四礼 大詰め


わたくし達は経緯の説明を終えた──。


レンドゥルは黙って耳をかたむけ、そして理解したという様子でうなずいてみせる。


「……それで私の隠れ家に行き着いたと」


調査の段階で私たちにできることはなにもなかった、スタークス率いる『猫の手』が見事にその正体と所在を特定してくれたのだ。


「ええ、優秀な連中でして。ほかに聞きたいことはありますか、黒騎士レンドゥル?」


黒騎士レンドゥル──。


イリーナはとうとうそう名指しした。


正体を暴かれた黒騎士はぼんやりと虚空を眺めたかと思えば、ニヤニヤと笑みを浮かべたりと思考がよめない。


「ふははっ。いや、なんだか気分が良くなってきました。さきほどまではこれ以上なく不快だったのに。


しかし、どういう風の吹き回しですかな。私の始末は他人に委ねたのでしょう?」


当初の予定では黒騎士と対峙しているのは、インガ族の大戦士マハルトーであるはずだった。


しかし方針は変更され、わたくし達がちょくせつ対面することにした。


イリーナが質問に答える。


「自分にできないことを専門家に依頼することに疑問はなかったのですが、やりたくないという理由で押し付けるのはちょっと気が引けたもんで」


確実な手段をとらなかった理由をイリーナはうそぶいた。


わたくし達にはどうしてもこうしなければならない理由がある。


「やりたくない。ふむ、できないことではないと?」


レンドゥルが引っかかった様子で聞きかえすと、彼女は意地わるく答える。


「一度やったことなんで」


手紙にそえた『右脚の調子はいかがですか?』という文言──。


それはコロシアム革命の際、立ち塞がったレンドゥルにイリーナが負わせた一撃を意味している。


それにより彼は戦線を脱落し、すべてを失うことになった。


まさに人生を狂わせた一撃だ。


その一言が逆鱗に触れ、レンドゥルの椅子が地面を叩いた。


「ぬおああっ!!」


憤怒の雄叫びをあげて立ち上がった元近衛兵長は椅子を掴みあげて放り投げる。


それは私とイリーナの間を通過し、床に叩きつけられ分解、四散した。


命中していたら大怪我をさけられなかっただろう。


酒場内を緊張が張り詰める。


「ふふははっ」


レンドゥルは怒り狂ったかと思えばとうとつに笑いだす。


「──なにが嬉しいかって、あなた方があのまま雲隠れせずにこうして姿を表してくれたことです。


死んだと思い込まされた裏で、のうのうと生きながらえられては堪ったものではない」


そう言ってガンガンと床を踏み鳴らす。


「レンドゥル元騎士長、わたくし達は和解をしにきました」


趣旨を告げると老人は踏み鳴らしていた足を止め、「和解ぃぃ?」と懐疑の視線を向けてくる。


「こちらの要求はこれ以上、周囲に危害を加えないでくれという一点です」


これが愚かな要求であることは理解している。


レンドゥルは一息ついて直立になると、側近が王を嗜めるように清廉とした佇まいで告げる。


「ティアン元女王陛下、僭越ながら我が使命こそは、あなた方が不幸な結末を迎えるさまを見届けることなのです。それ以外はもはやどうでもいい、興味が無いのですよ。


私が報われなくても良い、地位も、名声も、愛に溢れた生活もいりません。ただ、あなた方を不幸の底に叩き込みたい、それだけが切実な願いなのです」


なんて暗い願望だろう。


革命以降、彼がどれだけ辛酸を舐めてきたかが伝わってくる。


さぞや地獄のような日々を過ごしてきたのだろう。


レンドゥルは真摯な振る舞いでつづける。


「公開処刑の報せを受けたとき、悲願が達成されたのだと納得しようとしました。しかし心はみたされず、怨念にさいなまれ、気が狂わんばかりの日々を過ごしてきました。


実感を得られなかったのは現場にいなかったせいというのもありますが、どこかであなた方の死を疑っていたのでしょう。案の定、あなた方は姑息にも生き延びていた……」


レンドゥルは恍惚と感謝の言葉を連呼する。


「感謝します。ありがとう。これでやりなおせる。この手でちゃんと、決着をつけられる。ありがとう。ありがとう。心から感謝しますとも」


