9話 公園その2

何かを探すフリをしながら、目標のベンチに向かう。若干、早歩きだがそれはつまり、危険がおよぶ前にここから、早くいなくなりたい気持ちが、強いからだ。

呼吸が、荒い。 深呼吸して息を整える。

「!?」

学生のカップルが、に座っていた。 楽しそうに話す小太りの少年と一生懸命に演説調に話す少女。

その下にあるはずの物を取りたい。

どうする? 落とし物をしたフリしてどいてもらうか。 オドスわけには、いかない。

若い二人が、俺をジロジロ見てやがる。

確かに禿げたオッサンが、一点を見ながら歩くのも変だ。

なんか、マフィアがどうのとか言っている。

イレズミは、ヨロヨロのスーツで隠してるからまんま、見た目で判断してる、そう思いたい。

一度、通りすぎて皆川に連絡しよう。あとで奴に取りに来てもらおうか。

俺は、死角にはいる。そこにいるはずの皆川が、いない。 少し離れた所でチンピラ3人にからまれている。 ドスのきいた声がこえてくる。

皆川が、俺を見つけると助けを求める視線をおくってきた。

なにをしてんだよ、と言いつつもどうしようかと考える。

女の子が、立ち上がってやや興奮気味に話しをしてる。

それよりもその下だ。 確かに白い箱が、見えた。あれじゃ、誰かに拾われてしまう。

あの双子、頭ワルいのか。

それとも、フェイクか。

俺は、携帯と紙きれをスーツのポケットにねじこんで、高校生カップルのところに行く。

皆川、しばらく待ってろ。必ず、助けに行くからな。

携帯の着信音をかすかに聞きながら、俺は歩いた。

どうやら、帰りそうじゃねぇか。

少年が、ビクついた面持ちで俺を見ている。

「でね、取引が今夜あたりあるのよ」

取引が今夜か、そうだといいが。

怪しまれないよう、俺は言った。

「交番は、どこだ」

少年は、歩道橋の向こう側だとていねいに教えてくれた。

いなくなるのを待とう。

俺は、先に皆川を助けに行く。

よく考えれば、何も知らなければあそこに箱がある、なんて思わないはずだ。

つまり、注意して見なければ気づかない。

一応、同じ公園にいるはずの丸さんに連絡する。

すぐにつながった。 5分くらいで現場に着くと答えが、返ってきた。

俺は、皆川にからんでいるチンピラらしき、3人の男を退治する。

なに、一人を瞬時に沈めればいいだけだ。

チンピラどもは、慌てて退散した。

皆川が、俺の手をとってありがとうを連発する。いや、いいからよ。

急いで皆川と一緒に例のベンチに行く。

高校生のカップルと入れ替わりに、丸さんが現れた。 遠くから見ると筋肉の塊だと思った。

顔から汗が、ボタボタ流れている。 ひどく緊張した面持ちだ。

「丸さん、箱は無事かい?」

当然、あるものと思って俺は言った。 高校生カップルが、余計なことしてなければ、だ。

状況からして盗まれるわけが、ない。 不可能なはずだ。

「あんで? おでは、絶対にここに箱ばさ、置くのを見ただよ!」

皆川が、叫ぶように言った。

「見たのは、お前一人だけだ。 羽根か足でも生えなければな」

丸さんが、問いつめる。 さすが、元警察官。

にらみが、違う。

「場所は、間違いねぇんだよな?」

俺は、助けるつもりで加わる。

例の箱は、消えていた。

「あの高校生は、触っていない」

そう前提するなら、仮に中身だけ取ってもわずらしい大きい箱は、置いていくだろう。

なければおかしい。

「ほんの数分だ。可能なのは、あの高校生だけだ」

そう言う丸さんも、怪しいが手には何も持っていない。 誰かに渡す隙もなかった。

俺たちは、周りを探した。茂みや離れた所にあるゴミ箱をあさったりして探した。

だが、無かった。

消えたのだ。

「落ち着こう。考えるんだ」

丸さんが、少し息をきらせながら提案する。

それは、いい。 暑くて頭が、クラクラしてきたところだ。

とりあえず、冷たいスポーツドリンクを飲みながら状況を整理する。

あのベンチには、高校生のカップルが座っていた。その下に白い箱があったはずだ。

仮にカップルが、持っていったとする。箱はかさばるから中身だけくすねることになる。

けれども、箱は無い。

「すれ違ったとき、チラッと見たが手ぶらだった。間違いない」

とは言え、俺たちは疑心暗鬼に陥っている。

「あの高校生の制服、知ってるから明日つけるんだ。小沢さん、頼みます。 皆川さんは、続けてここを見張って下さい。交代要員、送りますから」

丸さんの提案に皆川が、拒否の姿勢を示す。

「さっき、チンピラにからまれていたんだよ」

「小沢さんには、すぐに行ってもらいたかったんだが。こっちは、あの木下に連絡しないといけないし」

「こ、交代要員は、すぐ来るだか?」

すっかり、びびってる。 お前、ホームレスだろ。今までどうしてたんだよ。

「すぐには、来れないな。今夜じゅうにとしか言えない。だから、我慢するんだ」

皆川は、半べそかきながら返事をした。

「とにかく、この緊急事態を解決しなければならない」

「ああ。落ち着かないもんな」


次の日。

はっきり言って目覚めが、わるい。

箱が、なぜ消えたのかは分からない。

丸さんと皆川たちが、俺たちを陥れようとやったのかもしれない。 元々、信頼関係は無いに等しいから最後に罪、かぶされて殺されても仕方がない。

元ヤクザ、遺恨で殺害される。 あん時の殺された老人と変わらないな。

一人ごちる俺。

昨日の夕方からあのベンチ付近を見張っていた皆川と途中、合流した応援の人間から、丸さんに連絡があった。

