第34話 デート
〜土曜日、遊園地にて〜
「わあ〜、先輩だあ〜。先輩〜っ」
そういって可愛いらしい笑みを浮かべブンブンと手を振ってくるモモちゃん。本性を垣間見た私からすると驚異だ。
しかし、今日は普段にも増して気合いがはいっている。
スタイルの抜群さが際立つような流行りの服装。ザ・女の子って感じの可愛いさ。
いつもポニテにしてる長く艶やかな桃色の髪の毛は全部おだんごにして上にあげてる。それによって少し色気もあって中三とは思えないくらいに大人っぽい。
別に勝ち負けとかないんだろうけど、完全に私の敗北だ。ただのジーンズにパーカーという地味な服装の私が横に並ぶと余計モモちゃんの華やかさが際立つ。
まあ、別にいいけどさ。
ニコニコと手をふっているモモちゃんに
「あはは⋯⋯どうも〜」
なんて作り笑いを浮かべながら近づいていく。すると⋯⋯
「え、キールくんっ!?なんで」
モモちゃんばかりに目がいっていたが、モモちゃんの右隣にちょこんと立っている小さい男の子の存在に気づき驚きの声をあげる。
モモちゃんの弟のキールくん。
何故ここに⋯⋯。彼に関してはいい思い出がひとつもないのだが。
思わずじっとキールくんの顔を見つめる。
スッととおった鼻にきめ細やかな白い肌。サラサラのシルバーグレーの髪の毛と少し切れ長なまだ幼さの残る大きめのグレーの瞳。
普通にしてれば顔立ちも整ってるし将来有望なイケメンの卵って感じだ。
なのに⋯⋯
「姉のボディガードですが。なにか?」
そういってキッとこちらを睨みつけてくる。なんというか小学生らしさの欠片もない子だ。
その年でこれほどの睨みをするのは怖いし、なによりキール君が普通の人生を歩んできていない証拠だ。
「あはは、そうなんだね」
なんてキール君に笑いかけるが、キール君はガン無視でそっぽを向いてしまう。
⋯⋯姉弟そろって⋯⋯。
「あ〜、ナギ〜、こっちこっち〜!」
そういってさっきの数倍大きく手をふりだすモモちゃん。見れば遠方にナギがいる。
二人は幼なじみ、なんだよね。なんて改めて思う。
ナギを見つめるモモちゃんの瞳に、モモちゃんはナギのことが好きなんだなってなんとなく察しがつく。
ナギは⋯⋯どうなんだろう。
モモちゃんのことどう思ってるんだろうな。ただの幼馴染?それとも……そう考え出すと胸の奥がチクリと傷んだ。
近くに寄ってきたナギはかなり驚いた表情をしてる。モモちゃんは私が来ることを言ってなかったのだろう。それにどんな意図があるのか知らんが。
「えっ、莉音!?それにキールも」
「どーも、ナギさん」
そういって帽子をとりおじぎをするキールくん。
「ちょっと、キール。ナギはキールの将来お兄さんになる人だよ。」
え⋯⋯。お兄さん?
ナギの表情を見やると苦虫をかみつぶしたような表情をしてる。
なんだ。別に結婚の約束をしてるとかいう訳じゃないんだ。
迷惑そうなナギの表情にどこか喜んでしまう。
けどそういう大切な気持ちはすぐになくなっていく。
喜びで暖かくなった胸が冷え切っていく感覚はなんとも物悲しい。
そんな私の横でしぼりだすように「お兄ちゃん⋯⋯」といったキールくんの頭をなでなでして「よく出来たわね〜」といってるモモちゃんが。
キールくんの性格からして頭を撫で回されたらかなりご立腹になりそうなものだが⋯⋯。
なんということだろう。とてつもなくデレッデレの表情。周囲の人に「僕はシスコンです」って公言してるようなもんだよ。そのことにドン引きしてると
「じゃ、いきましょうか〜」
とモモちゃんがいう。
それからさりげなくナギの手をとり指をからめる。
さっきのナギの様子から嫌がるんじゃないかな、なんて思ったけど、意外や意外。
ナギ自身からも指をからめている。
目の前で恋人つなぎをして仲良さげに話す二人。
胸が傷んだ。けれど、それも一瞬のこと。すぐに目の前の遊園地に夢中になる。
それを悲しいと思うことすらなくなっていたことに私は気づかなかった。
〜モモ〜
ふふん、ざまあみなさい、愛川莉音。
今回お前をここによんだのは抵抗できないナギと私のラブラブぶりを⋯⋯じゃなくて幼なじみパワーを見せつけるため。
チラリと後方の莉音をみやる。
⋯⋯なによ。私とナギが恋人つなぎしてるのに何も感じないわけ?それともなんの関心もなさそうなあの表情は演技?
