11話 事務所
場所は、倉庫から前園の組の事務所に移る。
家と言うより屋敷だ。広い敷地の一角に鉄筋コンクリートの3階建ての事務所が、ある。
さすがに屋敷には入れないが、この事務所は比較的自由に出入りできる。
とは言え、常時強面の組員が、受付にいるのでよっぽどの覚悟が、なければ入るのは難しい。
3階の大会議室とプレートが、ついた部屋に案内された。
「お前、離れろよ」
福知が、くっついて離れない陽斗に言う。
「こ、恐くないのか?」
震えながら陽斗が、答える。
「大丈夫だから。元の人が、いるんだしさ」
困った感じで福知が、返す。
その元ヤクザの小沢は、なぜか背中のイレズミを周りに見せていた。
ハッタリか挨拶がわりか。
「早く、済ませましょうか」
社長が、木下に言う。
「それは、アイツに言ってもらおうか」
部屋の様子は、カーテンでしめられていて分からないはずだ。
「ん~!」
猿ぐつわをされ、後ろ手に手錠をかけられている。両足もロープで縛られていた。
しきりに何かを訴えているが、目隠しをされているのでこちらに伝わらない。
構成員の一人が、目隠しだけ外した。
「ん、ん~!」
頭を激しく左右に振っている。涙目だ。
「よお、コイツか? お前が、退治した変質者はよ?」
「うん!」
明るく答える
木下が、免許証を見ながら男に話しかける。
「小泉で間違いないかな?」
ゆっくりとしゃがみ、そう聞く。
小泉と言われた男は、頭を上下に振る。
「ズバリ、聞くぞ。なんで、あの子をストーカーしてた?」
いや、猿ぐつわされてるから何を言ってるか分からない。
「仕事だから、だそうだ」
後ろを振り返らず、そう言う木下。
なぜ、分かるんだと思った。
「なんで、千由だけなのさ?」
快晴が、上から見下ろす感じで聞く。
「途中から私も、いたのに千由をしつっこく追っていたよね? なんで?」
声のトーンが、いつもと違う。怒っている。それとは別の感情が、混じっていると感じた。
「つうか、ストーカーのストーカーをやっていたのか。陽斗、知っていたか?」
「知らない。知るわけないだろ」
小声で話す福知と陽斗。
「何かとんでもないのが、でてきそうだな?」
「まあ、覚悟は決めてるから」
「そうそう、驚きません」
3人のオジサンたちは、やはり小声で言う。
猿ぐつわをはずされた小泉と言う名の男が、話し始める。息が、荒い。相当怖い目にあったらしい。
「お、俺は頼まれただけなんだ。さ、最初はあの双子を見張っていて。しばらくしたら、目撃者だっていう女を
本当だって! 信じてくれよぉ」
必死に訴える小泉。声が、震えている。
「で、リーダーっつうか。仕切ってるのは誰よ?小泉君?」
一応、優しく問う木下。
多分、「俺は知らない」と答えるだろうと予想していた。
なぜなら末端の使い捨ての人間だろう、と思っていた。
「な、名前までは分からないよ。 でも、大鉄みたいな老人が、代表者って思っている。い、いや。きっとそうだ。1回だけ、集会にあらわれたんだ。で、すごい偉い人扱い受けてたから間違いないよ」
過呼吸気味に話す小泉。
「代表者で何で名前、言わないんだ?おかしくないか? だいいち、名前分からないっておかしくないか?大鉄ってなんだよ?」
木下が、そうあおる。
「あの、多分ですけど格闘ゲームのキャラですよ。 白髪頭の長髪で顎ひげが、胸くらいまであるおじいちゃんです」
福知が、臆せずはっきりとそう言った。
「あ~、なるほど。おじいちゃんか」
うなずく木下。
「でさ、他には?」
耳を引っ張り、さらに聞く。
「あと、あと・・・」
顔色も青白い、呼吸もおかしい。
これ以上は、もたないか。
「ハタ、旗。赤い色の旗が、ある」
「ほう」
「どんな感じの旗なの?」
「ね、ねぇ。確かに悪い人だろうけどもう、やめようよ」
「おっ? 陽斗、言うじゃねぇか」
茶化す福知に緊張感が、無いのかと思う陽斗。
「た、確かハンマーと・・・。 何か棒みたいのがバッテンになっていて。 あ、あとは分からない。助けてよ」
「はい、はい。ちょっと待てよ」
木下は、そう言って快晴を見る。
「もしかして、ハンマーとライフル銃が旗の真ん中にクロスしてるヤツかな?」
「知ってるのか?」
「知ってるヤツなら結構、ヤバイかも」
「オイ! ヤバイってなんだよ? てか、快晴は何者だよ?」
小沢が、声を荒げて聞く。
「それは、あとにして下さい」
ハンが、間にはいる。
「でも、僕ら、分からないよ! 快晴、なんだっていうんだよ?」
陽斗が、訴える。
「もろもろ、あとで言うはずですから」
「お前に言っていないぞ」
田島が、抗議する。
「まあ、皆さん。落ち着いて! 騒ぐのはやめて話しを聞きましょう」
社長が、ゆっくりした口調で言った。
「でも、しかし・・・」
そうこうしてる間に話しが、進んでいた。
肩を上下に激しく動かしてる小泉の顔色は、真っ青だ。両目を大きく開いてる様は、何かを恐れているようにも、見えた。
「じゃ、よ。最後に聞くが、お前らの普段集まる場所を教えろ!」
「ふ、普段は・・・」
目の色が、白くなり頭がゴロンと落ちた。
ハンが、そばに寄ると首筋に手をあてる。
そのあと懐からビニール手袋をだし、はめながらこう言った。
「残念ながら、ってやつです。下っぱにしてはよくやりました」
小泉の口を開け、白濁の液体状の物を拾う。
「毒を仕込んでたんですね」
驚きもせず、冷静に言う社長。
「これで連中は、やり方を変えてくるな。 強行な手段をとるダロな」
「予想は、してたけどね。命を簡単に捨てるなんてね」
「ち、ちょっと待てよ! 人が、死んだんでしょう? 救急車とか呼ばないの? なんで、そんなに冷静なんだよ?
