第10話 波乱の体育祭2
「ん、んん……」
目を開けると、そこには見慣れない白い天井。とりあえず寝転がっている状態から起き上がると、身体の節々が痛い。
「保健室?……」
自分が寝ているベットと、周囲の白いカーテン、漂う保健室特有の消毒液が混じったどこかホッとする匂い。そこから察するにここは保健室だと思う。今まで保健室にお世話になったことはないが、確実にそうだろう。自信がある。
にしても私、ナギと走る展開になって……それからどうなったんだろ。
ボーッとしている頭をおさえているとカーテンがバッとあけられる。
「莉音!?」
そこにはともちゃんがいて、危機迫った表情をしている。
だけど、私と目があうと心底ホッとした表情に変わって、私の上に飛び乗ってきた。
「うぐっ」
「心配させんな」
強い口調でそういいながらも背中をなででくれる。
なんだか、ともちゃんらしいな。
でも、飛び乗られた衝撃で体がより痛む……
「僕も話したいんだけど、いいかな?」
唐突に聞こえてきたその声に心臓が飛び上がる。
「クソ王子が……」
小さくつぶやきながら私から離れるともちゃん。それと同時にカーテンが開けられ、ナギが現れる。すごく心配そうな表情をしているように見えるのは私がそう見たいからなのか、実際そうなのか、どっちなんだろ。
「大丈夫?」
「ま、まあ、大丈夫」
こんな優しい声をかけられたのは初めてかもしれなくて思わずしどろもどろになる。
「あ、あの、そういえば、ここまで運んでくれたり?……」
なにこいつ、重すぎ。とか思われてたらどうしよう。
「ちょっとお、莉音!」
そんな声とともにナギの後ろから顔をだしたのはソラ。
「僕が運んできたんですけどお。」
ムスッとしていうソラに慌てて
「あ、ああ。ソラ、ごめんね!」
とあやまる。
「ナギは華奢な女子並みの力しかないからねえ」
まあ、そんな感じはするけどやっぱりそうなのね。
ちらっとナギの方をみると頰を若干赤くしてプイッとそっぽを向いた。
可愛らしいところもあるのね。
「続いて男子100m走です」
外から響いてくるアナウンスにはっとする。
「ナギもソラも100m走でるよね!?」
「ん?うん。でるけど……」
「同じ列だよ!」
「じゃあ、早くいかないとじゃん!」
そういうも二人の顔は浮かない。
どうかしたのだろうか。
「でも、こんな状態の莉音ちゃんを置いていけないよ……」
ソラがそういって若干むくれる。ナギは何も言わないけど同じことを思ってるのだろうか。
「大丈夫よ、莉音には私がついているんだから。とっとと行きなさい」
ともちゃんがそういうと二人はしぶしぶという感じで去っていく。
「ゆっくりしててね」
そういうソラの後ろでナギがとても暗い表情をしていたのに私は気づいてあげられなかった。
外から聞こえてくるアナウンスに耳を澄ましながら、ともちゃんと談笑していると突然黄色い歓声が響いてくる。
きっとこれからナギとソラが走るのだろう。
「……気になるなら見にいけば。」
「え?」
「倒れたら私がどうにかしてやるから。」
ああ……ほんと、ともちゃんにはかなわないなあ。
そう思いながら
「ありがとう!」
といい立ち上がる。
うっ……まだ胸の痛みは消えないけど大丈夫かな……。
「うわあ……」
並み居る女子の隙間からレースの様子を見つめる。
ナギが一位、ソラが二位でゴール間近のところだ。
がんばれ。周りの女の子が口にするその言葉を発そうとして口をつむぐ。
あんな可愛い子や美人な人が、沢山の人が「がんばれ」っていってるんだ。
私が「がんばれ」っていったところで何も変わらないんじゃないかな……。いったところで私の声なんてかき消されてしまうだろう。
そんな弱気なことを考えているとゴール間近でナギが盛大に転んでしまう。
そしてナギくんがんばれコールがはじまる。
私も気づかぬ間に「ナギがんばれ」そういっていた。
本当に気づかない間に。声を発することに抵抗があった私だけど「ナギがんばれ」その一言をいうだけでなぜかすごくあたたかい気持ちになった。
なんとかゴールしたナギだけど、順位は最終的に三位になってしまった。
「ナギくん大丈夫?」
そんな言葉をかけられていつもの笑みをみせているナギだけど明らかに無理してる。あの子達、全然気づかないんだ。いつもキャーキャーいって「ナギくん大好き」とかしょっちゅういってるくせに。
ムズムズする。
まだ、胸の痛みも消えないし行ったところで何もできないだろうだけど。スタスタと歩きだす。
しかしナギの方に近づいていこうとしても人が密集してすぎていて思うように進めない。
そんな時誰かにむんずと腕をつかまれる。
「え……」
振り返ると保健の先生がいた。カールされた髪はボサボサで顔もどことなくやつれてる。
保健室にもいなかったし、ずっと外で救護にあたっていたんだと思う。
「あなた、保健係よね。そこの子保健室に連れてって手当してあげて」
そういわれて初めて自分が保健係のワッペンをつけていたことを思い出す。
保健の先生は私が倒れた生徒ということはわかっていないみたいだ。
体の調子もまあまあいいし……
「はい、わかりました」
そういうと、先生はこれでもかというほどの大声で
「みなさーん!今、保健係のものが救護に向かいますので道をあけてくださーい!!」
その大声にナギくんを囲んでいた人達が一斉にこちらをみる。
私は保健係のワッペンをきちんと見えるようにしてナギの元へ急いだ。
「大丈夫?」
ナギの背中に手をまわしながらそうたずねる。
膝からの流血は思った以上にひどい。
「大丈夫なわけないじゃん」
そう小さな声でいった直後に「ナギくん、大丈夫?痛くない?」とたずねてきた同じクラスの女子にニコニコしながら「全然平気」と答えるナギ。
さっき大丈夫じゃないっていってたのに。
私には顔を作らなくてもいい、と思っているのだろうか。それが少し腹が立つような嬉しいようなそんな複雑な気持ちになった。
校舎の中は外と違ってとても涼しい。
「ちょっと……ストップ」
もう少しで保健室、というところでナギが苦しげにそういう。
「あっ……」
私が急いで保健室に連れていこうとしたものだから彼の足からの出血がひどくなっていた。
「ごめん!ちょっと座ろ!!」
あともう少しでつくもののここで無理をさせてはいけない。
体操着のズボンのポケットを探る。
ハンカチ来い!そう必死に祈りながら。
ハンカチ貸したら、洗濯して返してくれるだろうか。ナギの匂いのハンカチとか……。
妄想で若干クラクラしながら探しあてたのはポケットティッシュ(しかも洗濯で一回間違って洗われたっぽい)
使えないことはないはずだ。
私は無言でナギの足をふく。なんてべっぴんさんな足なんだ。白くてスベスベですね毛が一本もない。まさに美脚。
なんていろいろ思いつつあることに思い当たる。こいつ、やけに静かじゃない?いくら怪我してるからって……
「…………っ!?」
今までにないぐらい心臓のあたりが痛くなる。
ん?ナギ……こいつ……なんか歌ってる……。
ううん。なんか、じゃない。れん兄が歌っていたのと同じ……
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