第41話 母

                  *

 

 轟く爆発音と激しい閃光。

 黒雲を引き裂くように飛翔する戦闘機の群れ。放たれたミサイルが蜂の群れを爆風で吹き飛ばし、黒い巨人へも爆撃を開始する。

 砂塵が舞い、衝撃で大地が揺れる。いくらなんでもやりすぎかと思ったが、鎧のセンサーがそれを否定した。

 巨人の反応は一切変化なし。

 不自然に大きな両腕を翳し、爆撃を平然と堪えている。

「ちょっとパパ! あれなによ、あたし聞いてないんだけど!」

 縦横無尽に空を飛ぶ無数の戦闘機。

 フローラがそれを指さして文句を言うと、スティーブは鼻を鳴らした。

「俺も知らねえよ。ったく、あの馬鹿。すっとぼけたふりしやがって」

 無数の戦闘機はさらに数を増し、化け物共を粉砕していく。傍目にみれば明らかにこちらが優勢だったが、その結論すらも鎧は否定する。

 数が減っていない。どころか、ますます増えている。

 ミサイルが通用していないわけじゃない。確かに爆撃で反応は消失しているし、遠目に見ても被害は甚大である。それ以上の速さで増え続けているのだ。どこからか湧き出るように。

「…ほんとにとんでもねえな」

「フローラぁッ、あっぶないわよー!」

 と。

 上空からここに向かって落下している反応を感知。数は三つ。声の時点で誰なのかはすぐにわかったが、一つ気になる点があった。

 三つの内の一つ。

 その落下速度が明らかに早すぎる。その上、このままいけばおれに直撃するような気が。

「って、マジかッ!」

 跳ぶ。

 前方に滑り込んだ直後、さっきまで立っていた場所に向かって何かが落ちて来た。

 落下による衝撃と大地が割れる轟音が響く。

 センサーが捉えたなにかは地中深くまで沈み込み、生体反応が急速に落ち込んだ。見れば人一人分程度と思しき穴が空いている。どれだけの速度で落下したのか不明だが、おそらく落下した何かは地中でミンチのよう粉々になっている筈だ。

「ちっ」

 鎧で強化された聴覚が露骨な舌打ちを聞き取った。

 見れば、当然というかなんというか悪びれもしない顔でエリスがおれを見下ろしている。カレンはあらら、と言った感じの表情でおれを見ていた。

「テツオー、無事ー?」

 カレンは相変わらず力の抜けた声で呼びかけて来た。

 大声を出すのが面倒だったので手を振って、無事を伝える。カレンはゆっくりと降下し、エリスは苦々し気な表情のまま渋々と言った様子で降下してきた。

「死ねばいいのに」

「お前キャラ変わり過ぎだろ…」

「あんたにお前とか言われたくないし」

 ぺっと地面に向かってだが唾まで吐かれた。

 さすがに心が折れそうになる。ていうか、おれはこいつにここまでのことされるようなことをしたっけ。いや、したかもしんないけどさ。

 つい数時間前までの柔らかい笑顔はなんだったんだろう。

 泣きそう。

 そんなことをうじうじ考えていると、

『揃ったな』

 突然、空中にリックストンの顔が現れた。

 ホログラムなのか、なんなのか。とにかく不機嫌そうに眉根を寄せたリックストンはおれ達を一瞥した後、言葉を続けた。

『状況は把握しているな? なんとしてもセルタを救い出せ』

 以上だ、と言ってリックストンは口を閉ざした。

 こいつ、馬鹿なのか。

 思わず出かかった台詞を飲み込んだ。言いたいことは山ほどあり過ぎて、何から言っていいのかわからなかったから、とうのも理由の一つ。

 一番の理由は、この場の主役はおれじゃなかったからだ。


「聞きたいことがあるの」


 と、フローラは切り出した。

 リックストンは無言のまま彼女を見つめている。

 フローラは彼女らしくない、どこか迷いを浮かべながら言葉を続けた。


「お母さんが死んだときのこと」


    

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る