とりあえず、もっとラブラブ加減を見せないとダメそうね。
いや、いっそのこと⋯⋯
前方に見えてきたミラーハウスを指さして
「あ〜、ミラーハウスだ〜。いこうよ〜」
という。
あの女の嫉妬に狂った表情が見たかったのにこの調子じゃ見られそうにない。
それならもう用事はないというもの。
私はわざと人混みに紛れながら早足でミラーハウスとは逆方向に歩いていく。
ふふ、今日のところはさようなら。
愛川莉音。
〜莉音〜
ミラーハウスに行くまでの数分で確信。
このふたり、私とキールくんの存在ガン無視してる⋯⋯特にモモちゃん。
時節チラチラとこちらを見てくるのが腹立つし。
しかし、気にしていても仕方ない。
気を紛らわすために隣にいるキールくんに声をかける。
「ねえ、キールくん⋯⋯」
そういって横をみるとモモちゃんを見つめプクーっとふくれるキールくんがいた。
「あいつ、腹立つ⋯⋯」
その小さな独り言に思わずにやけてしまう。
「なに?お姉ちゃんとっちゃうから?」
「うぜえな、くそばばあ。黙ってろよ」
「なっ。あんた、口悪すぎ。目上の人にはねえ」
「あっ⋯⋯」
先ほどまで鋭い瞳でがんを飛ばしてたキールくんが前方をみつめポカンと口を開けたまま静止する。
「ん?どうしたの?」
「姉ちゃん消えた⋯⋯」
そういわれて前方をみれば確かにモモちゃんとナギの姿がない。
「でもミラーハウスに行くっていってたんだし⋯⋯。とりあえずミラーハウスにいってみよう。ってちょっと!」
話してる途中で歩き出すキールくん。
本当に小生意気なガキンチョだ。
「⋯⋯いない。僕、帰る」
「ええ!?お姉ちゃん探さないの?」
「はあー⋯⋯。お前バカ?お姉ちゃんはお前が邪魔だったたからまいたんだよ」
そういってクルリとUターンするキールくんを慌てて追いかける。
「え、でも、だとしたらキールくんは⋯⋯」
「ほんとバカだね。僕がいってもあんたがいってもデートの邪魔されるって事実は変わんないじゃん」
「はあ⋯⋯」
とにかくモモちゃんにコケにされたというのは理解した。
わざわざ遊園地までこさせておいてなんて仕打ち。
私に対してならまだわかるけど(こないだのこともあるし)弟くんにまでこの仕打ちはひどいと思う。
せっかく遊園地に来たんだ。
遊ばなくては損だし、これはキールくんと仲良くなるいい機会ではないか。
そう思って前方をいくキールくんを早足で追いかける。
遊ぶのにはひとつひとつのアトラクションにお金を払わなくてはいけない。
「財布、財布⋯⋯」
そんなことをブツブツつぶやきながらバッグから財布をとりだす。
入場券は小銭で払ったから札が残ってると思うんだよね⋯⋯。
⋯⋯ん?⋯⋯
「ま、まって!」
慌ててかけていくと、気だるげに振り返ったキールくんの肩をがっしりとつかむ。
「⋯⋯なに。僕は早く帰りたいんだけど」
「申し訳ないんだけど、お金がなくて⋯⋯ね?」
「は?」
そういって氷のようなひとみでこちらをにらみつけるとまたスタスタと歩き出すキールくん。
「ちょっ、待って!携帯も忘れてきててほんとに頼れるの君だけなんだよ。お願い!バス代だけでいいの」
「そりゃどーも。でも小五のガキに金銭面で頼るなんて最低ですよね。」
そういって一層歩くスピードをはやめるキールくん。
そんなの自分が一番わかってるよおおおお、そんなむなしい心の叫び。
その場にへたりこむ。
⋯⋯どうしよう。あの二人を探して頼ろうか⋯⋯。それとも⋯⋯。
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