福知も、何か言ってくれよ?」
「そうだぞ。陽斗の言うとおりだ」
「まさか、捨ててくるとか言わないですよね? 社長?」
その社長に肩を叩かれる田島。
「大丈夫だよ。彼は、元々人間ではないからね」
一瞬間の沈黙が、あった。
「え? 何を言ってるんですか?」
鈴木が、声を大にして言う。
「ほら、見て下さい」
社長が、そう言って小泉を指さす。
小泉は、シュワシュワと黄色のかった白い泡状になり、やがて消えた。
文字通り、泡となって消えたのだ!
オジサン3人と陽斗たちは、状況を理解するまで時間が、かかった。
「え、ええと・・・」
「どうなってるんだ?」
「頭、おかしくなったのか?」
混乱する4人。
「ふ、福知? なんで、そんなに冷静なんだよ? なんで・・・」
「別にってやつ。見慣れてるし、何の感情もわいてこない」
友人の言葉が、理解できずますます、混乱する陽斗。
「じゃ、みんな。部屋変えて話しをしようか? お茶でも飲みながら、さ」
「こ、快晴?説明をしてくれよ。なんで人が、泡になって消えたんだよ?」
「ん~と。1度死んだ人間を魔法使いが、生き返らした。んで、また死んだから泡になって消えた」
「はっ?え?あ?」
いつもの妄想話しではない。リアルな話しのはずなのに彼女は、いたって冷静だ。
しかも、いつも否定的な判断をする福知までが、それを認めている。
冷静になって状況を理解しようとするほど、混乱してくる。
「社長も快晴さんも、木下とはどういう関係ですか?」
鈴木が、そう聞く。
「僕ですか?まあ、木下さんとは最近です。快晴さんとは、まあ友人つながりですね。
鈴木君、誰にでもいろいろありますでしょう?」
つまり、それはこれ以上聞くな、と言う意味合いに捉えた。
「まあ、今はこの問題に全力で取り組みましょう。いいですね、皆さん?」
その視線は、何か鋭い刃物のように冷たく光っている。
社長って一体、何者なんだろうか。
果たしてそれは、知ってよいことなのか。
疑問が、イタズラに増えていく。
「ちょっと待てよ!」
小沢が、声を大にして言う。
「魔法使いだぁ?生き返らしただぁ?そう言われて納得するわけないダロが!」
快晴を見下ろすようにしてそう言う。
「・・・つまり、納得することを私が、証明すればいいのね?」
臆することなく返す
「あ~、そうだな。できるんなら証明してもらおうか」
「小沢さん、
「そうですよ。ここは、大人しくしましょうよ」
「ハッ?お前らだってこのまま、納得できないで仕事を続けられるか?」
「でも、ですね・・・」
「他人の家ですよ。そう、興奮しないで」
「陽斗は、黙ってろ!つうか、ダチ2人おかしいぞ。どうなってやがる?」
興奮した小沢が、快晴の方に向きをかえる。
「え、ほら証明できんならやってミロ!」
人差し指を突きつける。
「じゃ、はい。その手、見てごらん」
とくに緊張感なく、そう言う。
小沢は、その右手の甲を見ながら微かに震えていた。
「い、イレズミが消えてる!?」
小沢、田島、鈴木、陽斗の4人が、はもってそう驚く。
「じゃ、証明したから話しを聞いてくれるよね?木下、下の部屋行くよぉ」
「ま、待てよ!」
「何よ!戻すの?」
頬をふくらませて言う快晴。
「ど、どうせなら両腕と首筋も消してくれ」
「いや、全部消してもらえば?」
「アア、できる範囲内でお願い」
「ハイハイ」
パチッと光ったような気がした。
「へぇ、すごいな」
福知が、思わず言葉をもらした。
確かに小沢の体から全てキレイに色とりどりのイレズミが、消滅したのだ。
これが、魔法か。
小沢は、無言で頭を下げた。
「よかったな。納得してもらえてよ?」
木下が、そう言う。
「時間ないからねぇ。早く次にうつるよ!」
「もう、質問は無しな。あってもあとにしてくれよ。いいか?」
木下が、念をおして言った。
「あ~、分かった。とりあえず・・・」
「とりあえず、なんだ?」
「その、イレズミが無くなって恥ずかしいんだが。ランニングシャツでもいいから、課してくんない?」
そういえば、小沢は上半身裸でこっちに来たのだ。どうせ、車で移動するからと言って。
木下の隣にいるハンが、笑いをこらえて返事をした。
「すまねぇ!」
頭に手をあてて言う小沢。
たとえ、夢まぼろしでもいい。イレズミが、消えてなぜかホッとした。
「じゃ、行くよ。陽斗、ボウっとしてないで。ほら!」
「あ、うん」
このまま、ついていけるか一抹の不安を感じた。
「頭が、壊れるかもしれない」とつぶやく陽斗だった。
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