17話 絶体絶命

僕は、ユリンの足をつかみ、どかそうとするが微塵も動かない。次に叩くが、効果がなかった。

「終わりだよ、陽斗」

汗が、ブワっと噴き出す。呼吸も荒くなる。

死にたくないと叫び、両目をつむったとかだった。

何かが、破裂したような音がした。

「?」

ソロリと目を開ける。

ユリンが、ゆっくりと静かにくずれる。

僕の体に乗っかっているユリンの足をどかした。

僕は、急ぎ起きあがりその場を離れる。

ユリンは、魚みたいに口をパクパクさせていた。左胸から血が、流れている。

だが、ここは『夢』の世界だ。『死』は、存在しない。このあと、どうなるのか。

「まあ、消えるかな・・・と思うよ」

快晴が、警戒しながら僕のところに来る。

僕は、違う人物を見ていた。

「・・・千由?なんでここに?」

「何、その幽霊を見るような感じは?助けに来たのよ!」

学生時代ではない、大人の千由だ。

怒りの表情に見える千由は、2つ銃身のついたショットガンを持っていた。

引き金を引いて構える千由。

「ま、待て!これは、違うんだ!仲間だよ、千由」

両手を振って声を大にして言う僕。

「かわいそうに。騙されてるのにね。今、楽にしてあげるわ。死んだらいくらでも、言ってあげる」

ニタァと笑う千由。

「愛してるってね。サヨウナラ」

「ま、待ちなさいよ!私、本物のこころよ」

「もう、騙されないから。ほら、仲よく殺してあげるから並んで」

快晴が、僕の前に立つ。

「落ち着いてよ、千由さん!」

「気安く、言うな!この悪魔め!」

又、銃声が轟いた。

目をつむる。変だと思って目を開ける。

視界の端で倒れるユリンが、見えた。

「いくらでも撃てるけど、しつこく生き返るのね。めんどくさ!」

引き金を引く千由の所に駆け寄る僕と快晴。

「移動しよ!」

快晴は、そう言って僕と千由の手を握る。

僕たち3人は、公園に瞬間移動した。

夜中の噴水のある公園だ。

見覚えがあった。

「元郷の公園・・・だね?」

「いやな場所だ。むかつく」

千由が、吐き捨てるように言った。

何年か前に殺人事件が、おきた場所だ。

売り子(つまり、あの双子だ)を半グレの集団が、リンチで殺害したのだ。

当時、警官だった僕たちは予兆が、あったにも関わらず防げなかったと非難された。

「私を糾弾したいのか?」

言葉が、キツイが気持ちは分かる。

「別に~。私、の人間だし。

そっちは、そっちでしょ?なんとかしようと思って、ここにジャンプしたのだ」

腰に両手をあてて快晴は、言った。

「・・・あなた、 リシンじゃないの?違うなら、リシンはどうしたの?」

本人は、優しく言ってるつもりだろう。けれど、トゲがある言い方だ。

「ん?リシンは、ユリンの手で消滅したよ。でも、その前に私を切り離したの」

「切り離した?」

どういう意味か、僕は聞く。

「私、リシンに吸収されてなかったの。まあ、冬眠状態ね。なぜ、リシンがそうしたかと言うと・・・」

顎に手をあて考える。

「パワーを上げるため、かな。あのユリンって奴は、かなりの悪で。気に入ったものは、全て吸収するの。なんとかしようとしたリシンは、私を欲したの」

「いや、そこで逃げろよ!」

思わず僕は、そう言った。

快晴は、僕と千由を交互に見た。

「なんていうか。私としては、それもいいかなぁ~って思ったのね。リアルは、勉強だの成績だので窮屈で。なら、いいかなと」

「ちょっと待てよ!お前、助けを求めたじゃないか?あれは、ウソなのか?」

千由が、銃を快晴に向ける。

「待て、待て。こころちゃんは、本物だよ」

「じゃ、なぜ、リシンに従ったんだ?」

「ん~。なんて言うか。『夢』世界なら希望が、叶うんじゃないか。迷いは、あったよ。

ひろちゃんに相談しようと思ったんだ。

でも、反対するって思ったら言えなくて」

「・・・何を反対するんだ?」

戸惑いながら快晴は、言った。

「魔法少女になること」

スゴイ間が、あった。永遠かと思った。

「アナタ、本気?」

銃を下ろし、千由が言った。

「うん!」

元気よく答える快晴。

「呆れた。ネジ、ぶっ飛んでるわ」

千由の言いたいことは、理解できる。

幼馴染の快晴は、そういうところが確かにあった。妄想と言うか、想像力がありすぎたのだ。でも、中学生になれば自然となくなると考えていた。

「でも、変わらなかったんだ。諭すことも、気づいたらやめてた」

悪いのは、やはり僕か。

でも、と快晴は言った。

「でもそれは、建前なの。あの当時って言うの?私の両親、離婚寸前だったの」

「ウソ?初めて聞いたぞ?なんにも言ってないし!」

「なんやかんや、外を気にする人たちだったからね。ひっそりと終わらすつもりだったのよ。まあ、私なりの逆襲ね」

「・・・オバサンたち、葬式の場でケンカしたんだぞ。そりゃあもう、殴りあいまでしてたんだぞ?」

「お互いに非難しあった?」

「まあ、そうだね」

「で、別れたの?」

「その前にアナタ、知ってるんじゃないの?陽斗の『夢』を通じて」

「あ!」

「ま、だいたいはね。生きていた時は、ツマラナイ大人 たちって思ったわ。私自身も、気づいた時は、ストレスでおかしくなる手前だったし。でも、ひろちゃんに心配かけたくなかった。ひろちゃんの前では、明るい天然な少女を演じてたの。騙してごめんね」

