後日談 3

srde ナーガ



「やー、アイリスちゃんとこうしてお風呂入るの久しぶりだね!」

「……結婚前夜に入ったばかりですよ」



 私とばぁや、リンネとロモン。すなわちターコイズ家四姉妹……。そんな私の家族は今、一緒にお風呂に入っている。

 

 結局、一番最初に結婚したばぁやが長女ってことになって、次女がリンネ、三女がロモン、四女・末っ子が私ってことになっている。私とリンネとロモンは同い年だから、この順番を決めるときはすこしややこしかったっけ。



「それでどうなの、アイリスちゃん。新婚ホヤホヤ生活は」

「……秘密です」



 リンネの問いに、ばぁやは少し頬を赤らめながらポツリとそう返事を返した。照れているばぁやに心臓が高鳴る。可愛いお姉ちゃんの姿をもっとみたいので私も追撃することにした。



「ばぁや、私も知りたいなー。私が一番長くばぁやとお義兄様がくっつかないか見守ってたんだから。教えてくれたっていいじゃ無い?」

「ナーガ、ガーベラさんのことお義兄さんって呼ぶの? いいね、それ!」

「ね! 私も真似するよ!」

「それでどうなの? ばぁや、ふふふ、お義兄さんとの生活は……!」

「可もなく不可もなくですっ……!」



 そんなことがあるはずがない。今のばぁやはすごく生き生きしてるもの。まだ結婚してから一週間しか経ってないけど、何かしらのやり取りがあったはず。

 ……ばぁやは身内に対してなら、自分に関しての秘密事は押せばそのうち話す。このまま双子を焚き付けて共に攻めていき、口を割らせればいい。



「……だめね。でもどんなことしてきたか推測することはできるわ」

「ほほう」

「それは?」

「お義兄さんだって立派な殿方。そしてばぁやのことを思ってずっと色々我慢してきたの」

「うんうん」

「うんうん」

「……好きな人を、好きにできる環境を手に入れたならやることは一つじゃない?」

「ま、まさか……!」

「ごくり……!」



 まあ、私も世界を超えて再会しても中々付き合い出さなかった、超奥手のばぁやと、超奥手の義兄さんが、結婚した程度ですぐに男女の営みをしているとは思っていないわ。


 これは一番無さそうで大きな例を出して、それを慌てて否定させた上で、本当はどこまで進んだかを聞きやすくするという、蛇神流会話テクニック。新婚で浮かれているばぁやには効果的面のはず……。


 そしてその肝心のばぁやは、体育座りをして鼻から下までを全て水の中に隠し、視線をしどろもどろと言った風に動かしていた。



「……」

「あ、アイリスちゃん……?」

「ぼぼぼーりべぶ……」

「ぇ?」

「その……通りでふ……」



 その、通り。嘘でしょう、まさかの回答。

 私、冗談のつもりで言ったのに……! まさか本当に彼と行為に及んでたなんて。勝負さんも隅に置けないというか、よくも私のお姉ちゃんをというか、実際に色々我慢してたんだろうなというか……なんというか。すごく……私のお姉ちゃんが取られた気分。

 とにかく私はばぁやの妹よ、より詳細を聞く権利は……あるわよね……?



「……ばぁや、揉ませたの、これ」



 そう言って私はお姉ちゃんの、どちらかと言うと人並みよりは大きいポヨンポヨンしたものを掴んだ。リンネとロモンがよくお遊びでこうして掴んでたの知ってるし、私もやってみたかったからやってみたんだけど……。

 ばぁやは私の問いにゆっくり頷いたから、つまりこれは私から先を越して、勝負さんがモミモミしたことになる。すごく悔しい。……あと、大人になったら私も最低限このくらいは欲しいな。



