第26話 お父様とお母様でございます


「え? もう_______」



 そう、ロモンちゃんが言いかけた途端、家の入り口に何やら人影が見えてきた。

 逆光が差してて中々見にくいけど……。



「ただいま! ロモン、リンネ! おとーさんだぞーー!」



 大きい方の男の人であろう人影は、元気が有り余ってるような声でそう言った。



「ふふ、パパったら……ただいま、二人とも」



 女性であろう人影は、とてもおしとやかな声でそう言った。



「「お父さーーん! お母さーーん!」」



 二人はその人達のもとに全力で駆け寄り、勢いよく抱きついた。

 二人の姿もまた、逆光で見にくくなってしまう。

 おそらくだけど、ロモンちゃんは女性の方に、リンネちゃんが男性のほうに抱きついた。


 私は、のそりとその人達のもとへと向かう。


 近づけば近づくほどだんだんと顔が見えてきた。

 4人は互いに互いで、夢中になってるので、近寄ってくる私にまだ気づいていないみたいだけど、私はその二人の大人の顔をよく見れた。


 一人、リンネちゃんが抱きついてる男の人は髪と髭、それと瞳が彼女達と同じ水色だ。

 腰には、二つの剣の柄がチラチラと見える。


 もう一人、ロモンちゃんが抱きついてる女の人は、黒い長髪に赤い瞳、大和撫子という言葉がよく似合いそうな、クリーム色のスカートを着た女の人だ。

 この娘達のお母さんなんだろうけど、見た目はまだ20代前半と言っても全く過言ではない。


 そんな二人はようやく私に気が付いたみたいだ。



「おや? この子が手紙で言ってた……」



 男の人はそう言いうや否や、ロモンちゃんが女の人から離れて、私の隣に立って説明をした。



「そうだよ! お父さん、この子が私の初めての仲魔のアイリスちゃんだよ!」

【よろしくお願いいたします。私、リトルリペアゴーレムのアイリスと申します。以後、お見知りおきを】



 私は手をお腹に添え、お辞儀をした。



「すごい! すごいわ! この子本当にゴーレムなの!?」



 女の人が、若干はしゃいだ様子に豹変した。

 さっきの大和撫子の雰囲気を醸し出してるオーラはどこ行ったんだろ?


 それに、リンネちゃんが答える。



「手紙でもそう書いたよ? お母さん」

「うん、そうなんだけどね! まさかここまでとは思わなくって! それにトゥーンゴーレムじゃなくなってるじゃないの! リトルリペアだっけ? 新種よ! 新種!」



 マジで、はしゃぎすぎでしょ。

 まぁ、おじいさんも近い感じだったし、多少はね。

 そんな少し暴走気味の女性を、男性は落ち着かせた。



「ノア、少し落ち着きなさい。気持ちはわかるがな」



 ノアと呼ばれた女性は、自分の暴走に気が付いたのか、顔を赤くし、おとなしくなった。

 そして、咳払いを一つする。



「そ……そうね。ごめん、取り乱しちゃった。私はノア。この娘達の母親よ。よろしくね、アイリスちゃん」

「私はグライド。ロモンとリンネの父親だ。娘達がお世話になっているようだな」



 二人から自己紹介を受けたわけだけど……呼び方は、お父様とお母様でいいかな?


 それにしても、お父さんはさっきの『おとーさんだぞー!』のテンションはどこに行ったんだろう? 威厳がありそうな喋り方だね、仮にも騎士といったところかな。


 

「おやおや二人とも、もう来たんか」



 この家の奥の部屋から、おじいさんがナーガさんを連れて、ひょっこりと出てきた。



「あ! お父さん、ただいま」

「お父様! 私、ただいま帰ってまいりました」

「フォフォ、二人とも元気そうで何よりじゃて」


 

 おじいさんは相変わらず、背がピーんとしていて若々しいな…。

 通りでお母さんが若く見えるわけだ。

 あ、そうだ、せっかくだし5人で誰が一番強いか大探索で見てみようか。

 私がそう思いながら、探索を展開してみたんだけど、これが驚かされた。


 お父さんとお母さんの強さはほぼ一緒。

 ロモンちゃんとリンネちゃんの強さは、二人合わせてお母さんかお父さん一人分くらい。

 で、おじいさんがその両親の一方よりおよそ1.5倍の強さを誇ってる。

 おじいさん、こんなに強かったんだ。


 今度、おじいさんから何か魔法を教えてもらおうね。それがいい。


 おじいさんは、立ってるのはなんだからと、二人をソファに座らせた。

 その両親に対し、ロモンちゃんはお母さんの隣に、リンネちゃんはお父さんのお膝の上に座っている。


 そういえばケル君はどこ行ったんだろ?