例の高校生を発見して学校までくっついて行ったらしい。

そうそう。胸くそ悪くなる事件が、あの公園でおきたんだ。

あの箱をパクったってことで、ヤクザらしき男の指示であの双子は、リンチされ命をおとした。一応、録画したらしいが見る奴は、きっと狂っているかわいそうな奴だろうな。

まあ、元警察官である丸さんは、その録画したヤツを情報源に渡すんだろうな。

で、コイツは知ってるぞ、みたいな感じで捜査が進むんダロか。

丸さんの話しだと、ではないらしい。こんな狂暴な奴、いたら前からマークされているはずだ、と言っていた。

そう、か。 まあ、ソッチは畑が違うから任せるよ。

それより、クソ暑いなかスーツはやはり厳しい。サラリーマン、スゴイぞ。

俺は、放課後狙いで13時くらいから校門近くで張り込みをしていた。

ようやく、目標の少年があらわれた。

なんか、うつむきかげんでうかない顔をしている。 成績が、悪いのかそれとも昨日、パクったものをどうしようか、考えてるのか。

一人になるのを待つ。

なぜ、カバンを二つ持っているのか。イジメられてるのか、そんなん、どうでもいい。

答えだ。答えがほしい。

びびらすつもりで表情を強ばらせ、ドスをきかせて一人になった少年に声をかける。

少年は、みるみる青ざめ小動物よろしく、逃げようとする。そこへ丸さんが、道をふさいだ。

ワゴン車に押し込み、質問していく。

知らない、分からないの繰り返し。

運転席にいる田島の兄貴が、解放の指示をだした。

まあ、家と学校は押さえたし、今日はこれで終わりにしよう。

少年は、走って逃げた。

「実は、気になることがある」

倉庫に戻り、他のスタッフが帰ったあと丸さんは、そう言う。

「なんでしょうか?」

社長が、聞く。

にしたいんだ」

声のボリュームを思いきり下げ、前置きする。

「昨日、録画したメンバーの話しだ」

「はい?」

「リンチしたヤツらの他に誰かが、いたらしいんだ」

「誰か、とは?」

「ユウレイとか言わないで下さいよ」

鈴木が、カップ麺をすすりながら、言う。

「当然、暗いから最初は気づかなかった。でも、途中茂みに隠れながら移動する人間がいたそうだ。ひょっとしたら、画像に映ってるかもしれない」

「皆川に行かせなかったのか?」

そう言って缶ビールを飲む俺。元とは言え警察官が、目の前にいるだけで落ち着かない。

これは、一種のアレルギーだな。

「考えたそうだ。けれど、バレてエジキになるのは、よくないと考えなおした」

「そう、ですよね。当然、男か女か分からないですよね?」

社長が、そう聞く。

「一応、ソッチもお願いしている」

「問題点は、登場人物がどんどん増えていることですね」

田島の兄貴が、そう言っておにぎりを食べる。

そうだ。確かに増えている。

「Y市のキノワ(鬼の輪)、それとつながりがある工業団地のヤクザたち。 それから、前園の組。最後に昨夜のリンチした連中」

「正体不明の人物、あえて言うならX(エックス)。 ただの通行人ならいいんですけど。我々も、こっち片手に動きがとりづらいですからね」

鈴木が、つなげて言った。

「確かにそうだな。ここで高校生が、からんでくるなんてことは、ないよな?」

「疑心暗鬼ってところですか。 そうなると自分以外の人間が、悪者に見えてきますね」

社長が、ズバリとそう言った。

「悪化すると自分も怪しいと思うな」

「いや、でも。公園の犯人は、一体どういう集まりなんでしょうか?」

ここでちょっと間が、開いた。

手っ取り早く稼ぎたい連中が、集まっただけなのか。それとも、どこかのグループの駒なのか。

「どうあれ、今までうまく隠れていた連中を出すことには成功した。しばらく、様子を見ていいと思います」

「社長、木下のこと忘れてませんよね? アイツが、何言ってくるか分かりませんよ」

田島の兄貴が、そう忠告する。

「大丈夫ですよ。私たち一般人にそこまでひどいことは、しませんよ」

柔らかい口調で話す社長。

いや、すでにやってますが。

あれ以上にやるとなると、俺たちを生き埋めにするか、生きたまま湖か海に重りをつけて沈めるか。

「どのみち、想像したくないな」

「そういうのは、勘弁してほしいですね」

変な沈黙が、おきた。

気づけば、生きるか死ぬかみたいな状況になってきている。

「箱、結局見つからずですね? ヒントになるような情報は、ないのですか?」

社長が、丸さんに聞く。

「残念ながら。皆川さんらスタッフ一同、探してるが、カケラすら見つからない」

「で、高校生にいくか皆川にいくか」

「見たのが、皆川さん一人じゃなぁ、厳しいな」

「だから、箱は諦めて違う角度から攻めることにした。あまり、話せないが警察の然るべき部署が、動きを活発化している」

「つまり、大規模な取り締まりが近いうちに行われてる、という意味ですか?」

社長の質問にうなずく丸さん。

「それで終わればいいんですがねぇ」

鈴木が、缶ビール飲みながら言う。

お前、俺のお代わり勝手に飲みやがって。まあ、それはいいか。

「高校生は、ほっといていいんだよな?」

「いいだろう。なんかあれば、携帯にかけてくるだろうさ」

丸さんは、そう言って椅子から立ち上がる。

「また、連絡する」

そう言った瞬間、丸さんの携帯が鳴った。

さて、これはどこだ。

まさか、混乱を引き起こす電話とはこの時、

誰も思うわけが、なかった。

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