「やっとかー!」

「それはやっとだねー!」

「じゃあキスはしたの? アイリスちゃん」

「それは結婚式でしてたよお姉ちゃん」

「そうだった……じゃああと残るのは……」



 私とリンネとロモンは三人寄り添って、お姉ちゃんのことを見る。誰が聞くまでも無い、答えはさっき言ってるんだもの。

 ばぁやは突っ伏したままなので、私達はしばらくの沈黙を続けることになったけれど、やがてロモンちゃんが意を決したようにばぁやに新たな質問を繰り出した。



「十ヶ月後にまたいっぱいお祝いした方がいい?」

「そ……それは早すぎます! 流石にそれは有り得ませんとも! いや、まあたしかに……その……この世界は私たちの世界よりそう言った器具が充実してませんので、可能性としてはなくも……」

「とにかくおめでとう、アイリスちゃん!」

「おめでとう!」

「お、おめでとう! ばぁや」

「……ぁりがとぅ……ござます……っ」



 そりゃあ、あの側から見れば堅物だったあのばぁやが一気に大人になったんだから、おめでたいけど。やっぱりちょっと複雑な気分。死ぬまで一緒だったのに、私のばぁや。……あ、でも死ぬまで一緒だったのは勝負さんも一緒か。

 

 この世界じゃもう、ばぁやとあんなお別れの仕方しなくていいんだし、名義上は私のお姉ちゃんとなっていて夢が叶ってるし、血筋だとか主従だとかの垣根なく接せれるから、状況は遥かに好転してるのに。


 ……はぁあ。愛理離れ、しないとダメね。

 それに私のお姉ちゃんはばぁやだけじゃなく、リンネとロモンもなんだから、うん、ならこの二人も突っついて遊ぼうかしら。この二人の恋愛に関しても私、こっそりと情報を握っているのよね。



「お父さんには内緒、だね」

「だね、どうなるかわかったもんじゃ無いね」

「お、お願いします……」

「……ところでね、リンネとロモン。私、実は貴女達も何かしらの進展があったことを知ってるのよ!」

「えぇ!?」



 最初に驚いた声をあげたのは、二人では無くばぁやだった。



「ま、まさかお二人もどなたかと……!?」

「いや、それはないよ。つい最近十五歳になったばかりなのに」

「うん、ありえないよ。つい最近お誕生日パーティしたばかりなのに」

「ふぅ。で、ですよね! ……しかし気になりますね、お嬢様、それは一体どういう……?」



 私はリンネとロモンに口封じされないよう、ばぁやのスベスベな背中に隠れながら、その内容を告げた。


 ……前年の二人の誕生日、その時に告白してきたあの幼馴染の二人。最近、その二人が自力でこの王都のこのお屋敷までやってきて、リンネとロモンに再度告白をした。


 そして、リンネとロモンは恋人ができて結婚して(その時はまだ婚約期間だったけど)、幸せそうなばぁやを見て何か思うところがあったのか……前みたいに完全に突っぱねたりはせず、ある条件を出したの。

 それは『今、Sランクの騎士団長という扱いを受けている自分達と見劣りしないくらいの立場になったらオーケーする』というもの。


 自分の立場におごっている訳ではなく、ばぁやのために必死に頑張った勝負さんを見て、そのくらい頑張ってる男性と結婚したいと純粋にそう思ったのでしょう。


 この話を聞いて告白してきた二人は、笑顔を浮かべて、二つ返事で約束を交わした。……っていうお話。



「お、おおおお! いいじゃないですか……!」

「でしょ?」

「いいですね、いいですね。お二人ともどういう表情を?」

「それがね、ロモンなんて割と嬉しかったのか、ちょっとニヤケて……」

「わぁあああ! もうだめ! ストーップ!」

「よし、口を塞ごう」



 慌ててる双子の姉が可愛らしい。ああ、胸の奥が高鳴るような……! 嫌だわ、私ったらいつのまにばぁやの悪癖がうつったのかしら。このままだと変態になってしまう。でもいいか、うん。



