登場人物解説④

■ラドル


16歳。純粋で正義感の強い、奥手で控えめな性格の少年。


パッとしない日々を送っていた彼にとってシェパドの破天荒な生き様はあまりにも鮮烈で、以後彼に付き従うようになった。

ただ過ぎ行くだけの一日は噛み締める一日へと変化し、二人の依存を深めた。


ラドルは普通の子です。リーンと同じ理由でキャラを盛れずに地味な存在に。

平均的な人間だとシェパドを嫌煙し、エルフとは打ち解けきらないので、人より少しだけ貧しく、ものを知らず、優しい子になりました。


狡賢い人間からはカモに見えるタイプ。そんな彼にも何者かになりたいという願望はある。


それが戦争を無くす役目だったらどんなに良いかと優しい少年は思いました。


正義の話で一致していたラドルとリーンが、恋愛に対する価値観の不一致程度で決別する。

性の話が頻発されるのはエロ目的などではなく、そういうことなのです。


死なないエルフが数で地上を制圧していないのは人間とは出産の頻度が違うから。この世界ではそういう解釈をしています。


エルフは減らないので増やす必要性がなく、異性を引き寄せる機能は未発達であり、恋にも落ちない。


必要に駆られた場合は補充するけれど、欠けたピースを埋める存在である子供は誰のものでもなく全員で育てる。

エルフ姉さんがラドルやユンナに甘いのは、子供は共有財産という感覚が残っているからです。


リーンには恋愛や浮気といった概念すら無く、シェパドとの間に身篭ったことはシステマチックな帰結でしかなかった。

姉たちが試して駄目なら次は自分、それだけの行為だったのです。


それを許容できなかった時ラドルは失恋そのものよりもエルフとの決定的な隔たりを実感し絶望しました。


人間とエルフはまったく価値観の異なる生き物である。

それを認めることは二人の大義を否定することであり、和平の場へと赴く覚悟を失うことだった。


複雑だったのは、異なる生き様を持つシェパドを尊敬したように、ラドルが別の生物である三姉妹を愛していたことです。


人間とエルフの和解が不可能だとしても、彼女たちの味方でいたい。

だからこそラドルは「エルフに生まれてきたかった」と告白し、人間を憎悪するレインも彼を殺さなかった。


結果、尊敬したままの兄貴と対立することになるのでした。



■シェパド


26歳。英雄になり損ねた男。


平民の女性が生きていくには男に依存するか売春に手を染めるしかない。

そんなご時世を生きていくのは男にとっても大変です。


一生惨めな思いをして死んでいく者も少なくはなく、彼も恵まれない境遇にいた一人。


辛い思いをしてただ生きて、ただ死ぬ。


そんな人生に耐えきれず、命懸けの博打だと少年シェパドは魔王討伐軍に参加。

その他大勢と等しく戦死しかけた所をリーンに救われたのでした。


エルフがどんな思いで自分を助けたのかは不可解でしたが、目の前のオベロンを殺せば英雄になれることだけは確かでした。


躊躇すれば殺され、迷わなければ人生が変わる。

瞬時の判断を求められた時、シェパドのとった行動は至極当然のことだったと思います。


確かに、魔王討伐はシェパドの実力によるものではなかった。

けれど彼は全てを捨てて戦争に参加し、命懸けの覚悟で最大の功績を立てた。


その勇気は称えるに値する。少なくとも本人はそう信じていたのです。


しかし、帰ってみれば敗戦ムード。魔王を倒したなどと口にすれば途端に袋叩きにされた程でした。

首を持ち帰らなかったことは迂闊でしたが、見つかれば死という状況では急ぎその場を去ることが賢明だったのです。


以後、シェパドは不謹慎者、嘘吐き野郎と迫害され、より惨めな日々を過ごしました。

魔王を倒したのにという自負は、より理不尽を感じさせ彼を苦しめます。


不貞腐れ、何年も底辺の生活をしていた彼はラドルと出会う。

無知な少年が「凄い!」「カッコイイ!」と仕切りに褒めるので、シェパドはそれを自信に変えて立ち直ります。


そして英雄になる為、再び魔王討伐軍へと参加するのでした。


登場人物をなるべく減らしたいので、ラドルだけで行けるかシェパドが必要になるのかはけっこう悩みました。

エルフとは和解出来ないという話を書くに当たり、人間同士ですら容易ではないんだ。ということを描きたくて登場させました。


家族、兄弟、恋人と、最も近しい相手とも殺し合いが絶えないのに、異種族間の平等なんてありえないじゃん。


そんな結論に至ったリーンを泣かす物語です。


さて、シェパドはエロゲ主人公かよ!とも言われましたが、僕は全然普通だと思ってます。


恋愛したいだとか運命のパートナーに出会いたいだとか、それらは本能として基本的に備わっているものですからね。

恋愛は事件ではなく生活です。悪事や犯罪でもあるまいし、踏み出してみたら案外すんなり行くものなのです。


シェパドも、顔が悪いとか金がないとかで断られたことは一度もねえと言っていました。


もちろん、りっぱな人間ではないしむしろクズなんですけどね。


フラれることを怖れるのは、相手より自分が可愛いからですよね。

情熱を燃やせるか、それによって生じるトラブルと向き合う覚悟があるかどうかの話だと思います。


彼はだらだらと女性に甘えて生きることもできたのですが、尊敬してくれる弟分に良い所を見せたい一心で奮起、皮肉な結末へと導かれるのです。



■イブラッド将軍


一度の敗戦で全てを失った騎士。


名声は地に落ち永らく泥水を啜る思いをしたが、メディレイン討伐後には逆転し、帝国を代表するドラゴンスレイヤーとして歴史に名を残した。


あまりの混戦に誰の一撃がトドメになったか判断ができず、配下であるイブラッドの手柄にした方が帝国にとって都合が良いとの理由から勲章が与えられた。


当時イブラッドは遥か後方に配されており、直接戦闘には参加していませんでした。


あまり語ることはありませんが、作者は好きなタイプのキャラです。


当初イブラッドとシェパドは一人で賄えるんじゃないかなあと、あれこれ弄り倒しまして、そしたらユージムもオーヴィルで賄って二キャラ減らせたんですよね。

その方が読者の負担も減らせて少し読みやすかったのかなと思います。


それでも、先のことを考えるとユージムが欲しいかもなと思いキャラ増やしました。

これはシリーズを意識した結果で、一本の作品としては誤った判断なのかなーといまだに悩んでいます。


でも、シェパドと分けたことでよりダサく書けたので良かったのかな。



■エルフの娼婦


リーンが知っているのはラドルが呪いの指輪を使用したという事実までです。

彼がそれをどこで手に入れたかまでは知りません。


ラドルがエルフの娼婦から指輪を貰ったというのは、パレス・セイレーネスから始まるというイーリスの脚本であり、読者に同時進行だと錯覚させる演出でした。

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