10話 協力

世の中のタイガイの学生どもは、夏休みにはいっている。

青春を謳歌おうかする若者たち。

オジサンたちには、まぶしく見えてうらやましいかぎりだ。あの若さが、欲しいと思うときが正直、あるのだ。

そう、このクソ暑いなか倉庫で働いていると「あの頃はよかった」としばしば、思うのである。

派遣のスタッフたちが、段ボールに入れたテキスト(計20冊)をパレットに積んでいく。

決まった数になったら、このフォークリフト で待機しているトラックの荷台に載せる。

単純で単調な、同じことの繰り返し。

まあ、それが仕事なんだが。

15時の10分休憩になった。

走ってトイレあるいは、ジュースを買いに行く人、無論たばこを吸いにいく人たちもいる。

ある一角が、騒がしい。

「ぶ〰、つまんない。ブーブーブー‼ つまんない、つまんない」

その隣におとなしく聞いている、少年2人。

3人のうち、2人は知っていた。

そう、公園で会ったカップルだ。

「ツマラナイ、ツマラナイ。こんなはずじゃなかったのに~~」

仕事では、ない。自分が思っていたのと違う展開だからだ。

そうだ、丸さんに携帯をかけた少女は、小沢たちが根っからの悪者と思っていたらしい。

「わ〜た〜し〜は、こう夜中に呼ばれてね。

聞いている、陽斗、福知?」

「うん」

ダルそうに返事をする少年、陽斗ひろと

「こうね。倉庫に集まった悪者たちに『よお。お前らいい度胸してんじゃねぇか』て言われて。で、私が『ソッチこそ。覚悟しなさいよ』的に返して」

「要は、丁々発止してってことだね?」

一番しっかりしてそうな、福知が言った。

「そぉそぉよぉ! そういう、貴重な体験が、できると思っていたの。私はっ!」

なんでも、悪者たちに囲まれた状況を想定していたらしい。

で、最終的には俺たちに協力すると言うつもりだったらしい。

「あ〜、もう‼せっかくのスリルをリアルに体験したかったの〜に~」

「休憩、終わりだよ。快晴こころ

「陽斗、リアルスリル、拾ってこい! 5分以内に~」

「はいはい。作業、始まるよ」

陽斗が、空き缶をゴミ箱に捨ててからそう言った。

微笑ましげに見る小沢。

電話をとった丸さんが、困惑げに「手伝いたいと言ってるが、どうする?」と言っていたときを思い出す。

そうしたら、社長がこう言った。

「手伝うならこっちの倉庫にしてもらいましょうか。うまく、誘導していただけますか?

