第147話 vs.グラブアでございます!

「全員殺す…? そんなことをしたら貴方もただではすみませんよ?」



 ガーベラさんと私はともかく、ロモンちゃんとリンネちゃんを殺してみなさい。ただでさえ国の重役2人の娘で、さらに将来有望な冒険者なのに国を挙げて犯人探しをしないわけがないでしょう。

 まあそんなことは敵は知らないけど。



「ふぅむ…ぶっちゃけいうと俺、すっごい昔に街を丸ごと1人で滅ぼしたことあるからね。別になんとも思わないよ、その程度の脅し」

「「「えっ!?」」」



 ま、街を丸ごと一つ1人で潰す!? そんなことができるの? というより大犯罪者じゃない。私も過去の事件については、歴史の勉強の一環いろいろ覚えたはず。

 なのにグラブアのことを知らなかったのはなぜ?

 いえ、そもそも。



「街一つが1人の人の手によって滅ぼされたのって、最後は50年以上前。どうみても50歳以上に見えないけど…」



 そう、それが言いたかったの。ロモンちゃんが代わりに言ってくれたわね。それにグラブアは自分で私に22歳だと言っていた。その言葉を信じるなら物理的に不可能。



「あっちゃあ…君達はかなり学があるみたいだね。実力のある人って脳筋が多いからそれに掛けたんだけど失敗した。今のは忘れて」

「忘れろと…ふざけているのか?」



 ガーベラさんは足元に広がる崩れた盾の破片を払いつつ、槍を構えた。隣にいるリンネちゃんもそれにつられて双剣を構え直す。



「うん、どうせ今から死ぬんだから関係ないしね。バブル…」



 また、それを唱えた。

 私は…私達は泡の壁の中に閉じ込められる。それに今回は…。



「3重にさせてもらったよ。破られたら困るからね」

「くっ」

【ゾッ】



 3枚重ね。私の時より強固だ。この広い裏路地の一角が完全に隔離されてしまった。私たちが発見される方法は臭いと視覚のみ。

 グラブアの実力が強いとはわかってるものの全力を見ていない今、相当まずい。

 磯の匂いというのがまた再びし始めてるのか、ケル君は鼻をヒクヒクさせている。



「さて、誰から殺そうか」



 盾剣を手にしっかりと握りなおしたグラブアは私たちを一瞥する。広い面積を占める黒い瞳が、さらに漆黒に染まったような気がする。



「うん、まずは男からだね。ガーベラ…とアイリスちゃんは言ってたかな。君からだ。君をまず殺せば女の子達は殺さずに絶望させることがまだできるかもしれない」

「……ふぅ…はぁ…簡単にはやられない…!」



 私たちはすでに全員、補助魔法を最大まで掛けてしまっている。だからそう簡単にはやられないはず。

 でももし4人がかりで敵わなかったら…全滅?

 いえ、私か双子姉妹、この3人のうち誰かが生き残ってれば強力な回復魔法で何度でも戦える。

 盾剣によって一撃で倒される怖さもないわけではないけれど。



「そう来なくちゃ。じゃあ死ね」



 グラブアは盾剣を遠くで振るった。斬撃が飛んでくる。技名を一切呟かずに斬撃を飛ばしてくる高等技術。リンネちゃんレベルはないとできない。



「とっ」


 

 リンネちゃんに当たらなかったのは当たり前だけど、ガーベラさんにも当たらなかった。すんでのところで回避したのね。

 でもその斬撃が当たった地面は抉れるように吹き飛んだ。当たれば……私以外は即死は免れない。



「ふむふむ、じゃあこれはどうかな?」



 今度は3連斬撃。回避できないような感覚で3つの斬撃が飛ばされてきた。ガーベラさんは槍を構える。

 無謀だとわかってるのか歯を食いしばりながらね。

 でも隣には剣の達人となりつつあって、もはやこの国の中ではお父さんの次に早いと言っても過言ではないリンネちゃんが隣にいるの、だから。



「魔流…からの蛇行斬!」



 全ての軌道を逸らすように抜群のタイミングで斬撃に刃を当てた。そして真上に打ち上げられる。

 私の剣は壊れてしまったけどすぐに直るからいいとして、逸らした斬撃は全て泡の壁に被弾。

 その結果としては泡の壁を一つ崩破ったの。

 いさすがリンネちゃん! すごいよ! もうAランクの魔物も1人で楽々倒せるんじゃないかしら、そんな気がしてくる!



