12話 ある考え
3階の会議室から2階の多目的室とプレートが、かかった部屋に舞台が移る。
部屋は、大した広さではない。
まあ、20人くらいは収納できそうだ。
窓には、黒色のカーテンが閉められていた。
快晴、福知、陽斗、木下、ハン、田島、鈴木、小沢そして社長が部屋に入る。
「え?」
部屋には既に先客がいた。
丸さんと白のワンピースと装飾品をつけた千由が、椅子に座っていた。
もう 1人、床にロープで巻かれた男が、転がっている。
見覚えが、あった。神崎だ。なぜ?
「サア、皆さん。その辺にある椅子に座ってくれ。茶は、今用意させっから」
いや、茶など飲む雰囲気ではない。
早く家に帰りたい陽斗は、何の感情を見せない友人2人に不信感を抱きはじめていた。
一体今まで何があって、これから何が おきると言うのか。
部屋の中は、さっきよりは冷房がきいているはず。だのになぜか、脂汗がジワジワ噴いてくる。
「丸さん、なぜここに?呼ばれたんですか?」
「そう言うこと、かな。急な仕事のついでだ」
このあいだから、話しかたが控え目だ。
木下に弱味でも握られているのか。
「あの子が、前に言ってた千由か?」
「うん。でも、いつもと違う」
陽斗は、千由に話しかけている快晴を見る。いつもと何ら変わらないように思う。福知だってそうだ。黙ってるとピリッと怖そうな感じも含めて。
「それより、丸さん。これ、見てくれよ!」
「なんだ、小沢さん?」
「イレズミ、消してもらえたんだ」
子供のように喜んで言う。
「そ。おめでとう。うん」
「なんだ、素っ気ないな」
「今、いろいろと整理中なんだよ」
「アア」
ニラまれたので話しが、とぎれた。
「あの、さ。福知、何かさっきから変だ。なんて言うのか。いつもと違う気がするんだけど。気の、せいだよね?」
陽斗が、うつむきかげんで言う。
「あ、ゴメン。今、戻すから~」
快晴が、軽い口調で言う。
彼女が、右の人差し指を福知のおでこにあてる。すると、ポンって感じで小さなキツネの人形に化けた。
状況が、分からない一同は口が開いたまま、かたまる。
「福知君、ちょっとかたいところあるからこの人形、代わりに使ったんだ~」
こっち側の状況を無視して快晴は、話しを続ける。
「どこで代わったって?仕事が、終わってバスに乗るあたりだね。陽斗を少しだけ、時間の流れ遅らせてその間にね。
福知君、今頃寝てるかな~」
「だから、話しを合わせてよ。めんどくさいからさ」
千由が、話しをつなげる。
いや、待て。なぜ、千由はこんなに冷静なのか。普通は、何かしらリアクションがあるだろう。免疫ありすぎだ。
「何よ?何で私が、ここにいるかって?」
いや、違う。まだ、状況を飲みこめてないんだよ。
「そう、ね。囮ってやつね。ちょろっと上にいた奴、おびき寄せるのにね。ああ、大丈夫よぉ。家にこれと同じ人形に留守番させてるから。父さん、泣かせるわけにはいかないからね。ついでに新聞配達、やらせようかしら
。ダメ?そう」
「でね、聞いて?念のためにここにいる神崎って奴、調べてもらったの。そ、木下の知り合いにね。残念ながら、クロだったわ。その学校に在籍してなかったの。
え、その正体?
ん、と。
公園で事件をおこした犯人の仲間。なんと、その様子を隠れて撮ってたのよ。それは、丸さんの仲間が、証明してるわ。証拠映像有りだし。
で、なんで彼らは小沢さんも言っていた白い箱を探しているのか?
なんだと思う?分かんないよね?
いろいろあって言えないけどたぶん、お金ではないか?
ほら、クスリ売ったお金、どこへ行くか?
