18話 戦い、終わる。
ふと目を覚ました。
ぼやけた視界に白っぽい天井が、見えた。
結局、どうなったのだろうか。
上体を起こす。
僕の右側に快晴が、いた。
椅子にアグラをかいて、リンゴをかじっている。
「まだ、『夢』か!」
そう言った僕に快晴は、こう言った。
「『夢』なら、もう覚めてるよ。軽い脳震盪をおこしてとりあえず、入院しました」
「・・・そう。で、帰してくれないのか?」
「もう、帰って来てきるってば。ほら、痛み感じてるでしょ?」
そう言って僕の頬をつねる。確かに痛みを感じた。でも、実感を感じない。
「君が、なぜいるんだ?死んだ人間が、ここにいるわけない」
半ば呆れた感じで言う。
「いろいろ、変換したりして。満月の時だと成功率が、高いね」
楽しげに返す快晴。
「・・・ふぅん?」
まさかよみがえったとか、言いたいのか?
彼女が、リンゴを食べ終わるまで待つ。
「本気で本当に現実の現在の世界に帰って来たのか? 実感が、わかないんだが?」
快晴は、テッシュで口と手を拭いたあとこう答えた。
「まだ、起きたばかりだからねぇ。まあ、すぐにでもこう、ジワジワと実感するんじゃない?一応、千由さんに連絡したよん。私じゃ保証人は、無理だからね~」
明るいトーンである。人のことなんだと思っているんだ。
まだ、思考がはたらいていない。
「本当に全て終わったのか?」
つぶやくように聞いた。
「う~ん。まあ、ね~。ユリンは、消滅したはずだよ~。たぶんね」
「たぶんって。分からないのかよ?」
「ほら、あれで大きい力が、はたらいてぶっ飛んだのね。証明するのは、難しいよ」
「あ、ああ。そう・・・」
納得いかないが、仕方ないか。
「お前も、消えてしまうんだよな?あの『夢』世界が無くなってしまったから」
当の本人は、表情を変えることなく僕との会話を楽しんでいた。
「ひろちゃんだってこの世界が、あったって無くなっちゃうでしょ?それと一緒」
よく分からない。説明する力が、ないのか。
「え?分からないのぉ?」
うなずく僕。
「じゃあ、しない」
そう言って満面の笑顔を見せる。
「なんだよ、それ」
思わず笑いそうになる。かと言って仏頂面ではないはずだ。
「私は、私が消えるまで会えると思うよ」
消えるまで、か。
消える、消える。存在が、消えて無くなる。
つまり、つまりだ。
そこへ、千由が病室に入ってきた。
急いで来たのか、すごい形相だ。
せめて髪くらいセットしてこい。ボサボサじゃないか。汗で額にべったり髪の毛が、張り付いているぞ。
「生きてたのね?」
呼吸を整えてから千由は、そう言った。
「ああ、ごらんのとおり」
「そう。あなたの部屋の下で爆発が、おきてそのままここに運ばれたのよ」
「爆発だって?」
理解できない。『夢』世界が、崩壊したからか。
「生きているのが、不思議って言われたのよ。さすがに丸1週間も、寝てたけどね」
「そんなにすごかったんだ」
「もう、住めないと思うけど。アパートは、半分以上吹き飛んだから」
「僕に非は、無いと思うが?」
「罪に問われる可能性が、あると考えて」
理不尽すぎる。僕は、たぶんに悪くない。
「警察の捜査結果待ちね。どっちにころがってもあなたに、自由はないから」
ナイフのように切れ味が、鋭い一言だ。
「犯人にされる覚えは、一応ないんだけどな。なんとか、ならないか?」
「なるか、間抜けが」
千由と快晴の姿が、重なる。
違和感を感じながら、話す。
「快晴が、ここにいるけど何にもないからな。分かってくれよ」
「何を言ってるんだ?本当に大丈夫か?」
え?、と思った。
彼女には快晴が、見えないのか?
本当に幽霊なのか?
