登場人物解説③

■オベロン


魔王と恐れられた森の主。


帝国軍による森への侵攻に対し立ち退きを選択したエルフたちの中、抗戦を訴えて残った四人のうち唯一の男性。


帝国では彼を魔王、三姉妹らをその側近と認識していたが、それは人間側の先入観による勝手な解釈である。

エルフは男女差が希薄であり、子育て期間の比重もほとんど無い為に性別による役割分担は無く、四人の関係は完全に対等であった。


むしろ戦力としてはダークエルフに深化した二人と比べて大きく劣っていた。


精霊の行き来が活発な森においてエルフ達は無尽蔵とも言える魔法を行使できた。

しかし印象ほどエルフ側に余裕はなく、禁忌とする深化の必要に迫られていた。


存続を考えれば自然とオベロンは深化の候補から外れ、姉妹が前線に立ったことも彼を王と勘違いさせた要因かもしれない。


六回目の戦争の際、リーンエレが匿って治療していた敵兵からの不意打ちにより命を落としている。

隠れ家への単独での侵入は不可能であり、敵の存在を察知してすらいなかった。


彼の死により姉妹たちの焦りは加速することとなる。


重要キャラですが、序盤はとにかくギュムと三姉妹を憶えてもらいたかったので一切の描写を省きました。



■メディレイン


三姉妹の長女。


三姉妹とは言っても親は異なり年齢も妹たちとは倍の開きがある。

それでも二十人に満たない集落で育った彼女たちは一心同体と呼べるほどに結束が硬かった。


レインは表情の変化に乏しく最低限の発言すらしない為、冷徹で威圧的な人物との印象を与えるが、単に年長であることから達観しており大抵のことに動揺しないというだけである。


容姿の若さに見合わない落ち着きは人間から見れば違和感があり、警戒心を抱かせるのも当然とは言える。


しかし彼女がけして冷徹でないことはダークエルフであることから判る。


ダークエルフになることは禁忌とされ二度と同族の集落に受け入れられることはない為、その末路はエルフたちの間でも謎に包まれていた。


それゆえ深化には自害にも等しい抵抗があったが、彼女は必要な局面になると真っ先に自らが深化役を買って出たのだ。


その行動からは年長者であることの責任感と、家族に対する深い愛情が伺える。


のじゃロリにするかとても悩んだけど、記号化などはせずに内容を重視しました。



■シエルノー


三姉妹の次女。

常に最前線で戦ってきた為、魔軍の切込隊長として恐れられた。


深化による影響でレインが変質していったことから、継戦能力を維持するために武器による白兵戦も多用した。

殺生を嫌うエルフの性質に抗う為、怒りや殺意を魔法によって増幅して戦っている。

本来は好戦的とは真逆の穏やかな性格をしている。


強い殺意は並外れた敏捷性を誇る彼女を強力な戦士にしたが、精神的な負荷が大きく情緒は常に不安定な状態に陥っている。


オベロンの死後は危機感からリーンの深化を焦っていた。

戦力増強の意味もあったがレインが限界を匂わせていた為、リーンを失うことで自らが最後の一人になってしまうことを恐れていた。


死よりも孤独を恐れていた彼女は容易くシェパドに依存することとなる。


隠れ家に二人増え、リーンが妊娠し未来を垣間見たことにより、正常な判断力を失っていたのかもしれない。


結果、シェパドの策略により敵陣におびき寄せられると騙し討ちにより命を落とした。


家族単位しかないエルフ社会なので嘘で武装する文化が育っておらず、三姉妹全員がチョロいのですが、一番チョロかったのが次女です。


荒々しい口調にしたのが何だか逆に愛くるしくなってしまい、もっと描きたかった子だなと。


でもシーンを増やすと本筋がボヤけるので、必要最低限の描写で出番を終えてしまいました。



■リーンエレ


三姉妹の三女。

姉妹の中で唯一、深化していない純粋なエルフ。


疲弊していく姉たちの姿に耐えかね打開策を模索したが、ダークエルフとなった姉たちに安住の地は無く森を空け渡すことは難しい。


結果、人間との和解以外に打開する術が無いと結論づけた。


彼女の失敗によりエルフ達は二度の危機に晒された訳ですが、エルフにとって一人の失敗は全員の失敗なので責められたりはしませんでした。


個人を責めることは自傷でしかなく、原因の解明や問題の解決に結びつかないというのが彼女たちの価値観であり、根本的な原因の解明と解決以外に興味はないのです。


リーンは姉妹の中でもっともキャラが弱いのですが、彼女は無味無臭のエルフである必要があるので苦労しました。


三女の役割は『人間とエルフの和解は可能だ』から『絶対に不可能だ』という結論へと導くことなので、エルフっぽくないことは極力排除。


ヒロインである以上にエルフであることを要求しました。


リーンとラドル。二人は純粋同士ゆえ、正しいことをしようと意気投合します。


しかし、人間は十を一とも百とも表現する生き物です。

そうしなければ他者や自らを守ることができません。


エルフは一は一、十は十としか言いません。そうでなくては正しい解決に導かれないことを理解しているのです。


それぞれの社会においては正解であり、相手社会においては許されない。

ラドルはそうできないし、リーンはそれを理解できないということで決裂するのです。


姉たちの生は完結しました。しかし、リーンはその後も孤独に生き続けています。

捕虜として人間に拘束された彼女が悲惨な待遇を受けていただろうことは容易に想像が出来ます。


当時の人々が寿命を迎え、直接の憎しみが失われた頃、ようやく開放されたのかもしれません。


帰る場所は無く、やりたい事も無い。


人間との和解は不可能だと悟り、ただ死んだように暮らしていたリーンは劇団の勧誘を頑なに拒みます。


そんな彼女が涙を流したのは実に数百年ぶりでした。


「千年後には人間とエルフが和解しているかもしれない」


それを人間の口から聞いたからかもしれません。


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