第46話 懺悔


 支配する力。

 セルタの力をリックストンはそう評した。

 それはセルタの母と同じ力であり、フローラ達とは異なる力である。

 対象の嗜好、言動、行動パターン。

 それどろころか、理論上は物体の構成から存在そのものに至るまでを変質させることが可能な力。あの化け物達ですら例外ではない。セルタは化け物を変質させ、こうして生き延びているのだ。

「でも、なんでもできるわけじゃないんです。むしろ出来ないことばかり。私はお願いをするだけで聞いてもらえなければ何も出来ない。この子達も何度もお願いしてようやくいうことを聞いてくれた」

 お願い。

 それだけでこの化け物が思い通りに動いたと言う。人間ですらない、この化け物が。セルタの言葉を聞き届けたということだ。

 それは、つまり。


「私は、彼らの言葉がわかります」

 

 意思の疎通ができるということだ。

「言葉が、わかる?」

「はい。彼らは私達とは見た目も何もかもが違います。けれど、きちんとした意志を持っています。私達と同じように、個性だってある。なにより言葉も。だから、私は彼らにお願いできるんです」

「…そりゃ、すごい」

 それ以上言葉を続けられなかった。

 何を言えばいいのかもわからない。

 あの化け物と意志疎通ができる。なろほど、確かに特別な力だ。おれの手を握りしめているのも、おれに対してお願いをしているからか。

 死なないで、と。

「母はその力で多くの彼らを退けました。けれど、彼らと対話をするうちに変わっていった。いえ、変わらされたんです」

 一際強く手を握られた。

 恐れ。

 痛みをこらえる様に身を強張らせるセルタの感情が、握りしめられた手から伝わってくる。

「彼らには彼らの意志の他にもう一つ意志があります。それはとっても強くて、彼ら自身にも抑えきれない願い。母はこの願いに堪えられなかった」

「願いって、なんだよ?」

「この星を生かしたい」

「は?」


「この星を滅ぼす寸前まで追い込んだ、私達を滅ぼしたいという願いです」


 今度こそ言葉を失った。

 セルタの表情は真剣で、これ以上ないほど冷酷だった。

「母はその願いを拒みました。けれど彼らと意志を交わすうちに気付いたんです。自分自身が徐々に変えられていることに。それを私にだけは教えてくれました。だから、何かあれば頼むと母は私に託してくれました」

 それが事の顛末。

 その事実を知ったフローラは激昂。スティーブとリックストンが彼女を鎮め、フローラと彼女の母の力を解析した装置で彼女の記憶を弄った。

 それは完全なものではなかったため、セルタは隔離されることになった。

「リックストンは、父はなんと言ってましたか?」

「…セルタのお母さんが敵に乗っ取られて、力を無効化できる君に託したと。仕方なかったと言ってた」

「それも嘘。母は最期まで正気を保っていました」


「正気のまま、私達を滅ぼそうと考えていたんです。だから私は抵抗する母を殺しました。彼らを使って」


 それは、あまりにも淡々とした口調で。

 セルタは静かに涙を流した。

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