もはや話し合いでは解決しない。


あちらが私たちの生存を認めることはなく、こちらはその脅威を排除しないかぎり大切なものを失いつづける。


双方の主張が合致することはけして無い──。



「交渉は決裂だね……」


イリーナはうんざりとした表情で和解を断念した。


レンドゥルは熱に浮かされて愛を語るように、それでいて子供を寝かし付ける母親のような優しい声色で語る。


「そうだ、お二人を拘束して連れ帰ることにしましょう。そうすれば最適な結末を心ゆくまで求めることが可能になります。


どうすればもっとも不幸か、最高のバッドエンドか、共に追求していきましょう。うん、素晴らしい。私はさながら人生の命題に出会った研究者のようです。


なんてことだ。あなた方だけです。あなた方の存在だけが私の執着のすべて!」


盛り上がるレンドゥルにイリーナがたずねる。


「どうやって隠れ家まで連れ帰るって?」


ここで殺すのならばともかく、二人を担いで移動するには彼は老いている。


レンドゥルは「心配無用!」と、得意げに語りだす。


「一人で来なければあなた方に逃げられてしまう。そう思いこうやって参上しましたが、いまごろ時間差で出発した部下たちがこの店を包囲しているころです」


卑怯だとは言わない、お互いに最大限の警戒をしてしかるべき相手同士。


「へえ、何人つれてきたんですか?」


「十五人だ、たった二人をとらえるのに過剰すぎましたな!」


イリーナが戦力を確認すると、レンドゥルは高らかに勝利を宣言した。


「くっ、しまった……!」


「後悔してももう遅い!」


イリーナが、やってしまった。と、ひたいを叩いて一言。


「そんな数じゃあ食い足りないだろうなぁ──」


レンドゥルが首をかしげる。


「……なんのことだ?」


「インガ族の戦士たちに戦いの場を提供するって大見得切ったのに、その程度じゃあ腹の足しにもならないって怒られちゃうよ」


黒騎士とは私たちで決着をつける──。


呼び出された大戦士マハルトーがそれで納得するはずもなかった。


黒騎士はかならず兵隊を連れて現れる、老兵ひとりと軍勢の相手どちらかを天秤にかけることで納得してもらった。


レンドゥル以外はここにたどり着けないようになっている。


わたくしは彼らを憐れみながら伝える。


「約束の反故を気に病むことはありません。お察しのとおり、これは罠だったのですから」


嬉々として語っていた老人の夢は儚くも崩れ去った、もはやわたくし達を拉致するどころではない。


「観念したほうがいいんじゃない、正体が割れた時点で──」


わたくしは叫ぶ。


「危ないっ!?」


イリーナが調子に乗ったところに、レンドゥルのサーベルがノーモーションで襲いかかった。


「うわっ!?」


元剣闘女子はとっさに後方に転がって距離をとる。


斬撃は彼女の顔面を中央から左にかけて頬をザックリと削り飛ばしていた。


あいだに机が無かったら頭部が無くなっていたかもしれない。


「痛ってぇ!? ぜんっぜん見えてなかった!!」


被弾箇所は眼球の数ミリ下方、あやうく失明するところだった。


レンドゥルがサーベルを構えた、途端に手足のぎこちなさが解けて背筋が美しく伸びる。


剣を持てばいつでも現役の姿を取り戻せる、それだけの修羅場をくぐってきたと主張しているようだ。


「では仕方がない。キサマの手駒が救援にあらわれるまで、できる限りの憂さ晴らしをさせてもらおう。


五分か、十分か、三分もあれば全身の皮を綺麗に剥いで中身を抜き取ってやれるぞ!」


その威容は黒騎士のそれだ。


「切り替えはぇーっ!?」


言ってイリーナは立ち上がる。


レンドゥルは机に乗り上げ、駆け下り、イリーナに斬りかかる。


イリーナはとうぜん、わたくしも彼からおおきく距離をとった。


「どうした! 決闘を所望ではないのか!」


挑発するレンドゥル。


イリーナは剣を抜かない、ただ身構えて敵の出方を待ちかまえた。


初撃を見ればわかる。剣を抜くいとまなどない、動作に介入して致命の一撃を見舞うことなど黒騎士には容易い。


