

 今まで見たどこか実用的ではない鞄とは違い、こちらは実用一辺倒の落ち着いた茶色い色合いの鞄だ。

「こちら、グレイベアの革で作りました鞄です。品質は最高の物で、糸はシルクスパイダーの糸を使用し、中敷きの布も同じシルクスパイダーの糸で織ったものを使用しています」

 かなり良い鞄を持って来たことに、洋太郎は目を瞠る。

 シルクスパイダーの糸も魔力に対する親和性が高い。

 魔術を付与するのに持って来いな素材であると、洋太郎は知っている。

「良い鞄だな。これでいいか?」

「はい、十分です」

 シアは洋太郎の問いに頷き、じーっと鞄を見つめる。

「なら、その鞄とこの品二点を会計してくれ」

「はい、ありがとうございます。おまけで、お財布の方もお付けいたしますね」

 そう言いながら、彼女は白いスノーフォックスで作ったのであろう革財布を鞄の中に入れる。

 シアが財布を持っていない事を服屋でのやり取りで見抜いていたのだろうか。

 洋太郎がそう考えていると、目の前の“アニス”と全く同じ顔をした女性が奥から出てきた。

 洋太郎が目を丸くしていると、まぁと声を上げる女性。

「さっそく足を運んでくれたのですね、ありがとうございます」

「まぁ! アニスが言っていたお客様だったのですね。重ね重ね、不手際をお詫びいたします」

 アニスだと思ってい女性がもう一度頭を下げ、謝罪する。

 それを見たアニスが目を丸くし、驚いている洋太郎に頭を下げる。

「申し訳ありません。妹のエリスが何かご無礼を……」

「いや、良い買い物をさせてもらった」

 状況を察した洋太郎は何とか平静を保ち、アニスと彼女の妹だと言うエリスを見る。

 よくよく見れば、アニスと違いエリスは地味めの服を着ている。

 顔は同じでも、雰囲気もほとんど違う。

 双子の姉妹なのだろうと理解した洋太郎は、鞄から財布を取り出し提示された料金を支払う。

「また、何かあれば寄らせてもらうぜ」

 洋太郎はそう言い、受け取った鞄をシアに渡す。

 肩に掛ける鞄なのだが、シアはどうやって使うのかをあまりわからないのかじーっと手に持った鞄を凝視する。

 それを見た洋太郎が苦笑しながら一度鞄を取り上げ、肩紐の長さを調節し、シアの肩に掛けてやる。

 シアはこれでこのようにして使うのかと知ったのか、小さく一つ頷く。

 そんなやり取りをアニスとエリス、そして男性店員が微笑みながら見ていた。

 洋太郎はそれに気が付き、若干跋の悪い表情を浮かべてシアの手を掴む。

「行くぞ」

「はい」

 洋太郎はシアが返事をしたのを聞きながら、憮然とした表情で魔道具屋を出る為に足早に歩くのであった。

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