第14話 誰かの視点

 別の視点。

2016年7月~9


 女子高生が学校で戦ったと話題が上がってから、彼女の通う学校に取材が来ていた。何故あんな危険な魔物を使ったのか。学校近辺に、凄まじい被害を出した。そして何故一部の生徒はその危険な魔物に対応してみせたのか。その生徒の人物像は一体何なのか。

 会見が開かれる事は無く、真相を知ろうと取材は躍起になったのだ。

 そして得られた情報は、魔物と対峙した彼女はあまりに変人だったという事だ。男子生徒に対する過剰な暴力行為に、構って欲しい為だけに変な行動をおこすだとか。はたまた精神病で隔離してしまえという声もあったり無かったり。

 学校の周辺には、毎度のように取材の関係者が居た。

 誰かが取材を受ける姿は見慣れたものだ。

 ある時。取材をされている一人が、長田、すなわち彼女が誰を一方的に暴力行為をしていたという内容で話していた。


 彼女の性格ときたら暴力的であり、凄まじいまでの構ってちゃん、と説明している。誰かを陥れることも躊躇しないとか。大袈裟に振る舞うとか。ふと、取材の人が隣にいた別の女子生徒に話を振った。しかし、それに対して、女子生徒は少し想定外の発言をする。


「でも、まあしょうがないですよ、彼女に至っては。それにあの子、皆は認めないけど結構優秀じゃない? 使い魔も含めてさ。模擬戦闘の時に、私の使い魔って龍種だけど、叩きのめされたし」

 その言葉に、驚いたように隣の女子生徒が口を挟む。「龍種を!? あいつ、そんな凄い使い魔居たの!?」

 先程まで見下したかのような馬鹿にしてたその女子生徒の口調が崩れたところ見ると、本当に驚いているようだった。

「ん? 何故あんたが驚くのよ。見てたじゃない。あの時の模擬戦闘」「知らない知らない!」「そう? 見てなくても結構学校では話題になったんだと思ってたけど。そうでも無かったんだ」

「ねえねえねえねえ! あれが使い魔持ってるとか嘘よね? 一体どんな使い魔使役してんの?」「ほら、さっきの魔物と戦う映像にも一緒に映ってたじゃない」「どれよ! 居ないじゃない!」

 一瞬、冷めた目付きになる女子生徒。

「いい加減、白々しすぎるよ!」女子生徒は見るからに表情を歪ましていた。そして女子生徒は、一方の女子生徒に指を指して取材の人に向けて言う。「なんか腹立ってきた! さっきこいつが彼女の事を色々言ってたけど、滅茶苦茶も良いとこだわ! 確かにあの子は私や色んな人とか大怪我させたりしたけど、それはお互い様! 一方的に悪い訳じゃないのよ! 大袈裟に怪我した振りって言っても、骨折してたり手足が無くなってちゃしょうがないじゃない! 寧ろ掃除当番だって、あんたが彼女に押し付けてたりしてるのも見たことあるんだから! 二人だけで黙々と掃除、律儀にしてたし! 嘘は言ってないけども、あんたの発言は都合の良いこと言い過ぎよ! いじめるのも大概にしたらどう」

「え? え? 知らないって」

「知らないも何も、私は見てたの!」


 取材の人が、今はそんな事よりも彼女のことについて詳しく求めた。何か勘違いしていたのかも、と。

「と言っても、長田さんとはあんまり話したことがなくて。使い魔の彼にしか話を聞いたこと無いですし」「使い魔と?」「私との仲はわからないですが、弟と仲が良かったらしくて。まあでも、彼女の事情もわかってあげれたらとは思いますし」

「事情って?」と取材。

「使い魔とは名ばかりの悪霊だそうです。体を乗っ取られたり、心を壊したり、魔物と戦わされてたり。寿命も長くないんじゃないでしょうか? 片腕や片足を失っているまま登校してきているのを何度か見かけてます」

「何それ。腕がないとか大怪我じゃない。言っとくけど、私はあれと同じクラスだけど。怪我してたりなんか今まで見たことないって」

「ねえ。そういうの、本当にムカつくんだけど。片手が無くなってたとき、『箸も持ててない』とか馬鹿にしてたじゃん。本人でさえもどうしようもない部分馬鹿にするのむかつく。魔物から身を守るのだって結構命賭けなのを。それを笑うの、本当に不愉快なんだけど」