公園にいた連中は、それを回収する役割を担ってるのでは、と考えたわけよ。
いい、ここまで?」
木下とハンと社長は、かろうじてフムフムとうなずいている。
けど、こっちはまだ咀嚼できていない。
「ち、ちょっと待てよ!箱の中身が、売上金だって?たいして入ってるとは思えない」
小沢が、反論する。
「憶測だが、USBじゃねぇかと思う。ほら、誰でも見た目で判断するし」
「パスワードをガチガチに固めれば、知る人間は限られるでしょう。そういうことです」
ハンが、木下をフォローする。
「・・・それで金、手に入るわけ?」
「まあ、そうでしょうね」
「なるほど。金が無くなったから双子が、着服したと思われたのか」
鈴木が、迷いながらそう言った。
「う、ウスウス気づいていたが、一連の流れはそういうことか」
負け惜しみで言う小沢。
「確実に分かってるのは」
丸さんが、前置きしてこう続けた。
「Y市で作ったエンジェルキッスを工業団地で売る。恐らくは、買った奴のリストと売った数量とその売上金を入れた口座の記録が、入ったUSBを箱に入れて双子に渡す。双子は、言われたとうり公園のあの場所に置いて帰る」
「え?でもなぜ、直接渡さないんだよ?」
「あんまり、知られたくないってやつでは?」
「そこは、想像で終わってる。ひょっとしたら、回収係りがすぐに来るはずだったかもな」
なるほどと思う。
「いや、まってよ。さっきから何を話してるんですか?すごく、危ない話しですか?」
陽斗が、叫ぶようにして間に入る。
「あの消えた箱の話しだよ。いわゆる反社会勢力が、関わった話しだよ。君には、関係ないかな」
社長が、答える。口調は、柔らかいが警告を含んでいた。
少し間が、あった。
「・・・分かりました。でも」
「でも?」
「なんで、快晴が関わってるんですか?」
「友人つながりだよ。元々、普通じゃねぇしな」
「大丈夫だよ。陽斗には、迷惑かけないから~」
「いや、おかしい。おかしい!」
思わず、そう叫ぶ。
「だって僕らは、ただの学生だよ? わざわざ危険な事に突っ込んで どうするんだよ⁉ そこにいる神崎さんだって言ったよね?関わるなって?
いつもみたいにさ、妄想の話しをしてるだけならいいさ。でも、現実に体験して死んだらどうするのさ?
考え直して!まだ、間に合うって!」
必死に訴える陽斗。
そう、神崎は敵かもしれないが、その警告は素直に受けとめるべきだ。
「俺もそう思う。快晴さんが、どうあれ関わるべきでない。証拠が、一通り揃えばあとは、警察に任せるべきだ」
小沢は、そう言った。
「確かにそうなんだよね~。でもさ~、私考えたのよ」
「何を?」
「毎日、学校と家の往復。まあ、バイトしてればその3つだけど。
はっきり言ってツマラナクナイ?
こう、さ!たまには、スパイスが欲しくならない?」
「スパ・・・イス?」
「そぉぉよ! スパイスよ。そうすれば、窮屈な退屈な閉塞感な毎日が、少しはマシになるはず。
ね?陽斗も参加する?それとも?」
うつむいている陽斗をじっと見る。
「ヤッパ、無理だって。よしなよ」
千由が、言った。
「でもぉ・・・」
「あのさ、快晴?やっぱり、やめるべきだ。今なら間に合うよ。そりゃあ、妄想がたまたま本当になったならまだしも・・・。
いやいや、どのみちダメだ。
引き返すなら今だと思う。快晴?」
「ん~、参加は厳しいか。あ、私はもう引き返すことは、できないから」
「ハッ?なんで?」
「そうですよ。事情は、どうあれやめるべきです」
田島が、ペットボトルの茶を一口飲んでからそう言った。
「ん~、どうしたものか?」
人差し指をあごにあて、天井を見る。
「も~、言っちゃお。ハッキリと」
そう言いながら、もぞもぞ動く神崎を踏みつける千由。
「ん、ん~、ん」
猿ぐつわされてるので、何を言ってるか分からない。
「あの、何を?」
陽斗は、自分の心拍数が上がっているのを感じていた。
「ん?ん~、陽斗さ、覚えてる?」
「な、何をだい?」
「千由のお母さんが、家出したときのこと」
「あ、ああ。確か、小6のときだよね?しばらく、みんなで探して結局見つからなくて。
その、なんだ。
千由が、泣きじゃくりながらお母さん、呼んでいたよね。
それが、どう関係してるのさ?」
「そうだよ。確かにね。親戚からは、若い男と浮気してたとか意地悪言われたけど。
でも、どうあれ私の父さんが絡んでいたんだ」
「お父さん?」
千由の表情が、石のようにかたい。両目が、鈍く光ってるだけ。
「本当なら墓まで持っていきたいくらいよ。恥ずかしいからさ」
「あの、悪いけどもろもろ、あとが詰まってるから・・・」
鈴木が、そう言って遮る。
「るさい! こっから重要なんだよ!
