00-4.歌舞伎町

【語り部:自称・探偵 賀陽かや 陽一郎よういちろう



 新宿のいたるところで目にする無料案内所。そのひとつ……


 昼間から大声を張り上げる一人の男性客。


「ちょとまてよ、少し高すぎない?」

「でもね、賀陽カヤちゃん、あのお店はこの街の新しい顔だよ?そのくらいするわよ」


……俺。


「や、でもさ、俺も情報、いつも流してやってんじゃん」


「賀陽ちゃんがくれる情報ってなによ?」


「得意先の懐具合とかさ」


「そんなの、アンタにもらわなくても、いつもだいたいわかってるわよ。情報は鮮度が命なの。情報屋なめないで。賀陽ちゃんの情報は、いつもちょっと古いのよ」


「な、なんだと!?」


 見た目はちょっとイカツイお兄ちゃんだが、ところどころオネェっぽい仕草が顔を覗かせる。


 こいつが立つときのこの店は、外の看板『夜の新宿 情報館』そのままに、情報屋としての機能を果たす。


「それにね、ご要望のクラブの情報。あそこのクラブ仕切ってるの、いつもはいがみ合ってる裏の顔3団体の奇跡のコラボレーションよ?真っ黒な事情があるに決まってるんだから、情報にガチガチのセキュリティが掛かってるのは当たり前。高くないわけないでしょ、情報料」


「そうなのか!奇跡のコラボレーションね。へえ、さすが、よく知ってるな」


「そんなのこの街に住んでれば小学生でも知ってます。そんなことで感心しないでください。やっぱり情報屋バカにしてるでしょ」


「いや、とんでもない!バカなのは俺よ。ほんっと、そういうの疎くっていけねぇ」


「よく言うわね。まぁ、あそこは政府も関わってるって噂だし。手、ださないほうがいいんじゃない?」


「政府?」


「そう、政府」


「永田町かい?」


「そうなの。なんかね、永田町で秘書やってるやつがお忍びで通ってるらしいわよ。男なのにホストクラブに。毎回VIPルームだって。うまい酒でも出るのかしらね?」


「へえ。どんな酒?」


「さあ、どんな酒なのかね」


「さすがのお前もそこまでは知らないか…」


「あ゛?聞き捨てならないわね。VIPルームの酒は知らないけどね、バックヤードの酒の肴なんかはちゃんと知ってるんだから」


「酒の肴?」


「そうよ。ここだけの話ね、あそこのオーナー夫人、行方不明らしいのよ」


「へぇ」


「店の実権、握ってるのは夫人みたいだからさ、誘拐された可能性もあるわけ。だから、トップシークレット。他の団体に付け入る隙を与えることにもなっちゃうしね」


「なるほど」


「バックヤードでも一部の人間しか実情をしらない、特上の肴よ。3団体の仲間割れかもしれないわね」


 ……こいつ、なかなかいいネタを持っているんだが、お喋り好きってところが致命的な欠点なんだよな。


「ごちそうさん!なかなかうまい肴だったよ」


「いいえ。……って、あーー、しまった!ちょっと、賀陽かやちゃん、お代!」


「買った覚えはねえぜ?こんど、VIPルームのうまい酒、おごってやるよ」


「ちょとまて、ちょとまて、お兄さん―――!」


 ラッスンゴレライ!ちょっと古ない?そのネタ。

 まぁ、しかし、こんなお喋り好きでよく成り立ってるよな、まじで。

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