快晴と千由が、きっちり重なり一つになる。
水のように姿が、歪んでも何も感じないのだろうか。
千由が、そこから動くと快晴はニカっと笑った。
そうか。幽霊か。
今さら驚きはしないさ。
千由は、トイレに行くと言って病室を出る。
僕は、快晴をじっくりと見る。
右手をのばしてその肩に触れようとする。
何も触れなかった。文字どおり
「えへへぇ~。肉体も幽体も、もたないこころちゃんです」
「・・・だから変換とか言ってたのか。どうして、そうなるのか聞かないし知りたくもないな」
「なんでよ~~。聞いてよ」
甘ったれた声で言う快晴は、楽しげに言う。
「僕の今の頭の中は、千由のことでいっぱいなんだ。ちゃんとしないと怒られる」
「ぶウ」
頬をふくらませて抗議する。
僕は、自分の気持ちが落ち着いていくのを感じていた。
千由には悪いが、快晴といると物凄く気持ちが、穏やかになるのだ。
なんだろう。ずっと一緒にいたい、そう思ってしまう。
そこへ千由が、戻ってきた。
顔色が、青ざめている。目も、なんだか虚ろだ。
多分、僕のことを思っているのは1%程度だから仕事で疲れが、たまっているのだ。
心労ではなく、仕事の疲れだと考えた。
「お前のせいだからな。私は、お前を許さないからな。お前のせ・・・」
話しの途中で手で口をおさえてバタバタと病室を出た。
「なんだろう?」
「なんでしょう?」
快晴は、表情を変えることなく言う。
「で、帰るのか?」
これだと冷たい言い方だな、と思いつつ快晴の返事を待つ。
「気がむいたら、ね。もう少し、ひろちゃんの成長したとこ、見たらね」
「なんだよ、それ」
フラリと千由が、戻ってきた。
「ずいぶんデカイ一人言だな。一回、ハンマーで叩くか」
「死ぬぞ。どうした、風邪か?」
血走った目で僕を睨む千由。
「お前に『計画性が無いからこうなる』と言われた私の気持ちなんて、分からないだろう
な」
僕の胸ぐらをつかむ千由の呼吸は、荒い。
「鈍感で間抜けなお前がにハッキリ言う。覚悟しろ!」
「あ、ああ・・・」
無意識に両目を閉じていた。反射的なものと言っていい(悲しいことだが)。
「・・・その前に聞きたい」
「なんだよ?」
ソロリと目を開け、そう言う。
「この部屋は、私たちだけだよな?」
快晴が見えなくても、気配は感じられるらしい。
「私が、入るなり快晴がどうとか言っていたよな?」
「うん」
「いる、のか?」
「すぐ隣に。椅子に座っている」
千由は、しかしとくに驚きもせずベッドに座る。
「なら、いい。今の私は、頭がパンクしそうなのだ。もう、抱えきれない」
珍しく弱音を吐く千由は、僕をじっと見る。
「戦いは、終わったのか?」
「うん。リシンはいなくなったよ。もう、安心していいよ」
僕は、ユリンのことは言わなかった。知らないことをわざわざ、言うのはどうかと思ったからだ。言えば、きっと不必要な心配をするだろう。
「・・・そう」
「なんか、納得してなさそうだな?」
「実態の無い世界の話しだぞ?実感が、わくわけない」
「なるほど。でも、絶対に大丈夫だって」
安心させようと作り笑いで言う。
彼女は、コメカミをぐりぐりしながら何かを考えている。
「?」
「・・・お前にも、責任の一端があるからな。いいか、よく聞け」
命令口調で千由は、言った。
なんだろうとワクワクしてる、快晴を見る僕。その視線を追う千由。
やっと話し始めた千由。
「とりあえず、子供ができた。だから、今すぐ就職しろ!分かったか?」
それは、理解できた。が、実感がわかない。
僕の子供?