「すごいね、そこまでの剣技の持ち主は久しぶりに見たよ。君何歳? どう見てもアイリスちゃんより年下だし、まさに天才ってやつだね。まあ美味しくいただくつもりでいるし、結局殺しちゃうから無意味なんだけど…」



 確かにうちの姉妹は天才だけど敵に褒められても嬉しくない。リンネちゃんは自分の身を扱う話をされたため、さらに纏わせていた魔流の気の量を増やしたの。

 ガーベラさんもリンネちゃんを守るように前に出る。



「うん…じゃあもう一回。今度は__________」

「リシャイム!」



 私の真隣、ロモンちゃんから光の魔法が盾剣を構え直そうとしたグラブアめがけて放たれた。

 グラブアはとっさに盾剣を構え、それを受ける。

 流石はアーティファクトといったところか、特に大きなこともなく防がれてしまった。



「この威力の魔法…しかも光属性! すごい、すごいよ! 君達2人は本当にすごい! 俺はね、可愛くて性格のいい子だけじゃなくて、賢くて強い子も好きなんだ! 絶望した時の表情がね! ああ、そして君達は多くの人に愛されてるに違いない……その人達からも絶望を得られる……やっぱりやっぱりやっぱり、殺すのは惜しい、あまりにも惜しい! ここで捉えて、持って帰って嬲らせてもらうよ!」



 グラブアは私とロモンちゃんの方を向くと、思いっきり地面を蹴った。と同時に次の瞬間、私たちの目の前に現れる。

 リンネちゃんみたいなスピードというよりは、その高い攻撃力をそのまま移動力に変換したといった感じ。直線移動しかできないけどこんな裏路地ならそれで十分だって考えたんでしょう。

 でも。



「フッ……!」

「なぁ!?」



 リンネちゃんのが早かった。

 グラブアが目の前に現れる頃にはすでに私たちの真隣にいて、技の準備ができてたの。



「断裂斬!」



 重い一撃を普通の人間がまず捉えることができない速度で叩き込んだ。流石のグラブアといえど、リンネちゃんの断裂斬をバランスが悪い状態で食らったら吹っ飛ぶ。

 


「はっ…!」



 そしてさっきまでの私のように、グラブアの服がボロボロになってしまい、その細身に凝縮したような筋肉があらわになる。

 あのくらいならこの世界では普通。

 そのはずなんだけど、リンネちゃんの渾身の一撃を食らっても肌自身には傷一つ付いてなかった。



「わかった、君の強さは十分にわかった! ……うん、勝てるっていう確信はあったけれど、ただではやっぱりすまないかもしれない!」



 確かにこちらとしては、いえ、少なくとも私はグラブアをただで済ませようとは思わない。だから私も、今は誰も傷ついてないんだから、回復に専念するより攻撃をしなくちゃね。



「でもこの困難を乗り越えた後には美味しいプランクトンがあるもの! さあ、まだ君達の相手をできるよ!」

「そうですか。ならば次は私が」



 私は私の身体から作った杖剣を取り出し、その切っ先をグラブアに向けたの。



「……今度はアイリスちゃんかい!? まだアイリスちゃん自身の実力ら回復魔法以外に見てないからね! どうせ効かないとは思うけど見せてみなよ!」



 余裕そうなのも今の内。

 私は…渾身を込めて、今までの彼の行いに怒りを込めて、放ったの。



「リシャイム」

 


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