舞台は、自由を重んじる校風の中高一貫名門女子校。
当面は受験を気にすることなく、与えられた自由の中にたゆたっていられる中学二年生の冬――玉川悠香は、学校の評判が低落していることを知り、何か目立つことをしたいと思い立った。
何事もそつなくこなす文武両道な陽子。毒舌気味だが器用な亜衣。優柔不断ながらパソコンの得意な菜摘。無口だけど科学の成績はトップクラスの麗。四人のクラスメートを巻き込んで、見つけた目標はロボコン。三ヶ月後の開催へ向けて、五人の活動が始まった。
ロボットの仕組みを勉強し、手頃なロボットを試しに組み立ててみて、本番のルールを踏まえてどんな機能を持たせるか考え設計し……同じ学校の物理部もロボコン常連であることを後から知って気まずくなったりしつつも、順調に進んでいく作業。文中でさらりと出てくる単語や言い回しなどにリアリティが感じられ、それをこなしていく中学生の女の子たちの賢さと伸びしろの大きさに、驚きつつも応援したくなる。
だが当然ながら、彼女たちは万能でも無謬でもない。未熟で、稚拙で、時々ずるくて、心の底にどろりとしたものも抱えていて、途中までどうにか切り抜けてきたものの、やがて軋みは致命的なほどのトラブルに至る。
しかし、それすらも、乗り越えられるものなのだ。そして乗り越えた後の悠香たちは、さらに魅力的になっている。
脇役が単なる名有りのモブに終わっていない点も、この作品の特長だ。例えば悠香たちの担任である浅野先生。単に流れで何となく五人により深く関わるようになった、そんな人が、悠香たちの姿に感じ入る。それゆえに後のシーンで彼女が放つ言葉はより読者の胸に響く。例えば悠香の兄。程よい距離から妹を見ていて、どうしようもないほど追い詰められた時には手助けし、けれど過剰な介入はしない。例えば悠香のクラスメートである物理部部員。部に盲従するわけでなく、悠香たちに肩入れしきれるわけでもない複雑な立場。色々な立場で考え動く様々な登場人物が、物語に無数の彩りを与えている。
彼女ら彼らの物語がどんな結末を迎えるのか私はまだ知らないが、最後まで見届けたい素晴らしい作品だと思う。
※「063 慰めと提案」まで読んだ時点でのレビューです。