快晴が、大げさに拍手している。
実態が、ないからどう言っていいか分からない。何か、言わなければ。
「お、おめでとう。もちろん、産んでくれるんだよね?」
ほぼ、棒読みだが仕方ない。
快晴が、ブーイングしている。
うるさい、やかましい。
「ああ。この子に罪は無いからな。お前を殺してでも育てる」
「僕が、死んだら生活が大変だろ?」
「これで出世の話しが、無くなったら一生恨んでやるから」
「いやいや。出世より新しい命が、大事だろうよ?」
「やはり、話しが合わないな。もう、帰るから」
僕の頭をこづいたあと、千由は病室をあとにした。
そばに幽霊が、いるが実質1人だ。
『夢』世界と子供ができたは、共にリアル感が無いから実感が、わかない。
しばし、呆けていたようだ。
快晴が、僕の頬をグイっとつねる。なぜ、それができるかは、分からないが。
「まあ、とりあえずおめでとうねぇ~~。いや~、私も言ってみたかったなぁ~」
人の重い気持ちなんて、これぽっちもくまずに言う快晴。
「幽霊人生やめて、生まれかわれよ」
我ながらうまい言い方だ。幽霊人生か。
「まあまあ、そう言わないで。ようやく、こうして出てこれたんだから」
手をヒラヒラさせながら、そう言う。
「もうちょっと、ひろちゃんの成長見たらねぇ~~」
えへへ、と笑う。
「そう言えば、千由に連絡したって言ってなかったか?アイツ、そのこと言ってなかったぞ」
「あ~、あれ。他の人に憑依したから。それで、私って分かるのが、すごいと思うよん」
「あ、そ」
とりあえず、トイレに行こうかと思ったときだ。快晴が、僕の体に乗っかってきた。
実際には、その重さを感じない。が、ついこう言ってしまう。
「潰れるから下りて」
「ぶウ、ぶウ!」
「豚か、お前は」
体を左右に振っていたのをピタッとやめた。
凍りついた看護師が、目にはいったのだ。
何か見てはいけないものを見た。そんな感じだ。微動だにしない。
「あ、ああ・・・」
何か言葉を発しなければ、と思ったとき看護師は振り返ることなく、病室からきえた。
「お前のせいだ。おかしい人と思われたじゃないか」
声のトーンを抑えながら抗議する。
「まあまあ。気にしない、気にしない」
あはは、てしながら言われても、説得力がない。
「それより、大事なこと言うね?」
「大事なこと?」
墓参りを忘れるな、とでも言うつもりか。
ごめん。確かにここ10年くらい、忙しくて行ってないな。
「今回さ、白い箱がでてきたじゃない?覚えてる?」
「・・・そう言えば、あったな。それが、どうした?」
「え~とね。実は、行方不明になってましてね。探して処分しないと大変な事になるの」
一瞬間、思考がとまった。
え?今さら?
「いや、まてよ。あの『夢』世界は、崩壊したんだろ?箱なんて、無いんじゃ?」
「ん、と。順番に話すね」
まず、と言って話し始めた。
おおまかに言うとまず、リシンの世界にユリンが、乗っ取りをしようと表れた。
リシンの抵抗も虚しく、戦いに敗れて監禁された。
リシンは、ユリンに吸収される前に快晴を解放する(元々、ユリンに勝つために快晴を取り込むが、意味を果たさなかったようだ)。
解放された快晴は、その世界から脱するものの、引き戻される。
そのまま、はりつけにされる。
その時に快晴のコアを盗られる。
「ここまでいい?」
「アア」
「そのコアをまあ、一種の爆弾の材料にされたの」
「爆弾?」
イマイチ、ピンとこない。
「私が、ここに存在するために必要なコアは、起爆スイッチがはいると爆発するの。私も、消えるけど町も2つか3つは、巻き添えになるの」
「・・・本当?」
話しを聞いても、咀嚼がうまくできない。
だが、少しずつ理解できた。
「それが、本当なら今ここにいないで探してきたらどうだ?」
「大袈裟じゃなくて、本当なのよ。ユリンが、負けた時に作動したのね。コアが、戻ってくるもんと思ったけど、戻ってこなかったから」
「勝手に自動的に戻ってこないから、探しました。でも、どこにもありませんでした。つまり、そう言うことか?」
「うん、まあ、ね」
「あの爆発で一緒に消えたんじゃ?」
「そしたら、私、ここにいないよん」
そうか、そうだよな。
「実際、コアが無くてどれくらいもつか分からないけど。だから、早く見つけたいの」
「手がかりは?」
「無い」
胸はって言うことでは、ないと思うが。
「ナニシロ、姿形は基本は見えないから」
「で、お前が見える僕に手伝いをさせるわけか。これから、子供が産まれるのに大変な人間に」
「他にいないし~。ね、お願いいたしますよ~。手がかりは、探すから」
「当たり前だ。しかし、本当に箱はこっちの世界にあるのか?」
「う~ん。ん?あの感じかな~~」
「なに?」
「実態が、無いから実感がわかない」
「やはり、ただのふざけか。なら、やめる」
「違う、違う‼」
顔を真っ赤にして抗議する。
「私の話しだよ。実態、つまり生きてないから何かが、抜けていても、なんかこう、ピンとこない。つまり、そういうわけ」
「あ、そ」
ため息まじりに返す僕。
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