「ふごごご……」

「はぁ……はぁ……これでいいね、まさかナーガがアイリスちゃんみたいな一面があるなんて。一体誰に似たのやら」

「いや、それはアイリスちゃんでしょ、お姉ちゃん」

「あ、そっか」

「生まれた時から一緒でしたからね……。あの、ところでロモンちゃん、リンネちゃん、お嬢様のそう言ったお話は……」

「逆にアイリスちゃんからはないの? ナーガのそーゆー話」



 私以外全員が首を振った。そうでしょう、私にはそういった話をされるようなお相手がいませんもの。

 さ、寂しくなんてないわ。だって私には皆が居る……あ、そうだ。



「んごご!」

「む、ナーガが何か話そうとしている」

「ぷはぁ! ……まあ、私にはお姉様方みたいに浮いた話はないわ。まず殿方の知り合いも少ないもの」

「そっか、そうだよね。最近人間になったばかりだし、仕方ないよ」

「でも、想いを寄せても良いな、と思う方は一人だけ」



 そう言うと、私のお姉ちゃんとなった三人は身を乗り出してきた。顔が近い。そして全員美人だわ。これだけ密着されてても全く不快感を覚えない。

 全員気になってるでしょうし、その答えをさっさと言ってしまおう。



「ケル」

「「「……え?」」」

「だから、ケル」

「ケルってあのケル?」

「ケルって私のケル?」

「そう、そのケル」



 理由は簡単。あの年齢で異常なほど頭が良くて、強いのに、しっかりと正義感があって、家族思いで、優しい。努力家で、仔犬ながら整ってる容姿。きっとばぁやや私みたいに半魔半人化したら、それはもう素晴らしい男の子が出来上がるに違いない。


 そして私とあの子の付き合い自体も短くはない。あの子がベスから産まれたのとほぼ同時期に、私は私の祖父となったジーゼフのお義祖父様に拾われてて、私は蛇の間、姉弟みたいに接してきた。


 もし私が恋心を抱く可能性があるのなら、あの子しかいない。

 まあ、他にもお城の方にナイトさんみたいな、かっこいい独身の殿方は居るけれど……そこまで親しいわけじゃないし。それに特別指南役となったあの人は今、お城の女性陣にモテモテだっていうし……。



「と、いうわけなの。ケルが勢い余って人になったら、その時は私が狙うわ!」

「だ、ダメだよナーガ! そんなことしたら私の仲魔がいなくなっちゃうよ!? アイリスちゃんと契約解除したばっかりで、今の仲魔はケルしかいないもん!」

「でもその時はその時よ。ふふふふふ」

「ケルかぁ……それも良いなぁ」

「お、お姉ちゃん!?」

「ケル君は確かに良いですね。私には旦那がいますが、今から好きな男性のタイプに育てられる男の子っていうのも悪くない」

「アイリスちゃん!?」



 そんなこんなで、私達四姉妹の恋バナは全員がのぼせるまで続いた。……いいんだよね、もうこんな楽しい会話をしても。いいんだよね、この人たちにたくさん甘えても。

 恋人なんて関係ない、私、私にとっては今が最高に幸せだもの。




__________

_____

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【はーっくしょい!】

「おお? ケル、大丈夫かの? 風邪かな?」

【いや、これは多分誰かがオイラのこと噂してたんだゾ。割と好き勝手な内容で。きっとそうなんだゾ】

「ほっほっほ、今やケルも人気者じゃからな。噂の一つや二つくらいされるじゃろ」

【……うーん、ま、いいか。寝直すんだゾ……】







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次の投稿は早くて二週間後、遅くて一ヶ月後、もしそれより遅れる場合は事前連絡をします。また、次回で構想していた本作の後日談が全て終わり、本作は完全完結となります。


二ヶ月間、またまたまた超ウルトラスーパーお待たせしました。

コンテスト等に向けて準備したりしていたので……。

それに合わせて、近いうちに一つ、打ち切った作品を再会させます。その際は近況報告等に報告があがりますので、ぜひ確認よろしくお願いします!


このお話にて誰と誰がくっつくか、そして新・四姉妹の仲の良さを補完したかったんですよね。はたして幼馴染達は上手くいくのか、ケルは人化してお嬢様に狙われるのか、それは未来の本人達のみぞ知るところでございます。(ΦωΦ)フフフ…。

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