第146話 助けられたのでございます!

「一体これは何!?」



 リンネちゃんがそう叫ぶ。

 ケル君は勇敢にもまだグラブアに唸っているままだ。



【すいません、不覚をとりました。そこにいる赤髪の男が私を嬲ろうと…】

「えっ…! アイリスちゃんを!?」



 私の念話を聞き、驚いたようにグラブアの方を凝視する2人。その2人とケル君をグラブアも見つめている。



「またなんか来たね。トゥーンヘルドッグとかわいい女の子2人…? ああ、もしかしてこの娘達がアイリスちゃんの仲間?」



 そう聞かれたけどもはや答える理由はない。私はただ2人と1匹と、ガーベラさんを交互に見る。

 この3人どうやって私のもとに来たか全くわかんないけれど、本当に助かった! うれしい…。



「……まあ1人増えようが3人増えようが一緒だよ。ここで全員殺して…いや、君たち2人は残して、あの男と犬だけを殺そう」



 2人の方に盾剣を向けながらグラブアはまだ余裕そうにそう言った。確かに3対1でも勝てるかどうかわからない。



「とりあえずアイリスちゃんを助けなきゃ。…闇氷魔法使えるんだね、その人」

【はい。ですから幼体化や魔物化を駆使して脱出しようと思います。お願いします】



 ロモンちゃんは黙って頷いた。

 そんな様子を見てグラブアは口を開く。



「何かしようとしてるね? …全員の動き止めちゃうか」



 グラブアが盾剣を構えると、それが紫色の冷気を放つ魔力に覆われた。



「深闇氷斬!」



 おそらくあれは闇氷の属性の斬撃。剣をつかう人達が炎斬や氷斬などをするあれだ。その闇氷版をやってのけてる。私ですらそれは今、リンネちゃんのために開発中だったのに。

 ここまで闇氷魔法を操れるなんてやっぱり人間じゃないのかしらね。いえ、そんなことより__________



「はは、全員氷漬けに………」

「させないっ!」

「ぅあ!?」



 グラブアの腕が、振り下ろす直前に上に弾かれた。

 放たれるはずだった剣に溜まった闇氷は上空に打ち上げられ無効化される。


 リンネちゃんがやった。

 リンネちゃんが自分に急いで速度上昇魔法をかけ、グラブアの懐に潜り込み、腕を蹴り上げたの。

 今のリンネちゃんなら、余裕でサナトスファビドの不意打ちも回避できてしまいそう。



「なっ…」

「ふっ!」



 手を止めることなく、リンネちゃんはいつのまにか握っていた私で作った剣の片方を振るう。

 しかも無詠唱で『断斬』を放ってる。

 最近ちょっとだけ練習してたことが、できるようになってたのね。



「ッー…!!」

「……斬れない!?」



 でもグラブアは斬れなかった。断斬をグラブアの腕を切り取るように放ったリンネちゃんだったけど、やはりそれは叶わず。硬すぎよ、いくらなんでも。

 しかもグラブアを斬った方の剣が刃毀れしちゃってる。

 …まあ刃毀れはすぐ直るんだけど。



「ははっ! なんて早さだ! やっぱりこの娘達達がアイリスちゃんの仲間なんだね! 強い、強いよ!」



 グラブアは嬉しそうに笑う。闘うのが好きだというより、この状況をなんとかできるとまだ思ってるんでしょう、酔いしれてる感じだ。



「……ム…」



 リンネちゃんは素早くグラブアの懐から離れ、ガーベラさんの元へ。新たな助けに少々驚いていたガーベラさんもリンネちゃんが来たことにより、戦闘を再開するためか再び槍を構えるの。