抜剣するにしても距離をとる必要がある。


「いつまで逃げ切れるかな!」


イリーナを追い詰めようと踏み込んだレンドゥル、その表情が驚きに歪む。


「──なんだとっ!?」


イリーナは下がるどころか前進した、そして突き出されたレンドゥルの利き腕を両手でガッチリとからめとる。


「よっしゃ!」


組み付いてくることはレンドゥルにとって想定外だった。


いつ剣を抜くか──。


そう注視していた敵を相手に剣を抜いていたら死んでいただろう。


剣を抜けばそのぶん間合いが広がる、その一歩分があればレンドゥルはイリーナの突進に対応できていたに違いない。


あえて素手でいることで間合いが狭まり、イリーナは敵の利き腕を封じることに成功した。


その攻防の意味を私が理解できているのは、事前に打ち合わせておいたとおりの展開だからだ。



「剣を封じたところで!!」


レンドゥルがそれを振りほどきに掛かる。


剣を抜いて五分からのスタート、もしも利き腕の固定に失敗していたらその剣で滅多刺しにされていた。


イリーナの行動はリスクに見合っておらず、それがレンドゥルに付け入る隙を生じさせた。


――だけど、こっちは二人だ!


「今だっ!!」


イリーナが叫ぶと同時、わたくしは水差しを振りかぶってレンドゥルの頭部におもいっきり叩きつけた。


確かな手ごたえが前腕に伝わり、レンドゥルが衝撃にうめく。


「グオオッ!!」


しかし致命打には至らない、【爆破魔術】を発動せんと自由になっている手をこちらへと振りあげる。



わたくし達にはある考えがあった――。


黒騎士のあやつる【爆破魔術】は他者の体内を循環している魔力を起爆させる。


つまりは回避不能の爆発だ。


体内で起こる爆発から逃れる術はなく、どんな戦士だろうと敗北する危険性がある。


しかし、魔力の枯渇している私ならばどうだろう──。


無効なのではないか、そう仮定して挑んだ。



しかし残念ながら、そちらの読みは外れてしまったようだ。


――パンッ。と、小気味よい破裂音がして私の頭が弾けた。


頭部に釘を打ち付けられたような痛みを受け、つんのめって倒れる。


「ティアン!!」


イリーナが悲鳴をあげた。


弾けたのは魔力の欠片、魔術発動には不十分なほんのわずかな欠片の残留が破裂した。


爆破の無効化には失敗だ。


見込みの甘さは理解していた、それでも私たちはそのわずかな可能性にすがるほかに勝機を見いだせなかった。


五分の決闘では勝ち目はない、イリーナの実力だけでは黒騎士に太刀打ちできない。


「残念だったな!」


レンドゥルはそう言ってイリーナの顔面を拳で殴打した。


繰り返し、繰り返し、殴打する。


「痛い? 痛いかね? どうだ、痛いだろう?」


手をはなせばそれは死を意味する、イリーナは必死に腕にしがみつくけれど次第に拘束は緩む。


ついにレンドゥルは利き腕を引き抜くとサーベルで二度、彼女を突いた。


イリーナは両腕を犠牲にして急所をかばう、二撃ともが彼女の腕を貫通した。


痛みに後退する。


「くああああッ!!」


かろうじて命を取りとめたイリーナに向けて【爆破魔術】が放たれる。


炸裂音──。


イリーナの頭部が血を撒き散らし、体はまえのめりに崩れ落ちた。


レンドゥルは床に倒れ伏したイリーナにサーベルの切っ先を向け、その場で臨戦態勢を維持する。


静寂──。


乱闘のあと立っているのはたった一人、勝利を確信したレンドゥルは切っ先をイリーナからはずして笑う。


「ハハハハハハッ!! どうだね、楽しんでくれているかね!! 私は楽しいッ!! こんなにも充実したことは永らく無かった!! 今日はなんってすばらしいッ!」


奇跡よ起これ、この願い天に届けとレンドゥルが天を仰いで絶叫する。


「ああッ!! この時が、永遠につづいたならばっ!! 終わらない物語のように、ずっとずっと、おまえ達をいたぶりつづけていられたならばッ!! 私はどんなに幸福だろう!! この胸の高鳴りはどうだ!! これは青春だ!! 私は青春を取り戻しているぞ!!」


