第1話

「いやぁ、助かった。ありがとうな、下手すりゃ死んでたぜ」


先ほどまでの状況を忘れているかのように陽気に笑いながら言い放つ男に飽きれつつ少女は口を開いた。


「いえ、偶然見つけただけですし…… ホントに大丈夫なんですか?」

「軽く脱水症状みたくなってたがもう大丈夫だ。いやー、命の水とはまさにこの事だ」

「いや、崖から落ちたんじゃないんですかあなた……」


そんな少女の呟きに耳を傾けようもせずごくごくと水筒を傾けている。

これだけ元気ならば心配もない、そう思ったのだろう。少女は息をついて心配するのをやめた。


「しかし本当にすまないな。愛車まで引っ張ってもらっちゃって」

「気にすんな。うちのランバはあの程度だったら重さの内にも入らないくらい馬力があるからな」

「まあ困った時はお互いさまと言いますしね。それにしてもアレって駆動車でしょう? 随分と良いものをお持ちですね。高かったでしょう」


キャラバンの商人の1人が少々破損した車の様なものを見る。

魔力駆動、魔術を応用してその力で動く機械の総称だ。それなりに広く普及しているものの人を乗せて走るような物。しかも崖から落ちても一応修理すれば使える程度には状態を保っていることから相当頑丈なつくりを持つものなのだろう。

それなりの価値がある事は一目瞭然だ。


「あー、あれは自分で買ったものじゃないからな。貰いもんだ」

「あんなものくれる人なんているんですか?」

「人と言うかなんというか……」

「?」

「まあ気にするな。そうだ、自己紹介まだだったよな!」


話を強引に変えるように、少女に手を差し出す。


「ユーライル・フォウグリッドだ。ユーリで良いぜ」

「リルカ・マイナです。リルカでもマイナでもお好きにどうぞ」

「命の恩人だからな様付けしてもいいくらいだぜ」

「そう言うのはお呼びじゃないです」

「ハハッそうか。よろしくなリルカ」

「はい」


リルカは差し出された手を取って握手を交わした。


「あんたらも是非ユーリって呼んでくれ」

「おー、俺はビッツだ」

「僕はフラスタ。よろしくね」

「ああ、よろしくな」


リルカの乗る荷車だけでなく周りの人間たちにもどんどんと挨拶を交わして行く。


「元気ですね。崖から落ちたって言う話がいよいよもって信憑性がなくなってきましたよ」

「そうだな、だけどあいつトレジャーハンターなんだろ? 相当鍛えてるんじゃないか?」

「トレジャーハンター?」


聞き覚えのない単語に、リルカは首を傾げて聞き返す。

すると、ビッツは少し意外そうな顔をしながら口を開いた。


「ん? 知らないのか。でも確かに首都から離れると知名度が薄れる所もあるから仕方ないと言えば仕方ないか」

「簡単に言えば世の中の遺跡とかをめぐってそこにある宝物を探しあてることを生業としてる人たちの事だよ。首都みたいに栄えた町では沢山いるんだけどね」

「いや、それトレジャーハンター自体は知っているのですが、なんであの人がそうだって解ったのかなって」

「肩にバツ印が付いてんだろ」


そう言われてリルカは今一度キャラバンの人間と笑いあっているユーリへと視線を向ける。

確かにバツの印が肩の部分に目立つようについていることが解る。


「あれはトレジャーハンター組合の人間が付けるマークなんだ。何でも宝の地図に描かれる×印をモデルにしているとかでね。組合員はああやって目立つ場所にあのマークをつけている人が多い」

「つけてない奴もいるけどな」

「え?」

「僕達みたいな商人は彼らが売りに出す宝とかを扱っていたりするし、触れあう機会が多いから特に何も思わないんだけどね。一部の一般の人たちや頭の固い学者さん達はあまり彼らにいい印象を抱いていなかったりするんだ」

「そうなんですか?」

「トレジャーハンターは名前だけは有名だが、その内容は一般に認知されるような職種じゃないからな。傍から見りゃ何をしてるかわからない怪しい連中に見えるんだろ」

「学者さん方は歴史ある遺跡に宝を求めて荒らしに入る人間と認知してる人もいるからね。そういう人たちと争い事になるケースがあるから外してるって人もいるんだよ」

「へー」

「話を戻すが、トレジャーハンターは体張って古代の魔術が使われた罠が張り巡らされた遺跡に身一つで突貫してくバカ達だ。普通より丈夫なんだろ」

「……いやあの高さだと鍛える鍛えないの問題じゃない気もするんですが」

「じゃああれだ。ギフト」


その言葉に一瞬体を硬直させるリルカ。しかしその様子に気づくこと無く2人は会話を続ける。


「トレジャーハンターの8割は持ってるって言うけどね。どうなんだろう」

「さあな。ギフト持ちは珍しいっちゃ珍しいが別に全くいない訳でもないし命がけの探検するんだ。持ってても不思議じゃない」

「あ、マイナさんはギフトは知っているかな?」

「えぇ…… 知っています」


この世界の人々が先天的に持つ、通常では考え付かないような能力。

一例をあげるなら魔術。ユーリの乗る三輪の乗り物に使われている力。術式を組み様々な効果を生み出すその力はギフトの一種である。魔術のギフトを持たない者にはあの乗り物を作ることはできない。

そう言った特殊な能力を総じてギフトと呼ぶのだ。


「フラスタが言う程多いのかは解らんが確かにトレジャーハンター達はギフト保持者が多い。もしかしたらあいつもそう言う能力を持ってるのかもな」

「……」

「なんだ、何の話してんだ?」


話が一旦一区切りついた所で一通り交流を終えたのかユーリが帰って来た。


「お前さんが元気そうだから良かったなって話だよ」

「おー、心配どうもな」

「ハハハ、元気そうだけど一応安静にしておいた方が良いよ。あとで突然倒れたりしても困るだろう? あと小一時間で着くからさ」

「おっと、もうそんなに来てたのか」


忠告に従ってか、大人しく腰を下ろす。


「あの」

「ん? なんだ」

「ユーリさんは……」

「?」

「いえ、すみません。何でもないです」

「そうか? なんかあるなら聞くが」

「大丈夫です。ホントに、たいしたことじゃないので」


なんとなく納得いかない顔をするユーリだったが、リルカの表情を見てこれ以上聞いても仕方ないという事を察して普通に雑談に移り始めた。

そうして一行は砂漠の町『ガルア』へとたどり着くのであった。

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