第35話 考えなしは問題しか起きない。 

青い光が迫ってきた。

そう思った時には青い光が全身を覆っていた。眩い光を放ち、さっきまでまとわりついていた緑の光を弾いている。

「カレン! なにしてるの!」

「ちょっと黙ってて。テツオに聞きたいことあるから」

「今はそんな状況じゃないでしょ!」

「いいから」

「よくない!」

 ばちりと火花が散った。

 比喩じゃない。緑の光と青の光が接している部分から文字通り火花が散っているのだ。無言で睨み合う二人の間で起き続け、ヴァイザー越しでも目が眩む。

 全身を拘束する力は消え、あれだけ喧しく響いていた警告音も消えた。どころか、自己修復が普段の倍以上の速度で進んでいく。

 改めて出鱈目具合を思い知る。

 鎧の修復が遅れていたのもやはりエリスのせいだったようだ。

「それで、テツオ。さっきの話だけど」

「ちょっと! あたしを無視しないでよ!」

「大勢死んだのって本当?」

 端的な言葉。

 それだけでカレンの質問の意図は理解できた。いや、カレン自身にはわかっていないはずだ。それでも、なにかが残っているのだろう。だから、カレンはおれに聞いてきたのだ。

 

――あの娘のこと、忘れないでやってほしい。それくらい、真剣だったと思うから。

 

 カレンも記憶を弄られている。

 あのやりとりも彼女の記憶に残っていないはずなのに。

「ああ、死んだ。お前らのクラスメートも。アンナもな」

「アンナ」

 カレンは噛みしめる様に呟いた。険しい表情なのはアンナを思い出せないからだろう。思い出せない自分自身を責めている。

「アンナは私の友達だったんだ?」

「ああ」

「そっか。そうなんだ」

 一瞬、カレンは表情を変えた。

 瞼を閉じて祈るような仕草をみせる。名も知らない友人の死を悼んだのだろう。全身を包む青い光が優しく輝いていた。

「決めた」

「何をよっ?」

「あたしはテツオに味方する」

「なっ―――」

 エリスが言葉を失った。

 呆けた表情でカレンを見つめ、次いで、おれを見た。

 いや、そんな目で見られても。

 一瞬視線が合ったが、すぐに正気に戻ったらしい。

 すさまじい形相でカレンをにらんだ。

「あ、あんた何考えてんのよ!」

「なにも」

「はぁっ?」

「なにも考えてないから、テツオの味方することにした」

 よろしくぅ、といつもの飄々とした態度で敬礼するカレン。それとは対照的に青い光があっというまに室内を満たし、緑の光を容赦なく駆逐する。

 室内にいた他の連中も息を吹き返し、おれ達を一瞥してから自分たちの仕事に戻ったようだった。この切り替えの早さはさすがである。騒いだところで何もできないことを十分に理解しているのだ。

 そう、台風や雷に騒いでもなにもできない。

 遭うか遭わないか。

 それだけの話なのだ。

 ただし。


「―――殺す」


 それに類する化け物に狙われることになれば話は別なんだけれども。

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