第12話 同居

莉音宅にて

〜風雅〜

 ピンポーン

 チャイムがなる。きっと連斗先輩だ。

 姉ちゃんに会いに……

 けど、もうここに姉ちゃんはいない。

 ガチャッ

 開けたドアの先の連斗先輩の顔は「なんでお前」っていってる。

「すいま……」

「莉音は?」

 ドアをあけた直後に垣間見た優しい表情なんて嘘みたいな感情をもたない人形みたいな表情。


 姉ちゃん……


 たとえ俺にとって本当の姉ちゃんじゃなくても、血なんて関係ない。姉ちゃんなんだ。

 でも、ごめん。


 たとえ兄弟でも姉ちゃんの味方にはなれない。


「SUNNY'Sの誰かの家でしょうね。ナギから連絡あったので」

「……クク、クク、ハハハハっ!!」

 腹を抱えて笑い出す先輩。

 不気味だと思う。

 こんな奴を姉ちゃんに近づけちゃいけないって思う。

 でも……ごめん。

 俺は……

「傑作だな、フウガ。なぜ止めなかった?あれを壊されてもいいのか。いや、あの方への恩を忘れたのか?」

 ぐっと奥歯をかみしめる。

「いいえ……忘れたりなんてしません……」

 ごめん、姉ちゃん……。





「しっ、失礼しまーす!」

 そういってセキュリティ管理バッチリのナギの家に入る。

 うっへえ〜、綺麗だなあ。てか、綺麗すぎ。

 みたところゴミ一つないしピカピカだし……

「もしかしてナギ、潔癖症?」

 半分ふざけてそういうとナギは黙り込んでしまった。図星なのかもしれない。ナギはごまかすように

「カップラーメンでいい?夕飯」

という。

「うん!たべる、たべる!なにあんの?」

 そういってナギの後ろをついてく。

 台所も全体的に白でまとめられていて清潔感溢れている。

「はい、これ。どれでも食べていいから」

 部屋を見回している間にカップラーメンをごそっと棚から出しテーブルにおいたナギは慌てた様子でまた玄関の方にかけていく。

「え、ちょ、どこいくの?」

「収録!」

 数秒かたまっていた私だが内容を理解すると

「わかった!いってらっしゃい!!」

といってもう見えないナギに手を振った。

「い、いってきま」

 ドサドサッ

 唐突に物が倒れる音がしてビクッとする。

「だ、大丈夫?」

 てこてこと玄関に歩いていこうとすると

「来なくていいから!大丈夫だから!!

じゃあ!」

という切迫詰まった声と戸が勢いよくしめられる音が聞こえてくる。

 なんだったんだろ。まあ、いいや。お腹もすいたし、早くカップラーメンを食そう。

 そう思ってカップラーメンの山をみつめる。



 結局、味噌ラーメンにした私は湯を注ぎ、リビングに向かう。

 それにしても広いお家……。

 ここに一人で……。

 白いソファに腰掛けてテーブルにカップラーメンをおく。

 シーンとした空気があたりをつつむ。


 ……私は結局のところ、逃げてるのかもしれない。偽物だという私の家族から。

 本物だと思って過ごしていた家族から。だからナギの家に……

 そんなことを考えだして苦しくなってくる。

 お母さんにしばらくナギの家で過ごす、といったときの反応がまざまざと蘇る。

 普通なら驚くはずだ。なのに、お母さんは「この時がきたのね」そんな反応をした。なにを言われたわけでもないけれど。今までなんの片鱗も見せなかったお母さんの反応がそれだったからなんだか怖くなったのかもしれない……。

