トレジャーハンターは世界を駆ける
粉犬
第一章『黄金の川』
プロローグ
高い丘からその光景を見下ろし、私たちは歓喜した。
一面に輝く黄金は、我々が求めて止まない物であったのだ。
その光景、まさに宝と言って差し支えない。
何時如何なる時でもその輝きを失わない。
私はその土地を『
願わくは、その輝きが我が友、『アルカ・メティア』の行く末を照らす光とならんことを……
『冒険王カリティ=ルスフルの手記』【リディニレス砂漠冒険記】より
◇◆◇
世界は冒険にあふれている。
未だ見ぬ地は数知れず、人々はその光景に思いを馳せる。
炎に燃ゆる大地を、海の中の神殿を、森の奥深くの聖なる泉を、空に揺蕩う城を。
その地に眠る宝を人々は夢見る。
そんな思いを胸に、世界を駆ける者たちがいる。
『トレジャーハンター』
彼らはあるかもわからない宝を目指し直走る。
そして、ここにも1人。そんなトレジャーハンターを名乗る男がいた。
「……『
その男は果てしなく続く砂漠の中、三輪の乗り物に乗って走っていた。片手には本があり、前を見ずに運転をしていて非常に危なっかしい。
「どうなんだかなぁ。最近ハズレ続きだからここらで一発ドカンと一山当てねーと食費及び周りの奴らの馬鹿にする視線が痛いぜ」
苦々しい顔をしながら本をしまい速度を上げる。
しかし、本を読んでいて前方をよく見ないまま速度を上げた男は気が付かなかった。
目の前が崖の様に切り立った場所である事を……
「おいおいおいおい、嘘だろ!?」
ブレーキをかけるもすでに時遅く、男はなす術もなく落ちて行った。
◇◆◇
一方、これまた砂漠の中を進む集団があった。
こちらは先の男が乗って居た様な機械的な物ではなく、荷車を鳥の様な顔をした馬がそれを引いている。砂漠の町を目指すキャラバンである。
「暑いですね……」
そんな中、頭上にさんさんと輝く太陽を眩しそうに見ながらつぶやく少女がいた。
「砂漠だからな、昼の温度は時期が時期だと40度超える事もあっから今の季節はまだましな方だ」
「そうなんですか。絶対暑い時期には来たくないものです」
「ハハハ、もうちょっとで目的地につきます。建物に入ればまた違いますからそれまでの我慢ですね」
同乗させてもらっているキャラバンの人たちにそう言われ、少しため息をつき腰に下げた水筒でのどを潤す。日の出る前から出発し、かれこれ10時間以上この砂漠を進んできていたがどんどん上がる気温に参ってしまっている様だ。
「そう言えばなんでガルアなんて目指してんだ? あんなところ何もないだろうに」
「ガルアを目指しているというか、私が目的としているのはその先なので」
「その先と言うと、首都ですか?」
「そうです。ガルアまで行ってまた首都へ行く人に同乗させてもらうつもりです。流石に1人で砂漠越えは難しいので」
「そうですね。この砂漠にはモンスターも出ますから」
「そういやこの前もミックのキャラバンがサンドワームに襲われたって言ってたな。おかげでランバが1頭食われたとか言って顔真っ赤にしてたぜ」
笑いながら呑気に言うが少女からしてみればとんでもない。これからまだまだ砂漠の旅は続くというのに何もそんな話をしなくていいのではないか。そう考えつつ目線を前に向ける。荷車を引く自分の数倍大きな生物、鳥の顔を持った馬の様な見た目を持つ『ランバ』。こう言った荷車を引くような種類は『レイタルランバ』と呼ばれるランバの中でも一際大きな体躯を持つ。その大きさは体高にして3m近くの巨大さだ。まあ商品を積んだ大型の荷車を一頭で引くのだからそれだけの大きさは必要であろう。
「これを一飲み……」
ハハハ、と乾いた笑いを上げながら少女は視界の端にチカリと一瞬反射する光を見た。
「なんだろ」
普通なら気にしないようなものであった。しかし少々恐ろしい話を聞いてしまったので気分を変える様な出来事を求めていたのだろう。少女は荷車から降りてひょこひょことそちらの方に歩いていった。
「おい、嬢ちゃん。どこ行くんだ?」
「いえ、なにかこっちで光ったので」
光を見た方向に歩いていくとそこには壁の様な崖がそびえたっていた。その壁の中に光るような鉱石があったのかな、と考えつつ周りを見渡すと少し地面が窪んだ所がありそこからまた光が見えた。
「あっちか」
のぞき込んでみるとそこには大きな機械の様な物と、目をまわして倒れている男がいた。
「え、えー!? だ、大丈夫ですか!」
それは広い砂漠の中で起こった小さな出会い。
そして、彼らの世界が変わる大きな出会い。
◇◆◇
人と人が出会うことは当然であり、必然であり、しかしそれは大いなる偶然である。
人は人に会うこと無く生きる事などできない。
人は出会う、何時なんどきも何かに出会って生きていく。
それは当たり前の事だ。
だが、その出会いはいかなる場合でも同一のものはない。偶然によって成り立つ。
私は声を高らかにしてこう言おう。
その偶然こそ、万難を排してでも得るべきであるものであると。
人々が追い求める夢とは、宝とは、全て人とのつながりから始まる一連の物語なのだ。
道端に落ちる宝石に興味はない。寸分たがわぬ宝の地図など紙屑だ。
偶然にこそ、意味がある。
予想できるという事ほど味気ないものはない。私は財を、名誉を、地位を得たいのではない。
心の踊る冒険がしたいのだ。
必然の出会いの生み出すわずかな偶然。
世界は出会いによって変わる。
だからこそ、後世のトレジャーハンター達にこの手記を遺す。
人との出会いと偶然の、全てが織りなす冒険と宝と夢に満ちた日々の話を。
『冒険王カリティ=ルスフルの手記』【序文】より
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