あ、面接は、明日の午後20時でお願いいたします」

そうして、彼女ら3人は夏休み限定で働くことになった。

まだ、あの箱のことが気になってる。

けれど、危険すぎる。今日でちょうど、一週間。今のところ、その話しを蒸し返してこない。

「諦めたようには、見えないがな」

案の定、と言うべきか。

定時の18時になり、仕事が終わる。

ウチと派遣のスタッフたちが、ほぼ一斉に上がる。

20時をまわった頃。

1度、帰ったはずの3人組が空っぽになった倉庫に戻ってきた。

事務室に真っ先に入ってきた快晴が、口を開く。

「ねぇ、小沢さん、田島さん、鈴木さん」

椅子にダルそうに座っている小沢たちにそう言って、反応を見る。

「やっぱり、こうして会ったのも何かの縁。何かしら、プラスになるはずよ。絶対に」

腰に手をあて、疲れを知らないかのように少女は、そう言った。

ふむ、若いは素晴らしい。

「快晴さん、社長が言ったように人生が、一瞬で終わるくらい、危険なんだよ」

田島が、椅子を左右に動かしながら言う。

「友だちが、大変だと言う君たちの気持ちも分からなくは、ないよ。でも、こういうことは然るべき人たちが、やるべきだ」

「まあ、俺たちにまかせなさい」

オジサン3人組には、をどうにか納得させようとした。

そう、少年2人より彼女を納得させるのが、ポイントだ。

「快晴。 やっぱり、無理だよ。大人たちにまかせるべきだよ』

「そう、陽斗の言うとうりだ。あれこれ、言ったところで話しが、通るわけがない」

福知が、ため息まじりに言った。

「なによ。もう、2人とも。この夏、最大のエンターテイメントのチャンスよ。いいの?」

「いや、平和なのがいい」

「きった、はったみたいのは勘弁だよ。くそったれ。バーガー屋が、もう少しはいれたらこんなことにならなかったのに」

悪態つく福知。

「とにかくだ。協力してくれるのは、うれしいんだけどね。何かあったら、親御さん悲しむでしょう? 諦めてほしい」

優しく諭す、田島。

「ほら、怒られる前に帰ろう」

陽斗が、そう言ってオジサンたちを応援する。

「そう。でもね、切り札があるのよ!」

快晴は、リュックサックの中から何かを取り出す。

免許証だ。彼女のではない。

その顔写真の男は、誰だろう。

「ふっ、フ、フ、フ、フ! 」

変な笑いをしたあとだ。

「これは、千由をストーカーしてたヤツを退治したときに、くすねたのよ!」

オジサンたちは、ショックをうける。

「なんて軽率なんだ」

「すみません。一応、止めにはいったんですけど。こうしないと仲間にいれてくれないから、と言って・・・」

福知が、申し訳なさそうに言った。

「それ、取ったのはいつだい?」

田島が、そう聞く。ひょっとしたら、たまたまその辺で拾ったのかもしれない。

「今日の朝!」

えっへん、すごいだろ、みたいな態度だ。

「彼女の話しだと朝の6時くらいだそうです。

場所は、事件のあったあの公園です。千由って新聞配達をやってるんです。今回の作戦の実行にあたってそこを選んだそうです」

「陽斗、一緒にいて止めようと思わなかったのかよ?」

小沢が、呆れ顔で聞く。

「いや、寝てました。朝、こっちに来る途中で聞きました」

「ね? 実行力は、自分で言うのもなんだけどぉ。結構、あると思うんだよぉねぇ」

「つまり、テストには合格したから採用されるべき。そういうことです」

陽斗は、説明役か。

3人のオジサンは、非常に困った。

確かにその実行力は、買いだがいかんせん未成年者だ。しかも、学生だ。

何かあれば、親御だけでなく学校にまでメイワクが、かかるだろう。

社長が、事務室にあらわれた。

「あ、社長。どうぞ、私を使って下さいよ。

ね?問題は、ないですから~」

いやだから、問題ありなんだけど。分かってくれよ。

無論、社長ははっきりと断るだろうと思った。

「うん、分かった。採用する」

そう、そう。採用。当然だ。

「えエエッッッッッ?!」

オジサン3人は、驚きの声をあげる。いや、悲鳴に近い。

「しゃ、社長?何を考えてるんですか?」

田島が、つめ寄って抗議する。

「まあまあ、落ち着いて」

「落ち着いていられませんよ!」

「ヤバくなったら、すぐ引くよ。快晴さん、そうですよね?」

社長にこっくんとうなずく快晴。

その表情は、自信とヤル気で満ち溢れている。自分が、採用されて俄然燃えているように見える。

「もう、知りませんよ・・・」

力なく言う田島。

「あとで根拠、聞かせて下さいよ。社長、いいですね?」

小沢が、不満げに言った。

「まあまあ。それより、この免許証は本物ですかね?調べてみましょう」

呆れ返ったオジサンたちは、「もう、どうでもいい。好きにして」状態になった。

「ちなみにこの男は、どんな服装してましたか?」

「この暑いなか、パーカ着ててフードすっぽりかぶってた。ね、陽斗?」

「僕、寝てましたから知りません」

面倒くさそうに答える。

「神崎って大学生にも余計なこと、しないよう言われててこれ、ですから」

福知は、椅子に座るとそう言った。

「神崎?」

鈴木が、反応した。

「千由と一緒に事件現場にいた男の人です。

絶対、余計なことしない。何かされたら、証拠をとるよう言われました」

福知が、丁寧に答える。

「ほう。間違ってないな」

「だって黙ってたら守れないもん!」

不満を言う快晴。

社長が、なだめる。

「とにかく、だ。そのパーカの男、ヤバイかもな。免許証とられた腹いせに千由って子、

襲われるぞ」

「小沢さんの言うとうりだ。血眼ちまなこで仲間と一緒に探しまくってるはずだ」

「ひょっとしたら、家に押しかけてるかもしれないぞ」

「大丈夫よぉ! 手は、うってるからぁ」

明るく言う、そのセリフに返せない。

「さァ、皆さん!! がんばりましょう!」

両手を上げて、満面の笑顔で言う快晴。

小沢が、陽斗に「どうにかしろ」のメッセージングをこめた視線を送る。

陽斗は、顔を左右に振る。福知も、間髪いれずに拒否する。

その時、なにやら外が騒がしくなった。

「前園の組の木下さんが、来ましたね」

「はっ? なんでまた、急に。しかも、ガキどもがいるっつうのによ!」

小沢が、立ち上がるなりそう悪態つく。

一同、事務室から出る。

「皆さん、久しぶりだな! 元気だったか?」

目をギラギラさせた木下が、そう言いながらこっちに来る。

「また、急だな。なんか用か?」

小沢が、ぶっきらぼうに言う。

「社長には、連絡したぜっ」

木下の隣にいる男が、言いかえす。

ハンだかカンだか忘れたが、そんな名前だったと思う。

小沢は、ふと後ろを見る。

快晴が、社長からあの免許証を返してもらったところだ。

すると快晴は、何を思ったか。

テテテ・・・と木下の方に走っていく。

「やおッ! 木下! ほら、敵の免許証だお」

そう言って快晴は、木下に免許証を渡す。

「たくっ。さんづけくらいしろ。陽斗、教えておけ」

小沢が、陽斗をひじでつつきながら言う。

「いや、待って下さい。なんで木下さんの名前を彼女が、知ってるんですか?」

鈴木の一言に皆、「あっ!」てなる。

「木下、すぐ調べてみて」

「アア、分かった。期待は、するなよ」

木下は、タメ口で言われても気にしてない。

陽斗が、みんなの疑問を聞く。

「え~、ん~。トモダチ?」

なぜ、疑問符がつく。

「まあ、気にしないで。変な人じゃないからねぇ。『かるく、怖い系』の人ってだけよ」

「いや、スゲェ、気になる」

「だいいち、『かるい、怖い系』って?」

「まあまあ、二人とも。あとで話すから~」

「いや、オジサンたちも知りたい」

まあまあしか言わない快晴。

そこへ木下が、割りこむ。

「千由って子の家にコイツと思われる男が、あらわれたそうだ。今、事務所にいる」

「おや。では、行きましょうか」

何の感情をこめず、社長が言った。

「よ~し! レッツゴお~」

快晴、一人だけ明るくテンションが高い。

なぜかを知る気にもなれなかった。

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