 て、暗い!!よし、テレビでもつけてこのシーンとした空気を変えよう。

 そう思ってリモコンの電源ボタンをおす。

「はーい、ソラのふわふわクッキングの時間だよお。」

 ふわふわだね。はい、変えよ。

 ポチッとボタンを押して番組を変えようとするもうまく反応しない。

 なにこれ。むきになってポチポチ押すも変わらない。……まさかの充電切れ……。

 ガクッと肩をおとしテレビをみつめる。

「え〜と、なんだっけ。あ、卵わるんだあ。卵どこお、ないよお」

 などとふわふわ発言しているそこの君。

 手に卵持っていることに気づきなさい。

 正直なところ、天然くんは苦手だ。

 対応の仕様がわからないし、見ていると呆れてため息ばかりついてしまう。

「えっと、次はお砂糖でえす。あっ……」

 ……うわあ…それ食べられんのか……

「これはお茶の間のみんなと僕だけの秘密だよ」

 そういってこちらにニコリと爽やかスマイルを放つソラ。


 この番組はソラが作った料理をゲストが食べるという趣旨らしい。


 ゲストがかわいそうで仕方ない……




 そして、しばらくソラのごたごたクッキングを見ているとカップラーメンも食べ終わる。

 ああ、お腹いっぱい……

 そう思ってテレビを見ていると、ソラが出来上がった料理を運びだす。

 見た目こそ美味しそうだが……

 料理の過程をみていたこちらからすると不味そうとしかいいようがない品である。

「はーい、今日のゲストはSUNNY'Sの皆さんでえす」

 ……………。

 現れたのは日中体育祭にいたのなんて感じさせないアイドルスマイルを浮かべたSUNN'Sの方々。

 疲れたあとにあれか……。

 おカワイソウに。

「はい、どおぞお」

「おお、うまそうだな。」

 出されたオムライスに舌なめずりをするのはユータ。

 このオムライスで舌の感覚麻痺してまえという目線のビームを送っていると、カメラがヨウの方にズームしていく。

「じゃあ、いただきま〜す」

 オムライスをすくいスプーンを口にいれるヨウ。

 動作の一つ一つがなんかエロい。

 が、そんなエロいヨウくんも一口食べただけで表情がみるみるうちに変わっていく。

「うっ……」

「どお?ヨウ」

 爽やかスマイルでそうたずねてくるソラにヨウは取り繕うような笑顔で

「おいしいよ」

という。

 が、そんなヨウの努力を知ってか知らずか自己中君がやってくれる。

「おえっ。まっ」

 いい終える前に隣にいたナギがユータ君の口をふさいだのが危機一髪だったがソラは不思議そうな表情をしている。

「ほら、ユータはツンデレだからな。」

 そういってネクがニコリとするとソラも納得したような表情になる。

 なんという連携プレイだ……素晴らしい……と一人で感動していると今まで存在に気づかなかったアナウンサーさんが口をひらく。

「では、ソラさんもお席に座ってください」

「はあい」

 ニコニコとネクの隣の席に座るソラを確認するとアナウンサーが喋りだす。

「では、皆さんに質問がきています。なお、今回はSUNNY'Sの方々がゲストということなので、私が視聴者の皆さんからご応募いただいた質問をソラさんに変わって代弁します」

 ああ……なんか眠くなってきたな……。

 ソファの温もりに横たわり目を瞑る。

「ナギさん、今日、高校の体育祭があったそうですね」

「はい」

 そう答えるナギの声は優しい。微笑んでるのかな………………ぼんやりそんなことを思っているとアナウンサーが突拍子もないことをいいだす。

「借り物競争で「好きな人」というお題があったそうですね」

 ん?なにこの流れ。流石に危機感を覚えて、起き上がりテレビをみつめる。

「はい。ありましたよ」

 ニコニコと優しい笑みを崩さないナギ。

「そこで、沢山の女の子に一緒に走って欲しいといわれたそうですが全部断ったらしいですね。でも一人だけ例外がいたとか。今回の視聴者さんからの質問はそれです」

 ん?…………いや、ええええ!?

 そうだったの!?私、例外!?

 テレビにうつされた画像にはモザイクのかかった私と優しい笑みを浮かべているナギの写真。いつの間に……

 ていうか、なにこの展開ーー!?





 やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい。

 頭の中を「やばい」の三文字がかけめぐる。

 殺されるよ……。全国のナギ君ファンがああああ…………

「この方とは一体どういったご関係なんですか?」

 そうたずねるアナウンサーにナギはにこりと微笑む。

「僕と彼女はいとこですよ」

 …………は?…………

 イトコ?……と私が半分理解不能状態になっているとナギくんは柔らかな笑みを崩さずに話しを続ける。

「告白、とは普段言えないことをいう、という意味合いの言葉ですからね。

僕のいとこは普段いえない感謝の気持ちを伝えようとしただけですよ」

 おお……なんていうか……

 これが迫真の演技というものなんだろうな……

 無理やりこじつけた内容なのに、妙に納得させられる。

 それはアナウンサーも同じなようでさっきまでの探るような、どこか攻撃的な目つきとは打って変わったどこか納得したような目つきをしている。

 流石はナギくん……。

 と思った矢先に

「はーい、これ食べて元気だしてねえ」

などど意味のわからないことをいいながらアナウンサーの口に無理やりオムライスを突っ込むソラ。

「んっ!……もぐんぐ……」

 アナウンサーさんはもう全然取り繕われてない笑みで

「お……いしいですね」

という。

 可哀想……。

「おっ、もう終わりの時間のようだな」

 カンペがあるであろう方向をみてそういうネク。

「じゃあ、みんなあ、また来週ねえ」

 そういってニコニコと手を振るソラ。

「またな~。来週の火曜日の歌謡祭俺達もでるからちゃんとみてくれよなー」

と、ぐったりした様子で宣伝するユータ。砂糖いりオムライスの威力はハンパないらしい。

 と、何を思ったかソラがオムライスを一口分すくってユータの口にいれる。

「うっ」

 うわあ……ユータの顔が……

とてもアイドルとは思えないんだけど……なんて思った時には番組は終わりを迎え……


 最後に聞こえたのはユータの断末魔だった。




~ナギ~

「それにしても、なんなの、あのオムライス。まずすぎ」

 番組終わり。楽屋からでて廊下を歩きながらそうたずねる。

 流石にテレビの前では抑えたが今は顔をつくる必要もない。

 特にこの天然爽やかボーイくんは僕の幼馴染みなので余計に気を使わない。

「ん~。美味しくできたと思ったのになあ」

と心底不思議そうにいうものだから呆れて言葉もでてこなくなる。

「まあまあ。そーだ!これから焼肉とかどう?」

とフォローにはいるヨウだが、遠まわしに「口直しに焼肉食べよう」といってるようなものである。

 でも、そんなことに天然なソラが気づくわけもなく……

「わあい!焼肉だあ~!」

と子供のようにはしゃぎだす。

「肉か!よし!沢山食うぞ!」

とさっきまでの元気のなかった様子など嘘のようにガッツポーズをするユータ。

「代金はユータ持ちだな」

「だね~」

 幼馴染み二人のそんな会話もはしゃぐユータには聞こえていないようだった。

 そんな光景に微笑むが、そこであることに気づく。

「ごめん!僕、用事あるから先にかえるね!」

 そういって、返事も待たずに駆け出す。

今日はいつもとは違うからーー。





 マンションの階段をあがりきって一息つく。自分の家のセキュリティ解除ボタンに触れようとした手がふととまる。

あいつが今僕のうちにいるんだ……。



 どうしよう……めちゃくちゃ嬉しい……





~莉音~

 ガタンッ

 ああ、やっぱり……やっぱりいる。

 私は不安をかき消すようにフライパンの持ち手をギュッと握る。

 こんな夜中に玄関でゴソゴソしてるとかストーカーだよね、絶対。

 ナギだって仮にもスーパーアイドルなんだからストーカーの一人や二人いて当然だもんね。

 ガタタッ

 やっぱり……私はタタタッとドアにかけてくとドアのぶに手をかけた。

 思わず息をのむ。あいてる……

 もうそこからは脳内パニックだ。とりあえず撃退しなきゃ!とドアをあけフライパンを思い切りふりきる。

 ゴウゥゥゥン

「………………」

「ナギ……さん?……」

 ひきつった笑みでそうたずねるもナギさんはなにも答えずに私の手首をむんずとつかみ家の中にドスドスと入っていく。

「あ……あれ?ナギがストーカー?」

 わけが分からず、そうたずねるとナギがバッと振り返る。

「誰が誰のストーカーだ、バカ!」

 うわあ、めっちゃキレてる。

「別にナギのことストーカーとはいってないじゃん!そりゃ、フライパンで叩いたのは悪かったけども……」

 そういった時、また胸に痛みがはしる。

「うっ」

 あまりの痛さに座り込むと

「ちょっ、大丈夫?」

とナギがしゃがみ込んで、「うん。大丈夫」といおうとして顔をあげた私の視線とナギの視線がばっちりあう。

「ぜ、ぜんぜん、平気」

 頬が急激に熱くなっていく。

 私、目があっただけでなんでこんな……

「部屋……そこ、好きにつかってよ。具合悪いならちゃんと休みなよ」

 立ち上がりそういったナギの耳は真っ赤で私の頬はなおも赤くなった。
















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