15話 夢の話し

ひどい痛みで僕は、夢から戻ってこれた。

コンクリで寝ていた僕は、ガバっと上体をおこす。

左右の頬が、痛い。どうやら、彼女にひっぱたかれたようだ。

リクルートスーツを着た彼女の名前を呼ぶ。

「ありがとう。千由、助かった」

「油断するな、バカたれ」

鋭い視線を受けながらそれを聞く。

「油断してたわけじゃないんだが」

アグラをかき、言い訳をする。

がなんでまた、今頃活動を再開したか分からない。そもそも、目的もとい存在の意義も含めてな」

「まあ、な。奴は、夢と言う武器を使って対象者を潰してくる。選び方の法則性も、よく分からないしな」

ハスキーな声が、頭の中で響く。嫌いではない。愛らしいと思ってる。

「リシンが、狙ってるのは僕だけのようだ。すっかり、気にいられてるみたいだ。

僕のに化けて毎回、でてくる」

「・・・好きだったんだろう?」

「直球だな。ヘタしたらボークだぞ」

「もう、いい年になったんだ。いちいち、オブラートに包んで言えるか」

「じゃ、僕も言っていいか?」

「なんだ?」

「殺される前に僕の子供を産んでほしい」

「うん」

「ん?」

「奴の呪いだな。頭の骨を砕こう。丁度、ここに木槌があるし。行くぞ」

「待て!落ち着け。僕だっていい年になったし、いいだろう」

「やかましい。警察辞めて探偵になりやがって。この間抜けが!」

「いろいろ、制約がありすぎて動けないと思ったんだよ。早く、この奇妙な関係を終わらせたいんだ。千由だってそう、思うだろ?

