第45話 罪
被害は両足だけじゃなかった。
頭部の装甲は無事だったが、鎧の上半身はひどいとしか言えなかった。
アラームが聞こえないのは鎧の機能がほぼ停止していたからだ。ほぼ、と言ったのは完全に停止していないから。
鎧は、おれが生きるためにその機能の全て使用しているのだ。
痛みがないのも鎧のおかげ。
痛覚が戻れば、激痛でショック死する恐れがある。
「動いちゃだめ…! 動いたら死んじゃう…!」
セルタが必死なのはおれを気遣ってのことだ。その事実がなにより心に響く。
なにが、おれが救うだ。
結局、土壇場で何の役にも立たなくなった。
「大丈夫だ、大丈夫」
大丈夫。
同じ言葉をひたすら繰り返す。実際、痛みがないせいで実感があまり湧かなかった。
生命維持に問題なし。
上手く動くことが出来ないが死ぬことはない。
「大丈夫、大丈夫だ。セルタ。だから、泣くな」
「でも、でも、足が…!」
「そのうちまた生えてくる。だから泣くな」
自分でも訳が分からないことを言っている。けれど、今すべきことはセルタを泣き止ませることだ。戦うことが出来なくなったのだから、それに専念すればいい。
今のままここを出れば、フローラに殺される。
それは間違いないのだから。
「死んじゃだめ…っ! 絶対嫌…! もう、死ぬのなんて見たくない…!」
握りしめられた手が妙に暖かい。
それが全身に染みわたるように広がっていき、気分が楽になってきた。
ああ、そうか。
これがセルタの力なのだろう。
生命維持に全量を注いでいた鎧の機能が徐々にであるが回復している。エリスのそれよりも遅いが確かにセルタにも彼女達と同じ力があるのだ。
人を癒し、人を守り、人を超える力。
それを正しく使えさえすれば、どれだけ素晴らしいだろうか。
「なぁ、セルタ」
「…?」
「お母さんのこと、聞いたよ」
セルタは目を丸くした。
呆然としたまま、おれを見下ろしている。
ようやく涙が止まった。こんなに簡単だったなら、はじめからこうすればよかったか。
セルタの過去に踏み込む。
それだけでよかったんだから。
「…そう、聞いたんだ」
「フローラ達ももう知ってる」
「…そっか」
「フローラの記憶を消したのも、お前がリックストンに頼んだんだな」
セルタは静かに頷いた。
両瞼にまた涙が溜まっている。けれど、決して涙を零さないようにセルタは堪えている。
そんな資格はない、と彼女自身の目が語っていた。
「私、嘘をついてました」
「母は私が殺しました。だから、姉さんたちの記憶を消してもらったんです」
懺悔のように。
セルタは静かに語りだした。
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