第40話 決戦


「なに当たり前のこと言ってんの、あんた」

 馬鹿なんじゃないのという視線を向けてくるフローラを無視して、あかつき丸を見る。相変わらず出鱈目な姿だな、と思った。でかすぎる両腕で倒立したまま動かない。

 そう、この状況でも動いていない。

 スティーブが上手くやってるか、あるいは今の攻防を見ていたか。

 どっちにしろ、フローラ達、3人の力が通用しないことを把握したはずだ。

 だからこそ、離脱の選択はない。

 ここで逃げれば、セルタを見失えばそれこそ打つ手がなくなる。ここで彼女を奪還しなければ、逃げ切ったとしてもフローラの力を無効化する化け物共に蹂躙されることになるのだ。

 ここで決めなければならない。

 セルタを救うことも、未到達点に至ることも。

 その決断を、リックストンができるのかどうか。

 スティーブに掛かっているのだ。おれには、この世界の人間でもないおれには決して踏み込めない領分。だから考えても仕方がない。おれはセルタを救うことだけを考えていればいい。

 まぁ、気局それもリックストンを含めた全員の力が必要なのだが。どうあがいても、おれ達が不利なのは変わらないんだから。

「こら」

 どごん、と腹部に衝撃が走った。

 鎧の防御を無視した打撃に悶絶する。この女、コツをつかみやがった…ッ!

 フローラはマジ切れで睨んでいる。

「無視すんな」

「…わかってるよ。ちょっと考えてただけだって」

「はぁ? 馬鹿が考えてなにかなるっての? 馬鹿じゃないの? あ、馬鹿だったか」

「お前にだけは言われたくねえな、この馬鹿」

「なんですって!」

「なんだよ」

 さすがにブチ切れて睨み付ける。至近距離でメンチを切ったが、意外に美少女だったことに気付いただけで腹の虫が収まらない。

 ここで手を出しても負けるとわかっていたので、そのまま続けたが、面倒になって来た。けれど、こいつが先に引かないのなら引くわけにはいかない。

 意地の張り合いである。

 こんな不毛なことと頭のどこかで思っていたが、見上げるフローラの表情がかけらも萎えていなかったので続けるしかなった。

 と。

「死ね」

 端的に。

 あまりに端的する言葉と聞き慣れた声に瞬時に退いた。呆気にとられたフローラの表情と直後に鳴り響いた警告音から逃れるために全力ダッシュ。

 背後で何度か爆発音と衝撃を感じた後、全力で前方に滑り込む。

 直後、周囲で断続的に爆発が起きた。

 舞い上がる砂塵、腹の底に響く衝撃と鼓膜を揺さぶる爆発音。

 鎧の防御性能がなければ確実に死んでいたであろう爆撃。鎧の警告音が止んでから、これを放った糞野郎を睨み付けた。

「なにしやがんだ! ぶっ殺すぞ、おっさんッ!」

 上空に浮かぶ人型のシルエット。

 顔面を覆っていたヴァイザーはなく、自己修復によって修復されたはずの鎧は未だにボロボロのままだ。

 それでも男の目は覇気に満ちている。


「やれるもんならやってみろ」


 スティーブ。

 まったく反省の色も見せず、スティーブはおれを見下ろしている。

 どうやら、作戦は成功したらしい。

 遠くで鉄の擦れる音が響く。

 鎧のセンサーが無数の飛行物を感知。けれど警告音はない。上空を猛スピードで通過し、無数の蜂の群れへと突っ込んでいく。

 ようやくだ。

 ようやく、最終決戦の始まりだ。

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