いつまでも、に束縛されたくないだろう?」

「で、終わったらお前に束縛されるのか。

つまらない、人生だな」

千由の表情は、鉄のようにかたい。

まあ、それが彼女らしくていい。

彼女こと、天野千由とは高校のときに知りあった。非常に真面目で冗談が、通じない彼女は、周りから鋼鉄の女と言われてた。

けれど、それは夢に入り込む者「リシン」の仕業だった。抗い、そして感情の一部が壊されたのだ。

まあ、その話しはおいといて今は、こっちの事を話そう。

天野千由は、所轄の刑事である。階級は、警部補だ。さすがに小説とか映画みたいに本庁の刑事には、なれなかった。

僕も、警官になったけど交番勤務で彼女と一緒に行動できなかった。

千由は、仕事で(ほぼ雑用)手一杯で身動きがとれなかった。

まあ、それならそれでこの地元の事件簿を直で知ることが、できた。

結論から言うと夢を使ってされたであろう、人たちが昔からいたようだ。

その人たちは、精神に異常をきたしたとして闇に葬られた。

つまり、最後どうなったか分からない。自分で命をたったか殺されたか(つまり、リシンによって)。

いろいろ調べて(非番と貴重な休みを使って)、それらしい人たちに会った。

だけど、まともに話せることはできなかった。皆、生ける屍だった。

唯一、元自衛官の鈴木という男が、どうにか話すことができた。

彼の話しだと、仕事を辞めるか悩んでいたら夢の中に少女が、あらわれたそうだ。

夢は、自分がまだ小学生くらいの時だった。

細かいことは、覚えてないが転校生だと言う彼女(名前は分からないと言っていた)と一緒に遊びに行った。

一番思い出深い、遊園地で遊ぶ。当然ながら時間は、そこには存在しない。

いくら疲れても、陽は沈まない、営業終了のアナウンスも流れない。

そうして、彼女は掴んだ手を離してくれなかった。恐怖を感じた彼は、その手を振りほどいて逃げたらしい。

けれど、逃げ場はない。

走っても走っても、同じ場所をぐるぐるまわっていた。

叫び、抵抗していると痛みを感じると同時に夢から逃げられたという。

その時は、たまたま実家に帰郷していて、異変に気づいた親に起こされて一命をとりとめた。

だが、そのあともリシンは夢にあらわれ、彼の生命力を徐々に削っていった。

そして、鈴木は自殺を試みるが失敗。

結局、職とあるべき未来を失い、精神に問題がおきたとして、病院にはいることとなった。

みたいに生き残ってるのは、どうやらいないようだ」

それが、結論だった。

仮にいるとしても、リシンを恐れて、影を潜めてひっそりと生きてるだろう。

彼あるいは彼女が、なぜ存在(あるいは精神世界において)するのか。

また、リシンは気にいった人間から生命力を夢をかいして、吸収してると推論した。

骨と皮だけになった鈴木を見ていると、そう思わずにはいられない。彼の光りを失った目が、何かを語ることはない。

「それで?」

「次でカタをつける。倒す方法は、分からないけどやるしかない」

「そう。期待しないでおく。それから、小沢を覚えてる?」

「・・・確か、虎のイレズミがある元締めだったあの男か?」

「そう、あの男もそうらしい。最初は、エンジェルキッスでもやってるのかと思われた。

けれど、どうも違うらしい。

収監先で『リシン』と何度も叫び発狂して、心不全で死んだそうだ」

「小沢の部下だった田島も、そうだったよな。酒、飲んで階段から落ちて死ぬ前に言っていたらしいが」

夢にでてきた皆川(と社長役の男は、同一人物と思われる。元会社経営者だ)も、やはり亡くなる前に『リシン』の名前を叫んでいたという。

「あとあいつが、でてきた」

「福知か?」

ストレートに聞く千由。

僕は、うなずいて答える。

福知は、僕の中学のときの同級生だ。

『夢』に追われ、最後はフラフラと吸い込まれるように踏切の中に入り、電車にひかれて

死んだのだ。

僕は、その時の目撃者だ。オモチャのブロックのように、バラバラになったその様は、今だに忘られない。

「今回も、いろんな人たち(若しくは犠牲者)がでているよ。それから君も、でてるから」

「そ。。アイツは、夢のなかではやりたい放題だ。こっちが、抵抗できないのにな」

「覚えてるか?福知が、なんとかしようと戦いを挑んだ時を?」

「うん。『夢』の中でな。アイツのおかげで私は、助かったんだ。1度、吸収された私を省みずにな。結果、私は助かりアイツは、死ぬことになった。

リシンは、正直倒せないと思う。倒しても、又今回みたいに復活してくるんじゃないのか?」

表情は、かたいが言葉には感情がこもっている。怒りと哀しみが、まじっている。

「そうしないと僕たちは、安心して生活できないんだよ?やれることは、やらないと」

「策も無しでか。呆れたよ、全く」

「だから、安定した収入捨てて探偵やってるんだよ」

ニカっと笑う僕をこずく千由。

「終わったら、全て終わったら、ハローワークへ行けよ。約束しろ」

「うーん。あやかし専門の探偵は、どうだい?実は、ちょぼちょぼ案件はいってきてるんだよね」

「好きにしろ、バカたれが」

「よし、決めた」