そう言われ思い出した。

「一時、抜け毛がすごいって言ってた。まさか、それが原因だったのか」

快晴は、うつむき加減に小さく「うん」と言った。

「あ、そう。こっちはこっちでひどい目にあったのよ!」

「それは、に変わって謝ります。でも、彼らは『夢』を通じて生命力を吸収しないと消滅しちゃうの。質が、悪いと食あたりおこすからとりあえず、集めて吟味したり熟成したりして吸収するのね」

「じゃ、アナタも同じじゃない?」

「いずれはね。今は、リシンが残したのがあるけど。その前にユリンが、それらを奪いに来たの。私は、小汚ないアパートに磔にされるし。勝手にストーリ―作られるし」

「で、アナタの目的は?」

スゴく怒ってるのを感じとる僕。

その前にユリンは、まだ生きてるかもしれない。実は、時間的余裕は無いはずだ。

「一緒にズウ――~~とひろちゃんとここにいたいよ。でも、アナタがソバにいるから諦めるね。えと、千由さん。ひろちゃんをよろしくお願いいたします。私、ここで待ちますから。えと、そういうことで・・・」

僕は、何故か千由に睨まれていた。

どうするのか、どっちを選ぶのか。そういう話しだろうか。

「まあ、今は決めた人が確かにいるから」

「確かに?曖昧だな?」

なぜ、そうなる?女は、面倒だ。

「千由と生きていく。残念ながら快晴とはいられない」

「残念って私、捨てられるのね」

「もて遊ばれてかわいそうに」

どう言えばいいんだよ、と心の中で毒づく。

そのとき、やや強い風が吹いた。

ユリンが、現れた。斧で武装している。

両手で持ち、突進して来た。

千由が、ライフル銃を撃つが効果無し。

憤怒状態のユリンは、獣のように叫び、僕たちに襲いかかる。

「どうにかならないのか?」

できるなら、とっくにやっている。

僕たちは、一緒になって公園のなかを逃げまくる。

ユリンの足は、速い。まあ、物理的重力的な束縛はうけてないから当たり前だ。

僕らも、そのはずだが追いつかれそうだ。

公園の出入口の所で僕らは、止まった。

「どうするのよ?」

この『夢』世界の住人たちが、行く手をふさいでいた。

知っている人たちも、いる。血の気が、なくてまるで映画にでてくるゾンビみたいだ。

数が、多くて強行突破はどだい無理だ。

ユリンが、ゆっくりと歩いて来る。

千由が、ライフル銃を構える。

僕は、千由が撃ったら殴りに行くつもりだ。

「いや、無理っぽい」

反対側からも、ゾンビみたいのが迫って来るではないか。

「えと、ひろちゃん。あれ、覚えてるかなぁ?」

「こんな時に何を言ってるの?」

今にもキレそうな千由が、叫んだ。

「そうだぞ、こころ。お前も、消されるんだぞ!」

「ひろちゃん。私が、好きなソースは、なんだったか覚えてる?」

「・・・それを言ってどうする?」

「いいから、合わして」

「策が、あるんなら早くやれ!」

千由の怒号がとぶ。

「はい、よ!」

快晴は、左手から光の球をほとばしらせた。

それが、千由に直撃した。

「オイ!」

快晴の右肩をつかんだときだ。

千由の姿が、変わった。

まさしく、化けの皮がはがれたのだ。

中身は、ユリンだった。

「え、エエ!?」

状況は、把握したが理解できてない。

「よく、考えなよ。千由さんが、そんな簡単にこの『夢』世界に来れるわけないじゃん」

言われれば確かにそうだ。

じゃ、なぜ今まで引っ張ってきたのだ?

「ん~?騙されて油断させるつもりでした」

「そう・・・」

バチバチと音をたてて燃えるユリン。

ゾンビみたいな集団は、いつの間にか消えていた。

これで終わりかと思ったときだ。

燃えているユリンが、動きだした。

「ひろちゃん。じゃ、本番だよ」

「効果あるんだよ、な?」

「もちろん! 一か八かよ!初めてやるんだよね~!」

ああ、終わったな。せめて新婚生活の甘い気持ちに浸りたかった。

「いいじゃん。私とすごせば?」

「こころ、来るぞ!」

「じゃ、せ~ので」

一緒にあわせてやる必要性が、果たしてあるのかは、考えなかった。多分、それは意味がないだろう。

「怪味、フルーツアタック!!」

それは、僕がここに来る前にパソコンの画面にでていた言葉だ。

何のことか、サッパリ分からない。

白い光りに包まれたユリンは、必死にもがいていた。獣のように叫び、抵抗している。

だが、それも長くは続かなかった。

光りと共にユリンは、消えた。

「・・・終わったのか?」

「終わったけど、急ぐよ!」

そう言って空飛ぶホウキをだす。

「急ぐってどこに?」

「この世界は、ユリンに毒されてるんだ。主人が、いなくなれば崩壊する。ほら!」

ガラガラと耳をつんざく音が、辺りに響く。

ホウキに乗った快晴に手を引っ張られる。

僕が、宙ぶらりんな状態のまま空高く飛ぶ。

「ひろちゃんだけでも、助けるから!」

風でよく聞こえなかった。

周りが、まっ白く光る。

を僕は、失った。

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