胸に置いた手を空へと突き上げる。



「生理的に無理ッ!!」


そう言ったのはイリーナ。


何事もなかったかのようにスクと立ち上がってレンドゥルの腹部を剣で貫いた。

 

「ヌゥオオオッ!!!」と、断末魔をあげ同時に彼女に反撃する。


イリーナは深追いせずに剣を引き抜くと、即座にレンドゥルの範囲から逃れた。


「なんッ……!! なんだなんだなんだ、なにが起きたッ!?」


油断を突かれたレンドゥルは驚きのあまり転倒、慌てて距離をとると膝を着いて臨戦態勢を維持する。


爆破の威力が足りなかったのか、そんな表情でイリーナを見上げている。



「おじいちゃんが青春を感じるのは勝手だけど、オカズにされるのはゴメンだよ」


そう言って剣をかまえる彼女は健在だ、威力が足りていないどころかまったくの無傷だった。


貫通されていた腕の傷も見当たらない。


レンドゥルは呟く。


「【治癒魔術】か……?」


【爆破魔術】の無効化には失敗した、しかしもうひとつ私たちには期待していたことがある。


そちらが本命、魔力循環の回復だ。


体内魔力に直接干渉する術を受けたとき、わたくしの魔力循環にどのような影響が出るのか──。


それこそがマハルトーに倒させず、みずから黒騎士と相対した本当の目的だった。


結果【爆破魔術】を受けた私の体はすさまじいいきおいで魔力の吸収を開始した。


血流をさまたげていた血栓を取り除いたかのように、魔力の循環をさまたげていた魔力の欠片が破裂、消滅したことで循環は再開した。


そして、脱水症状に水をあたえたかのように急速に魔力を吸収しはじめた。


湧きあがるエネルギーに襟足がくすぐったいほどだ。


「ちょちょっ、ティアン?! 敵の傷も癒えてるみたいなんだけどっ!!」


イリーナが貫いたはずのレンドゥルの傷がふさがっていく。


「ごめんなさい! 魔力が過剰に流れ込んできて調整ができないのよ!」


そんなやりとりも目的の達成にどこか嬉々とした響きを含んでいる。



意図せずして魔術が強化されている──。


イリーナの傷を触れずに癒したことにも驚いたけれど、わたくしの【治癒魔術】が一帯にまで及んでいる。


二年前に彼女を死の淵から救ったとき、わたくしは身の丈に合わない【再生魔術】を行使した。


そのときに無理やりこじ開けた結果、わたくしの魔力ポテンシャルは大きく広がっていたらしい。


その塩梅が把握できていないため魔術の暴走を引き起こしている。



「伊達にながらく絶食してなかったってことか……。すごいな、範囲内の怪我はみんな治っちゃうんじゃないか?」


イリーナがえぐり取られていた顔面の血をグイと拭うと、傷はきれいになくなっている。


「やったわイリーナ!」


「やったね、ティアン!」



黒騎士とのながい戦いを私たちはどう処理するべきだろう。


仲間たちの死をふくめて膨大な蹂躙を許した、全体でみれば一方的な損害を被ったとも取れる。


失ったものは大きい、勝利だなんて後味の良いものではない。


ただ、魔力循環の回復という一点で私たちは目的を達成することができた。



「さーて、あとは仲間たちが戻るまで粘るのみだ」


イリーナが剣を抜いて勝ち名乗りをあげた。


ここからは大戦士マハルトーが合流するまでの時間稼ぎ──。


いまの魔力があればそれも不可能ではないと思う、わたくしの【治癒魔術】は一帯の負傷をすべて治癒することができている。


「クッ!」


レンドゥルが魔術の発生源を潰そうと駆け出す。


「おっと」と、イリーナが割って入り抜きはなった剣で敵の攻撃を打ち払う。


体勢を崩しながらレンドゥルがイリーナに向かって手をかざす。


「爆ぜろぉ!!」


しかし【爆破魔術】は発動しない。


「……あれ、今度はそっちの魔力が枯渇しちゃった?」


イリーナの指摘はハズレ、正確には私の【治癒魔術】が【爆破魔術】を上回っている。


水流に火種をおとしても発火はしない。


「──ボクらの勝ちだ、黒騎士!」


イリーナが吠えた、けれどそれは強がりだ。


【治癒魔術】は時間稼ぎに有効ではあるけれど、一撃で即死に追い込まれない保証はない。