 でももうそんなことは必要ないかもしれない。

 リンネちゃんが時間を稼いでくれた。だから、念話と回復魔法を放つのが精一杯だった私は、ロモンちゃんのお陰で__________



「アイリスちゃん、もう少し待って…ん?」



 グラブアが見たその方向にはすでに私はいない。

 あるのは氷の拘束具だけ。そう、私はすでにロモンちゃんの隣にいるの。

 姿は14歳程度になって。



【ヨカッタンダゾ! アイリスゥ!】

【ええ、ご心配とご迷惑をおかけしました】



 ケル君が唸るのをやめ、私に向けて尻尾を振ってくれてる。私が脱出したことに気がついたグラブアは、こちらを振り向くの。



「どうやって脱出した? …身体が小さくなってるね、なんかの術かな?」

「貴方に教える義理はありません」



 さて、身体が変わったことで14歳の時の服装になってるから上半身半裸じゃなくなった。さらに身体のダメージもすべて消えていて魔法も唱え放題。

 こうなったらもうこっちのもんよ。



「……フェルオール」



 私の大得意の補助魔法。高レベルだからすごい急いでる時には使えないけど、今なら使える。

 私はグラブアにバレないように、この場にいる全員…ガーベラさんやケル君も含めて全員にフェルオールを5回がけしたの。



「ふーん、つまり今、俺は逆転されてピンチになりつつあるわけだ」



 グラブアは盾剣を雑に持ち、悟ったようにそう言った。

 でもまだどこか余裕そう。…何かまだ奥の手があるのかしら。泡壁魔法だの闇氷魔法だの、そもそもの高すぎるステータスだの、引き出しが本当に多いから油断なんてこれっぽっちもできない。



「どうしよっかなぁ…」



 腕を抱え悩み始めたグラブア。

 その間にロモンちゃんとリンネちゃんが念話をしてきた。



【あの人、アイリスちゃんのこと知ってそうだけど?】

【アレはグラブアという人です。この間の港町で知り合いました。観光に来たというので案内してたのですが…】

【じゃあ、今日出会っていきなり襲ってきたとかじゃないんだ】

【はい】

【それまでアイリスちゃんが気を許すくらいの人を演じてたってことでしょ? ……タチ悪いね】



 襲われている最中に私に助けれた経験があるロモンちゃんはグラブアを思いっきり睨む。無論、その姉であるリンネちゃんも。



【ゾ……。アイツカラ シンセンナ サカナ ノ ニオイ ガスルンダゾ】

【あの人、何か海に関連してるとかある?】

【ええ、海によく潜ってると言ってました。…私を見つけてくれたのはケル君でしたか】

【うん、なにか街の中じゃありえない臭いがして、その中にアイリスちゃんも居るからって】



 なるほど、あの泡魔法は壁としての役割をこなし、音と探知を遮断することはできても臭いは消すことはできなかったのね。いえ、もしかしたら逆に臭いを発していたかもしれない。



【ならばケル君に深く感謝しなければなりませんね】

【うんっ】

【帰ったらたくさん褒めてあげてね】

【ホメラレル? ウレシインダゾ!】



 そういえば魔法も放ってたっけ。

 強姦魔にロモンちゃんが襲われた時に、あっという間にやられてしまったケル君とはもう違うのね。

 いつのまにか成長してる。



【にしてもボクの斬撃が効かないなんて】



 もう直りきってる刃をチラリと見たリンネちゃんはそう言った。ちょっと不服みたいだ。



【はい、おそらく実力はSランカーです。下手したらその中でもかなり強い方かもしれません】

【アイリスちゃんがやられちゃったんだもんね。お父さん達の攻撃も耐えてたアイリスちゃんが…】



 私達は未だに悩むグラブアにさらに警戒するの。

 あの強さでまだ奥の手があるかもしれないのは、さっきまでとはまだ違った類の恐怖がつのるわ。



「そうだ、そうだね。……絶望を集めるのはここまでにしようかな」



 さっきまで悩んでいたグラブアがそう言いだす。

 絶望を集める…….? どこかで聞いたようなセリフね。



「本当だったら、そこに居る男を殺し、君たち3人を嬲るんだけどねー。4人とも実力があって…ここは王都だ。これ以上人が来てもめんどくさいから、全員殺すことにするよ」



 そう言って三たび盾剣を構えたの。

 


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