今回のことと関係あっかもしんないだよ⁉」
怒鳴る千由。後ずさる鈴木。
「んふフ・・・」
ヘラヘラする神崎。
「あ~、本当、イライラする」
「まあまあ。落ち着いて」
なだめられた千由は、話しを始める。
「・・・実は、私の父さん。パチンコにはまっていたんだ。当然、お金は足りない。で、消費者金融ってところから借りる。
けれど返すあては、無い。
じゃあ、貸した奴はどうすると思う?」
左足で神崎の頭をグリグリしながら、誰かが答えるのを待つ。
「・・・」
どうやら、神崎は喜んでいるようだ。
「あ。もしかして、何かヤバイ仕事をやらしたとか?」
田島が、答える。
「うん、そう」
「ちなみに何を?」
「ヤバイ、クスリの配達。他にもやらされていたみたい」
彼女は、ハッキリとそう返す。
「でも、父さんは、捕まりそうになって辞めたいと言いだした。ひょっとしたら、逃げるつもりだったのかもね」
「で、どうなったの?」
「もしかして、オバサンを人質にとった?」
「そ 。仕事帰りにさらったのね。あとは、返してほしかったら、言うこときけ」
「・・・きかなかったら、殺す?」
「え?でも、まさか?」
「たぶん、生きてるわ。でも、どこにいるかは分からないの」
「お父さんは、なんて言ってるんだ?」
「一応、捜索願いはだしてるみたい。自分も時間つくって探してるわ。
そうそう。借金は、無くなった。悪い連中が母さんと一緒に姿を消したのよ」
「普通は、最後まで絞りとるんだがな」
「警察が、気づいたと思って逃げたのかな?」
「で、話しはここから変わるのよ。実は、そのお金貸した奴に似た人間を見たの」
「それ、どこだと思う?」
快晴が、割ってはいる。
「あの公園だとよ」
丸さんが、答える。
「もしかして、リンチ事件と関係が?」
「配達の途中でね。家に押し掛けた奴に似た人間が、公園に入るのを見たの。
仕事も終わっていたし、思いきって後をつけた。そしたら、アイツ人が死んだかどうか、確認しに来たわけね。多分だけど。
死体には驚いたけどギリギリ、声をあげずに逃げた。けど、コイツがいた。
こうしてくれれば、黙っていてやるって言われて仕方なく言うこと聞いたわ」
そう言いながらまた、足でグリグリと顔を踏みつける。
「それは、あれか?前から神崎は、お前のことを知っていたのか?」
イラついてる丸さんが、そう言った。
「母さんいなくなった日から、私たち家族を監視していたって。驚きよね~。まったく。
こんなそばに敵が、いたなんて」
「で、警察来る前に逃げたわけ。千由は、神崎に言われるがまま私に電話をする。その時の私は、神崎が敵だと思ってないからまともに作り話しを信じたのね~」
「その話しは、あとで陽斗に聞いて。私もそのときは、死体とか見たあとでパニクっていて神崎を信じたわけ」
「で、一応シロかクロか調べてほしいと言われたのね。陽斗の家に来た時は、返事がきてなかったのね」
「あ、あそう・・・」
至福の喜びに浸っている神崎を見る。
これを見ていると敵には、到底思えない。ただの変態にしか見えない。
「それで、話しはどう進んだんだ?」
丸さんが、急かす。
「私をストーカーした小泉って奴がいた組織が、倒すべき敵だと思う。多分じゃなく絶対に。だから・・・」
「いや、待てよ!話しが、大きくなってないか?」
「いくらなんでも、膨らみすぎ」
「うちの社長にも、それ言ったのか?親が、いなくなった件を含めてよ?」
「僕は、初耳ですよ。でも、千由さんは、そこに親がいると本気で思ってるんですか?」
千由は、コクンとうなずく。頬が、ほんのり赤い。
「もうね。父さんを見ているのが、ツラいのよ。自分を責めてばかりいて」
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