「え? でもそんな怪我ってしてないじゃない」

「あんた、ここまで言ってもわかんないわけ? というか、戦いの時に体半分無くなってたじゃない。あんな光景見ておきながらまだ言えるとか本当に気持ち悪い」


 そこでまた別の生徒が通りかかった。取材の人間がどうも正しい事もわからず、第三者として呼び止めてみた。どちらの方も嘘を言っている様に見えなかったのだ。

 結局のところ、彼女が大怪我をしたという事実は取れなかった。


「何でみんな都合良く忘れてるの! だって、顔面がケロイドになってた日もあるじゃない! 眼帯してるの中二病だって馬鹿にしてたのに、何で眼帯が見えてやけどの事とか大怪我してた事とかは知らないふりしてたの? あれ、本当に気づいてないだけだったの!? いじめた意識も無く馬鹿にしてた? てっきりいじめられてるんだと思ってた!」「何を言ってるの?」「私がおかしいの? 待って! 八幡呼ぶ! あいつに確認とる! あいつも腕が無い人探してて、彼女だって言ってたの聞いたことあるし!」




 取材を行っていくうちに、一部の生徒で、大なり小なり、差違があることに気が付いた。ある一人の気弱な女子生徒への取材で、それが明確なものとなった。


 気弱そうな女子生徒は、自ら取材をかって出たのだ。そしてキョロキョロしながら、ヒソヒソささやくように取材の人に答える。


「私は二年生から転校、編入してきました。ここの学校は、本当に異常な人達ばかり。インタビューでしゃべろうとしないのは、多分私と似た感性持っているのかも。喋っている人は、皆頭がおかしいの。誰もわかってくれない。親にこれを見せても、学校に行かせようとする」


 何の事かわからずにいたが、怯えたような女子生徒が携帯電話の映像を見せようとしている事に気が付いた。

 映像はリアルのような映像で、フェイクのような映像でもあった。映像の内容は、例の彼女が映っており、怪我の治療をしていた。


「足、ちぎれかけてない?」

「こんな彼女に対して、皆は平然とスルーします。私は声も出せなくって。普通、叫び声とかあげませんか? 私がおかしいの? 皆が普通で私がおかしいの? 先生とか普通は怪我でも心配しないの? 骨が剥き出しの人に『邪魔だ、あっちいけって』言うものなんですか? 私がこの映像他の先生に見せても、良くあるからって、意見はね除けられるの? 何の感情も持たずにいられる人が普通で、模擬戦闘で血を吐くのを異常と感じる私が異常なの? わからない。この学校は、生徒も先生も皆狂ってる! 私が狂ってる! わかんない! こわい! もうこの学校に居たくないの! おかしくなる! 誰もわかってくれない! わかんない! 私がこの学校の模擬戦闘したら殺される! 助けて!」


 映像はテレビ側に提供された。彼女が自ら縫合を行っていたり、突き破った骨を、木工か何かをしているかのように繋ぎ合わせようとしている映像だ。あまりにグロテスクであるのに、気味が悪いほど周りの生徒も先生も皆が無関心だった。


 都合のいい部分だけ認識されていない。これは全て、気配消しの魔術の弊害であった。

 当時、学生三人だけのたった一月だけで作られた、欠陥魔術なのだ。問題なんてたくさんあるし、問題に気付くのもわからないのだ。


 何はともあれ、世間様はそんな事など知らない。本人でさえもわからないのだ。とにかく彼女に対する扱いは、気が付かないというだけではとても言い逃れなんてできない。それに今まで取材に受け答えをしなかった生徒達から無理矢理聞き出せば、確かに彼女は気持ち悪い程の大怪我を模擬戦闘のたびに負っていた事を白状した。意外にも、異常と感じていた生徒の何人かは証拠として映像や写真に残していたのだ。

 決定的な証拠を前に、彼女が異常という意見は見直された。異常なまでの見て見ぬふりは、原因もわからないまま、『露骨ないじめを受けていた』という結論がネットで出された。

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