 外で何かしてるのかな?

 あとで見てみよう。


 お父さんのお膝に乗ってるリンネちゃんはとても嬉しそうだ。

 お父さんは『大きくなったな』などの質問を彼女にしていたが、リンネちゃんは『背も胸も大きくなったよ!』と答えてるもんだから、彼は困惑した顔をして、どう返答したものか迷ってるみたい。


 お母さんは一方で、私とロモンちゃんを質問攻めにしてくる。

 どこで出会ったのだとか、ステータス見られたり、文字を書いてみろと言われたりね。

 私が何かをするたびに、メモ帳みたいなのに何かをメモしてる。

 ここはおじいさんと一緒だ。

 そして何より驚かれてるのが、私が極至種だということだ。

 極至種を見るのは初めてなんだって。

 私の身体を至る所ベタベタと触ってくる。

 私の知能の高さにも驚いていて、トゥーンゴーレムからそうだったということをロモンちゃんが話すと、口をしばらくポカーンと開けていた。原因が突然変異としか思えないらしく、全く不可解らしい。彼女曰く。

 まぁ、そういうことにしておこう。



 しばらくして、リンネちゃんがこんなこと言いだした。



「お父さん! ぼくがどれくらい強くなったのか見て欲しい! 付き合ってよ、練習」

「お、いいぞー! おとうさん、リンネが満足するまで練習に付き合っちゃうぞー!」

「わーい!」



 この会話を聞いていたお母さんもこんなこと言い出す。

 娘のロモンちゃんでなく、お母さんが、だ。



「ロモン、貴女とアイリスちゃんのコンビネーション、私達に見せてくれない?」

「うん、いいけどアイリスちゃんどう?」


 

 何か得られるものがあると思うから、いいだろう。

 見せてあげよう。



【いいですね、付き合いましょう】

「じゃ、決まりね! 外に出るわよ」



 私達、おじいさんとガーナさんを抜いた5人が外に出た。

 

 そこで不意に目に飛び込んできた光景に私はひどく驚いた。

 なんと外では、ケル君が、大きな三つの頭を持つ犬の化け物と戯れていたんだ。


 やけに親しそうにしてるし、なんか話してるみたいだし、ちょっとだけその二匹の念話を盗み聞きしてみようかな?



【ママー! ママー!】

【ヨシヨシ、ボウヤ。サミシクナカッタカイ?】

【ウン! ミンナイイヒト、サミシクナイ】

【ソウカイボウヤ。ソレハヨカッタ】



 至って普通の会話だった。

 あのケロベロスみたいな犬は、ケル君のお母さんなんだね。



【おーい、ベス、ケルちゃん、おいで】

【ウン、マスター!】

【ノア、イマイクワ】



 二匹はお母さんの念話に応じてこちらに来た。


 しかし、どういうことだろうか?

 ケル君の母親の姿は、いつの間にかケル君と同じような感じになっていた。

 身体の色だけ、さっきのケルベロスと同じで、あとはケル君の姿。

 ありゃ? さっきのケルベロスはどこ行ったんだろ?



【あれ……先程いらっしゃった、ケル君の母親と思わしき方は?】


 

 私は不思議に思い、お母さんとロモンちゃんに訊いて見る。



「アイリスちゃん、このもう一匹の黒いケル君みたいな子が、ケル君のお母さんのベスさんだよ?」

【アタシガ、ベス! ヨロシク、ミタコトナイ ゴーレムノ コムスメ】

【はい、よろしくお願いします……。ですが先程、なにやら頭が三つだったような……】



 その疑問に答えてくれたのは、お母さんであった。



「まだロモンにはできないのねー。これは、幼体化って言って、魔物を一番最初の、進化を一度もしていない時の姿に戻す特技よ。一緒に街中を歩くのに便利なの。まだ、アイリスちゃんには必要ないかもしれないけれどね」



 あぁ、そういう特技もあるのか。

 これは便利そうだね。

 是非とも教えてもらいたいところだけど…。



【みて!】


 

 ロモンちゃんが突然、リンネちゃん達の方を指差して念で叫んだ。

 私達はそっちを向く。

 リンネちゃんとお父さんは、二人とも木の双剣を装備し、構えていた。

 毎回、帰ってくるたんびに二人はこんなことしてるらしい。



「じゃあお父さん……ぼくがどれくらい前より頑成長したか見せてあげる!」

「あぁ、本気できなさい。リンネ。元Sランクのお父さんにどこまでやれるかな?」

「わかった! 今ぼくができる全力をだすよ!」



 そう、彼女が言った途端、その全身は水色の気に包まれた。

 

 

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