ましてやレンドゥルを倒せるわけではない。



「……前向きにとらえよう」


レンドゥルが呟いた、そして声にだして自らを説得しはじめる。


「──なにもここで終わらせてしまうことはない。楽しみが増えた、そう考えるべきだ。


生きていることが分かれば結構、付きまとって捕らえる機会をうかがおう。


引きつづき関係者を殺害してやろうか。そうた、決着をつけてしまうなんてもったいない。


再スタートだ、それでいいじゃないか」


ここで逃がせば、この男はこの先どれほどの脅威になるか分からない。


「逃がすもんか!」


あわてて踏み込んだイリーナの剣をレンドゥルは容易く捌いた、そして一撃を返す余裕を見せる。


裂傷は治癒するけれど問題はそこではない。


「キサマでは私を引き止めることはできないなぁ!」


わたくし達ではレンドゥルの逃走を食い止めることが不可能だということ。


「──さようなら、ごきげんよう、また後日。


そうだ、手始めにおまえ達の生存を公表してやろう、支持を得るためヴィレオンと結託して民衆をペテンにかけたと広めてやろう。


信頼を失墜させ、アシュハをかならず破滅に導いてやるぞ!」


──それだけはさせられない、なんとしても食い止めなければ!


「くっそ!!」


手首を切断されかけたイリーナは握力の回復が追いつかず武器を取り落としている。


だからといって私が追いかけて返り討ちにでもあえば、かろうじて優位を維持している魔術が途切れる。


捕らえられでもしたらそれこそ相手の思う壷だ。


みすみす見逃すことしかできない。


「さらばだ、愛しい玩具たちッ! さらなる悲劇をお楽しみにッ!」



レンドゥルが酒場の扉を開け放った──。


そして外に飛びした彼に大きな影が覆いかぶさる。


「──!?」


三人の視線が影の主に集中した。


それは出撃していたインガ族の戦士でも、ましてや酒場の主人や客でもない。


レンドゥルが忌々しげに叫ぶ。


「……お、オーヴィル・ランカスター!!」


扉の先にいたのは両手剣をふりあげた竜殺しだった。


オーヴィルが振り下ろした巨大な刃は有無を言わさず黒騎士レンドゥルを左右に両断した。


即死は治癒されない、黒騎士レンドゥルはそのまま絶命した。



わたくしとイリーナは呆然と立ちつくしている。


オーヴィルがこちらに気づく。


「おまえら無事かよ! 探したぜ!」


そして不機嫌な様子でのしのしと迫ってくる。


どれだけの距離を走って来たのだろう、呼吸荒く、肩を上下させ、汗で水浸しだ。


「久しぶり……」

「ご無沙汰しておりますわ……」


再会はじつに公開処刑前夜以来、三ヶ月ぶりだ。


「久しぶりっ、ゲハッ! じゃ、ねぇよっ! よくも俺を、ブハッ! おいていき、やがって……!


フゥ、フゥ……。自力で探すの大変だったし! 心細かったんだからなっ!」


体がどんなに大きく丈夫になっても、心は打たれ強くならないんだなぁといった感想を抱いた。



彼とはぐれたあとは人目を避けて行動しなくてはならなかった。


合流は困難を極め、わたくし達には時間がないこともありそのまま首都を出発したのだった。


ここへは『盗賊ギルド猫の手』を頼って辿り着いたのだろう。


息を切らしている姿から全力疾走してきたことがうかがえた。

 


「二人だけで黒騎士と対峙してるって聞いて危なっかしくてよ。


それでコイツが血まみれのサーベルをもって出てきたもんだから、おまえ達が殺されたんじゃないかってハラハラしたぜ」


それで問答無用の一刀両断だったのだ、わたくし達の身を案じて本気で怒ってくれたことは素直に嬉しい。


「それで首尾は?」


「たぶん、大成功」


オーヴィルの質問に答えながらイリーナは私に同意を求めた。


わたくしは二人に微笑んでみせる。


「二人とも本当にありがとう、わたくしはまだ人生を楽しむことができるようです」


こうしてハーデン以下による一連のアシュハ皇国乗っ取りに関するすべての事件は決着した。


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