「何を?」

「このまま、婚姻届だしに行こう」

「死ね。呆れてそれしか、言えない」

そう言って、ゲンコツで僕の頭をグリグリする千由。

本来ならお互いに笑うところだが、笑えない。彼女は腕を組んで、僕を睨んでいた(内心、微笑んでいると思ってる)。

千由は、この後署に戻ることになったので、この場で別れた。


千由と別れた後、僕は自分のアパート(兼事務所)に帰った。

6畳の部屋が2つある、2Kの間取りだ。

乱雑に紙類が、積み上げられた机にあるパソコンに電源をいれる。

別に使うつもりはない。あえて習慣的にやってるだけだ。

パソコンの向こう側にある壁に千由の写真が、貼ってある。

いつか来た時にはがせと言われたものだ。

まだ、普通に笑えた頃の写真だ。本人が、捨てたものを僕が、こっそり拾って持っていた。最初は、激怒されたが一応の説得で捨てられずにすんだのだ。

中学の頃の彼女は、こんなふうにいつも笑っていたと妄想する。こうなる前に会いたかった。

けれど今は、これ以上リシンの被害者をださないようにしなければ、ならないと決めた。

なんとなく、紙を手にとる。

妖の仕事なんてあるわけない。だいたいが、眉唾ものの依頼ばかりだ。

とは言え、仕事しなければ生活できないのでやれそうなものだけ、受けている。

おかげでそういう、説明のつかない力がついたのだ。

まあ、千由とはゆくゆくは、結婚するつもり

だからこの仕事も、長くはないと思う。

千由には、策は無いと言ったがヒョットしたらというのは、実はあった。

一か八かだから、違っていたら僕は奴に吸収されてしまうだろう。

「まあ、効果があっても彼女が、言うように復活するかもな」

ごちる僕。

狐、狸、狼、猪。地方によっては、いろんな神様がいる。

快晴は、よくそんな話しをしていた。

だから、と言うわけではないだろうが、は彼女だった。

快晴は、訴えた。

夢に闇の神様が、あらわれて私を殺そうとする。そう言っていた。

必死の訴えを僕は、真面目に聞かなかった。

試験勉強で彼女の話しに付き合う、余裕がなかったのだ。

気がついた時は、遅かった。

僕の夢にその闇の神様(つまり、リシン)と一緒にあらわれて、ようやく快晴を信じた。

だが、手遅れだった。

葬式の時からしばらくは、立ち直れなかった。後悔しまくりだった。

うす暗い部屋で泣き叫んだ。

ある日、快晴こころが夢にでてきた。

夢の中でひたすら謝る僕に闇の神様は、愚か者だ、とあざ笑う。

夢では、快晴になったリシンと付き合った。

そのままだったら、僕は奴に吸収されてとっくに死んでいたはずだ。

けれど、魂だけになった快晴が僕を助けてくれた。僕は、彼女を助けなかったのにだ。

笑顔で快晴は、自分を見失わないでと言った。

確かにそうだが、ガキだった自分がそれを咀嚼するまでに時間が、かかった。

何度か助けられ、リシンはあらわれなくなった。だが、高校に進学した時、リシンに襲われた天野千由と福知茂に出会った。

千由は、既に標的にされていて後遺症に悩んでいた。

福知は、新な標的になった。

体験者でなければ、変な奴と思って関わらないだろう。

彼の表情を見て、分かったのだ。

誰でもそうだが、最初は突っ張ねた。

けど、日にちがたち耐えきれなくなると彼から話してくれた。

リアルな世界では、距離をおいていた千由も、夢のなかで共闘した。

そうして、福知を死なした。

一緒にいた時間が、短かったからか不思議と悲しみは、あんまりなかった。

彼が、実はどんな人間だったか分かるか、とリシンに言われたことが、ある。

正直、分からない。お前と戦うのにいっぱいいっぱいだった、と返した。

アイツは、ケラケラ笑っていた。

ヤッパリね。所詮、

その言葉は、今だに忘れられない。

そのとき、パソコンの画面に文字があらわれた。

『そろソロ、いいか?』

あせるなよ、とキーボードを打つ。

「待てないか。一応、LINE流しておくか」

僕は、そう言ってスマホをポケットからだす。

「・・・愛してる、といれておこう。サヨナラは、言わない」

そして僕は、隠してある(千由に内緒にしている)タバコを取りだし、火を点ける。

最後になるかもしれない、一服をゆっくりと味わう。

パソコンの画面に又、字が書き込まれる。

『ウマイか、小僧?あっちでは、禁煙だからな。ケラケラ』

バカにしてるな、思いきり。

それを打ち込むと又、返事がすぐにきた。

セッカチだな。全く。

タバコをもみ消し、画面をジッと見る。

また、奴からメッセージがきた。

『全ては、終わらない。全ては始まる』

『小僧は、デザート。甘みたっぷり』

『ハコに納める小僧。いっぱい、いっぱいデザートのお代わり。フルーツ、何あじ?』

最後のはよく分からない。

たまにリシンが、求めるメッセージが理解できない。まあ、敵だから半分くらいの理解でいいと思ってる。

床に敷いてる布団にゴロンと寝る。

電源を切るように意識を失った。



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