第33話 交錯する想い
「もおー!まじでむかつく、あの女!!」
「まあまあ、紅茶でも飲んで」
今は収録終わりでソラの限られた休憩の時間なのだが⋯⋯。
幼なじみでもあるモモとソラはカフェに来ていた。
「こんなのいらない。まずそ」
「え〜。なんで?紅茶嫌いなの?」
「嫌い。変なにおいだし、それに」
そういうと一層顔を歪めるモモ。
「あの女も大っ嫌い。」
その一言にモモの感情の全てが詰まっている。
モモと莉音の間でなにがあったのかはわからない。が、とりあえずニコニコと笑みを浮かべながらモモの話を聞くソラ。
「でも、ケーキとか甘いものは好きよ。人間にしてはよくやったなあって感じ。あ、あとナギも好き〜」
「あっ⋯⋯ナギ⋯⋯!」
「なによ。ナギがなにかおかしい?」
「モモ⋯⋯」
その声にハッと振り返るモモ。
「な、ナギ!?」
そこには涙で顔をぐしゃぐしゃにしたナギが立っていた。
「モモ〜」
そういってその場にへたりこみモモのひざに顔をうずめるナギ。
「うわあぁ、モモ〜」
「えっ?」
固まる二人。
「ナギ、モモに薬もられた?」
「そんなのもってないわよ!」
「うう〜」
モモはナギの頭を優しくなでてやる。
動揺はおさえて⋯⋯
「ナギ、なにかあったの?⋯⋯」
「ううっ⋯⋯莉音がね」
モモの眉間がピクリと動く。
けどそれも一瞬。すぐに笑みを浮かべて「うん」と相槌をうって続きを促す。
「僕に会いたくなかったって。僕は⋯⋯僕は、すごく会いたくてすごく心配してたのに⋯⋯」
今度はモモの眉間がピクピクッと二回動く。
しかし、すぐにそれを取り繕う不自然な笑みを浮かべて「そうなんだ」と相槌をうつ。
「モモ⋯⋯僕、あの子のことすごく想ってるんだ。でも、でも、あの子は⋯⋯」
「そ、そうなの?ハハ」
と不自然な声で笑うモモ。
もうなにも取り繕えていない笑みをうかべて頬をヒクヒクさせている。
「な〜んか、こういうの昔もあったような?⋯⋯」
と独り言のようにつぶやくソラ。
「ハハハハハハ」
「モモ壊れたね」
そういってソラはオレンジジュースをすする。
先程まですすり泣きしていたナギがふと顔をあげる。
「え⋯⋯あれ?僕は⋯⋯」
と不思議そうな表情をするナギ。
そんなナギの様子をみてソラがポンッと手をたたく。
「そうだよ。小さい頃のナギ、悲しいことがあるとめちゃくちゃ泣いて、モモのところにいってたよね。で、その時だけやけに甘えるっていう⋯⋯」
「あ⋯⋯れ⋯⋯?」
そういって険しい表情で頭をおさえるナギ。
「しかもその時の記憶ないっぽいし」
「笑顔でいうな、アホ。」
そういうとナギの方を向いてスッと両手を広げるモモ。
「⋯⋯?どうかしたの?モモ」
先程までのナギならすぐさま飛び込んできたろうに⋯⋯。こんなはやく夢のような時間が終わってしまうなんて。
「ナギ、私の胸に飛び込んできてもいいのよ」
試しに、普段なら「気持ち悪い」と即答されるだろうことをいってみるモモ。
「えっ?なにいってるの?モモ。気持ち悪いよ」
「⋯⋯。そういえばこんなこと前にもあったわね」
「?それより、モモ。莉音の貝殻はどこ?」
ナギがその言葉を発した途端に穏やかな空気に緊張が走る。
「莉音の貝殻っ!?え、モモが持ってるの!?」
「持ってないわよ、今は。渡したもの」
「誰にっ!?」
そういって立ち上がりテーブルをダンッとたたくナギ。
「じゃあ⋯⋯デートして」
「はあっ!?」
〜ナギが去った後のカフェ〜
「モモ強引だね〜」
「な〜に〜?わるい〜?っていうか、テーブルダンって叩いた時のナギかっこ良すぎ!キュン死する!」
「⋯⋯一応乙女なのに⋯⋯ねえ?」
「ちょっと!さっきから失礼ね!」
「まあ、僕はいくから。仕事あるし」
そういって立ち上がるソラ。
「ええ。またね」
そういってソラの顔をみやると冷たい氷のような表情が浮かんでいた。幼い頃から一緒にいた幼なじみの初めてみる表情。
その表情に驚きで動きがとまるモモ。
「ナギとデートしたら、ちゃんと莉音の貝殻の場所教えてよ」
「わ、わかったわよ」
「そう」
そういうと途端に普段のふわふわした雰囲気に戻るソラ。
けれどモモの背中には冷たい嫌な汗がつたっていた。
幼なじみが初めてみせた表情はどう考えても「あの女」を想っているからこそのもの。
モモは一人冷めた紅茶をかき混ぜながらむすくれた。
なんだか気に入らない。あの女のせいで幼なじみたちが変わっていくのは。
しかしそんなモヤモヤとした気分も先程とりつけたナギとのデートのことを想うと吹き飛んでしまう。
「土曜日⋯⋯かあ⋯⋯」
そういってモモは純粋な乙女の笑みを垣間見せた。
ピロロン
寝る支度をしてリビングでテレビをみていると携帯がなる。
「姉ちゃん携帯」
「知ってる」
そういって携帯をひらき受信画面をひらく。
知らない人?⋯⋯いたずらメールならすぐに消去しようと思ったのだが⋯⋯。
携帯の画面には件名の〈モモで〜す(♡˙︶˙♡)〉の文字。
「うわっ⋯⋯」
意図せずに嫌悪感に満ちた声がでてしまう。
正直、あの子は苦手だ。
この前の、花火大会の日のことが彼女を苦手と感じる大きな要因といえる。あの日彼女の歌を聞いてから感じていた胸の違和感は治ってきたもののまだ完治はしていない。あれが何だったのかは知らないが、私があれのせいで被害を被ったことや、あれがあの子のせいだってことは明白なのである。
というか、この子、どこで私のメアドを?⋯⋯。ヨウの場合は「ともちゃんか」と予想はついたがモモちゃんに関してはさっぱりだ。なんというか、末恐ろしい娘⋯⋯。背筋を嫌な汗が伝う。
「なに?またあのエロ?」
と怪訝な表情でたずねてくる風雅に
「違う」
と答える。
最近は風雅にエロからのメールをさばいてもらうことが多い。それもあって風雅はエロからのメールの対応を覚えた。
エロへの対応に慣れてしまった風雅。なんとなく申し訳ない気がする。
そんなことを思いながらもモモちゃんからのメールの文面に目を通す。
〈実は〜土曜日にぃ〜、ナギと出掛けるんですっっっ♡♡先輩もどうです??〉
チラリと風雅をみる。
モモちゃんは風雅をふったらしい。
どうせ彼女の中ではちょっとしたお遊びだったのだろう。
風雅はこんなでも私の弟だ。
そんな弟をこけにしたやつが今度はナギと?⋯⋯
〈いく〉
気づくとそう、うっていた。
うん。これがいい。
私はためらうことなく送信ボタンをおした。
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